15.長兄と長姉登場
「だから言ったじゃない、絶対上手くいかないって!」
「まぁまぁアルマ姉さん、マリアンだって十分後悔してるんだから……」
「男連中はそうやっていつもこの娘を甘やかす! だからマリアンがこんなに夢見がちになっちゃったのよ!」
どうも、夢見がちなマリアンです。
フェリクスとのやり取りの後、私とシェリアは即日実家であるフェーヴル公爵家に帰った。
馬車はフェリクスに貸してと言って借りた。彼は「君の好きにすると良い」とだけ言った。
貴重品だけトランクに詰め込んで実家に戻った。
父母は領地視察がてら旅行中らしい。相変わらず仲の良い夫婦だ。
なので今公爵邸の実質の主人は長兄であるリンツ兄さんだ。
だから彼と配偶者のジョアンヌ義姉さんが屋敷に居るのは問題無いのだが。
「なんでアルマ姉さんまで居るのよ……」
「は? 連絡もせず突然出戻った人に言われたくないんだけど?」
小声で愚痴ったのをしっかり聞かれた上に正論で返され沈没する。
今いる場所は公爵邸の応接室。
シェリアは私の部屋で荷解きをしている為今傍に居ない。
椅子に座る私の対面に居るのは長男のリンツ兄さんと長女のアルマ姉さんだ。
どちらも私とは十歳以上離れているので小さい頃から二人は既に大人だった。
両親が不在な今、彼らが私の保護者のようなものだ。
「顔も身分も良くて三十になっても独身な人間はね、それだけの問題があるのよ」
「それはもう身に染みて痛感してます……」
「気付くのが遅いって言ってるの!」
「まぁまぁアルマ姉さん」
私を叱るアルマ姉さんをリンツ兄さんが宥める。見慣れた、そして懐かしい光景だ。
私は家に帰って来たんだとようやく実感する。ちょっと泣きたくなった。
ジョアンヌ義姉さんは、繊細な問題だからと席を外してくれている。その気遣いも嬉しかった。
「でも、フェリクス自身は悪い男じゃないし……あの弟も責任取って婿入りしたから大丈夫だと思ったんだけどなあ」
「そもそもリンツがアンベール伯爵をマリアンに紹介したのが間違いだったのよ!」
「いやだって十歳以上離れてるし、まさかマリアンがあそこまで惚れこむと思ってなかったんだよ……マリアン、ごめんな」
アルマ姉さんの矛先がリンツ兄さんに向けられる。
確かに私とフェリクスを引き合わせたのは彼だった。
フェリクスとリンツ兄さんは同じ年で、貴族学校の同級生で友人だった。
なのでフェリクスが出る剣技大会を熱心に応援していたのはリンツ兄さんで。
普段は剣なんて興味ないと断っていたのに、その時だけは兄の誘いに乗って剣技大会を観に行ったのだ。
そして戦うフェリクスの男らしさに胸をときめかせ一目惚れした。
すぐに長兄に紹介してくれとねだった。その後は絶対彼と結婚したいの一直線だった。
「いいの、当時の私がおかしかったのは事実だから」
「アンベール伯爵の態度もどうかと思うけど、突然公爵家から結婚申し込まれたら心の準備は出来ないと思うわ」
「それはそうだと思う」
私もその点には同意した。
「でも一年間毎日愛してないと言い続けるのもまともじゃないわよ、彼は何がしたかったのかしら」
「それは……好意が無いから夫婦になれないという意思表明とか?」
姉の疑問に私が考えながら答える。しかし納得されなかった。
「だったら愛していないから離婚してくれまで言うべきよ。私にはただの嫌がらせにしか思えない」
ストレートに言われ胸が少し痛んだ。
強引に結婚させられた不満を口にして私を傷つけたかったのかもしれない。
しかし伯爵家を出る前に会話したフェリクスの気弱な様子と自己肯定感の低さが気になるのも確かだった。
「でも立場上逆らえなくて結婚したならマリアンを真っ向から傷つける言葉を言うかな。愛が憎しみに変わる場合もあるのに」
「じゃあ他に理由があるって言うの? 元級友を庇いたいのはわかるけど、私は可愛い妹を傷つけた相手に手心を加える気はないわよ」
リンツ兄さんの疑問にアルマ姉さんが反論する。
最後の言葉に私は少し嬉しくなった。きついことも言うけれど優しい女性なのだ。
「アルマ姉さん……」
「という訳で私とリンツがアンベール伯爵と一度話すわ。いいわね、リンツ」
「それは構わないよ。でも姉さん、フェリクスと話す前に調べなきゃいけない人物がいるよね」
穏やかなリンツ兄さんの瞳が一瞬鋭い輝きを宿した。
「ラウル・アンベール。フェリクスの弟だね。離婚するにしてもまず彼を静かにさせる必要があると思う」
「それはそうね」
「……何よりマリアンに対する侮辱の数々を償って貰わないとね」
「そうね、二度と色男気取りが出来なくなるようにしましょう。世の女性たちの為に勘違い男は絶やさないとね」
リンツ兄さんとアルマ姉さんが優雅に微笑み合う。
性格が全然違う二人だが表情はそっくりだった。




