19.嫁イビリ駄目絶対
「破滅って……どうして?」
好奇心に抗えず聞いてしまう。
アルマ姉さんは予想していたようにスラスラと話した。
「離婚自体は表向きギリギリ穏便に済んだのよ。耳聡い連中に少し噂されるぐらいで」
「国王陛下の姉が出てきた時点で穏便じゃないと思うけれど……」
「シスタードロシアに叱られた元妻の親たちは娘に平謝りして、莫大な慰謝料を支払った結果元夫側は平民とほぼ変わらない暮らしに落ちぶれたそうよ」
「落ちぶれた、ね」
前世は完全な平民だったのでアルマ姉さんの落ちぶれたという言葉に少し複雑な気持ちになった。
「でも愛人は貧しくなっても彼を見限らず自分の少ない財産も慰謝料へと差し出した、二人は今度こそ結婚しようとした……けどね」
「上手くいかなかったってこと?」
「ええ姑が平民の愛人との結婚は許さないって騒いだ挙句、離婚理由は元妻の浮気だって周囲に言いふらして」
「何でそんなすぐばれる嘘を……愛人と結婚しようとしている時点でどっちが浮気かは丸分かりでしょうに」
「それがシスタードロシアの耳に入ったから大変、国中の教会の掲示板に離婚の真相が張り出されたって訳」
離婚理由を偽るってことはシスターの裁定を偽るってことだものね。
姉さんの言葉を聞きながら私はその光景を想像した。この国の識字率は高い。
国民の大半に姑は大嘘と嫁イビリを元夫は妻への冷遇と浮気を晒されたようなものだ。
「それで大恥をかいた元夫は自分の母を捨てた上に愛人と一緒に国を出て行ったのよ」
「母親の方を追い出しはしなかったのね」
「だけどその後の姑は息子を失い廃人のようになった挙句親戚に屋敷も少ない財産も奪われて病死したそうよ」
「それは……かなり悲惨ね」
「息子のことを溺愛していたらしいけれど、愛し方が間違っていたのね」
アルマ姉さんがそう結論付けた。私も同意見だった。
「この事件が広く知られたことで夫からの冷遇に悩む女性が教会に大勢押しかけた結果生まれたのが白い結婚制度なのよ」
「そんな理由があったのね。でもその制度って具体的にはどういうことなの?」
「夫婦になるつもりが無いことを隠し結婚した場合、離婚がスムーズに認められる上に慰謝料も請求出来るのよ」
「えっ、そんなのって……」
当たり前のことじゃないかと言おうとして今の自分が日本人ではないことを思い出す。
身分や男女での格差はそれなりにある国だ。ラウルのナチュラルに女性を見下す発言を思い出しムカムカした。
自分は女性には優しいですと言いたげなあの優男でも男は良いけど女は駄目と当たり前のように言い出すのだ。
「昔は妻に魅力が無いのが悪いとか浮気は男の甲斐性とか実家側さえ妻を責める場合があったそうだけど、教会の施策で大分改善されたらしいわ」
「それは本当に素晴らしいことね」
「ええ、慰謝料は妻個人に支払われるから実家に帰らず自立する女性もいるそうよ。最初の女性もそうしたらしいし」
「成程……そういう選択の為にもお金って必要ね」
「まあ貴方の場合はお金自体が必要というより相手に非があって離婚したっていう証拠として重要ね」
「確かに……ラウルにあることないこと言われそうだし」
ラウルをつい呼び捨てにしてしまったがアルマ姉さんは叱らなかった。
次からフェリクスも呼び捨てにしてしまおう。
「そうよ、それでマリアンの状況なら婚姻無効証明が手に入るかもしれないわ」
「婚姻無効証明?」
日本でもテレビか何かで聞いたことがある単語だ。でも未婚のまま死んだので詳しくは覚えていない。
私はアルマ姉さんの説明を待った。




