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他人の馴れ初めほど甘い物は無い①

「個体名ダルゴは、個体名エルレインの元に居ます。しばらく監視していましたが、動く気配がありませんでしたので、戻って参りました」

「ありがとう。ご苦労さん」


 みつるはマリオンをねぎらうと、客間のソファーに身を沈めて天井を見つめ、思索にふけった。

 とにかく考える事が多すぎる。

 エルレインの解呪。

 ダルゴの説得。

 小烏丸の強化。

 襲撃者の目的……等など。

 しかもそれが何らかの線で繋がっている気がするのだ。

 そしてその線を握っているのが、ダルゴと同じく”銀の腕”の有資格者で従兄弟のオスカル。

 今の所確証も証拠も無い。

 だが今回の一件が、”銀の腕”の後継者争いだと考えれば話としては成り立つ。

 しかし、そんなあからさまな手を使うだろうか? 部外者の光でさえ容易に想像がつくのだ。地元または親族達が気が付かない筈は無い。何か見落としていないかと考えてしまう。

 気が付いていたら、人差し指でこめかみをコツコツとつついていた。無意識のうち考えに没頭してしまったらしい。


「……取りあえずエルレインをどうにかしないとな」


 ダルゴを説得するにしてもしないにしても、エルレインにかけられた呪いを解かなくては話も出来ないし、命がかかっているのだから最優先事項だ。

 光はスマフォを取り出し、エリクサーやポーション類の在庫を確認する。

 その時になって光は気がついた。何故かマリオンが珍しく微笑んでいるのに。

 完璧な容貌をもつマリオンなだけに、無表情な時は人形っぽいが、こうして微笑んでいると美しくも愛らしい魅力的な女の子に見えてドキリとする。


「……どうしたんだよ? マリオン。えらく機嫌がいいじゃねぇか。珍しい」

「いえ。マスターに褒めて労っていただいたのは初めてでしたので」

「……そうだっけ?」


 思い返してみれば、この人形いつも下ネタしか口にしていないので、褒めたためしがないことに今更ながら気がつく。


「これが歓喜という感情なのですね。甘露甘露」


 そして額のクリスタルをピンク色に発光させながら、桃のような甘い吐息と体臭を放ち、光ににじり寄ってくる。

 思わず下半身に来る香りに光が戸惑っていると、この人形はとんでもないことを口にした。


「興奮を促す媚薬を散布しました。さぁ交わりましょうマスター。わたくしはいつでも準備万端です」

「ちょっと待て! 媚薬ってっ、お前!?」

「素直になれないマスターの為に、体内で調合した特製品です。わたくしは今理解しました、マスターはいわゆるツンデレだということを」

「俺がいつデレたよ!?」

「先程私の笑顔を見て、心拍数と表面温度の上昇を確認しました。これがデレでなくてなんと呼べば」

「……先輩?」


 真琴の声がゴゴゴという背景音付きで聞こえた気がした。


「いや、真琴っ。違うんだ!」

「マスター、股間をこんなにしても説得力皆無です」

「お前がばら撒いた媚薬のせいだろうがっ!」


 思わず女の子のように内股になって、股間を押さえる。

 だが、それも徒労に終わった。


「往生際が悪いです、マスター」


 何とマリオンは片手で光の両手首を掴んで引き上げ、もう一方の手でペロンと光の下着を引きずりおろす。


「言っておきますが、いつもの力は出せませんよ。筋肉弛緩剤も若干散布していますので」

「なんじゃっ、そらっ!?」


 どうりで力が入らないと思った。とんでもなく恐ろしい機能である。

 こうなれば救いの主は他には居ない。


「真琴っ! 見てないで助けてくれっ!!」


 見猿みざるのポーズを取って、指の隙間からこちらを見ていた真琴に救いを求めるが、マリオンは用意周到だった。


「個体名マコト、あなたもご一緒にいかがですか。正妻なのですから、初めては譲りますが」

「はえ? い、いいの?」

「乗るなよ!? お前も!」


 だが真琴もマリオンの媚薬に影響されたのか、頬を紅潮させて、興味深げにしげしげと光の股間を見つめたり、ツンツンつついたり、あまつさえ匂いまで嗅いでいる。


「でも、女の子からってのもロマンティックじゃないしなぁ……」


 しかし、いざとなると躊躇してしまう。もじもじしながらもそんな可愛いことを言ってきた。


「そ、そうそう。こういうのはお互いの気持ちが大切だし、助けてくれ」


 だが、マリオンは悪魔の如き提案をしてくる。


「では、こういうのはどうでしょう」

「……何考えてやがるお前」

「いえ。マスターと個体名マコトがまだ抵抗が有るのでしたら──」


 その提案に光は驚愕し、真琴は「その手があったか」となんと納得していた。


「というわけで早速」

「早速じゃねぇええ!? 真琴っ、お前も正気に返れっ!」

「……先輩」

「……なんだ」

「ホントのエッチの時は、先輩から求めて……ね?」


 そう言って、真琴が上に覆い被さり、甘く口づけをする。

 最早光に為す術は無かった。


「ではマスター。いただきます」

「~~~~っ!?!?」


 こうしてサバトじみた行為が展開されるのであった。


 南無。



※※※※※※




 一時間後


「……なんだ、兄弟ぇ。魂抜かれたようなツラしやがって」


 見舞いにとエルレインが入院している療養所に顔を出すなり、ダルゴからそう言われてしまった。


「……抜かれたのは精気だがな」


 とは口が裂けても言えない。


 マリオンはあの後十分満足したのか「甘美甘美。ご馳走様でした」と実にいい顔をしてたし、真琴は……まぁ、本人の名誉の為に詳しくは言わないが、今は疲れ果てて寝込んでいる。

 光は薬の影響がようやく抜け、こうして顔を出しに来たという次第であった。


「で、なんの用だよ」


 不機嫌そうに尋ねるダルゴは警戒心丸出しのブルドッグにも似ていた。迂闊に近寄れば噛まれかねない。そんな雰囲気を醸し出している。


「友達の見舞いに来るのに理由が?」


 だから、来て当然という顔でそう答える。


「隣に座っても?」

「……勝手にしろい」


 光はもう一つのベッドの傍らに有った椅子を引き出し、ダルゴの隣に腰掛ける。

 見ればダルゴはエルレインの手を握り締め、肩を震わせていた。


 しばらく沈黙が続く。


 その沈黙に耐えかねたのは、意外にもダルゴの方だった。


「なんか言ったらどうなんだよ」

「なにかって……なにを?」


 神経を逆なでするかのような光の台詞に、キッと顔を向けるが、光の表情があまりに穏やかだったので、その矛先をどう納めようかと再び顔を伏せる。

 わかっているのだ。ダルゴ自身八つ当たりの対象を求めているというのは。

 その対象になっても良いが、それは何の問題の解決にもならない。

 だから光はこう尋ねてみた。


「じゃぁさ、聞かせろよ」

「……何を」

「お前とエルレインの馴れ初め」


 それを聞いてダルゴは目を丸くした。


「だって、気になるじゃねぇかよ。人の恋バナってよ」

「……見かけだけかと思ったら、中身まで女みてぇな奴だな。お前ぇ」

「んだって、ドワーフとエルフの恋バナだぜ? 興味を持たねぇ方がおかしいって」


 それを聞いてダルゴの肩の震えが止まった。


「わーった。わかったよ。酒の肴にでもしやがれ」


 ダルゴはいっそサバサバとしたように語り始めた。


「もう、あれから十年になるんかなぁ……オイラがエルと出会ってから」


 ダルゴはエルレインの寝顔を見つめながら、とつとつと馴れ初めを話してくれたのだった。

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