表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/72

銀の腕の行方①

「んん~っ。ダァルゴォ……っ、そぉんな親の敵ぃいでも見ぃるのはぁあ、やぁめてほしぃいなぁあ? 仮にぃも、従兄弟じゃあないかぁ」


 オスカルと呼ばれた若いドワーフは、大仰にも両手を開いてわざとらしく天を仰ぐ。


「「従兄弟ぉ?」」


 みつる真琴まことは驚いた様にこの奇妙なドワーフを見つめた。

 確かにどこか似ている雰囲気はあるのだが、どこがと問われれば答えるのが難しい。

 地毛なのか染めているのか、髪の色は華やかな金髪だし、嫌味なくらい整えられた口髭と顎から細く長く編まれた顎髭は、いかにも洒落者でございという雰囲気を醸し出している。

 手足もドワーフらしく逞しく太いものであったが、突き出た腹の肉がそれを台無しにしていた。いかにも質実剛健といったダルゴとは全く逆に見えるのだ。


「そぉおれにしてぇも、よぉおかったねぇえ。賊に襲われぇたんだって? 心ぃん配したんだよぉお」


 だが、ダルゴの反応は冷ややかなものだった。


「何がでぇ。んなこと欠片も思っちゃいねぇくせによ。どうせ目的はじいちゃんなんだろ?」


 それを聞いてオスカルは「ああっ!」とわざとらしく手で目元を覆い、天を再び仰ぐ。いちいち芝居っ気の強い青年だった。


「むろぉん、おじいぃさまぁあの事も、心配だったさぁ。けどぉ、僕らは親類一族だろおお?」

「なにがだ、一族の恥さらしモンがよ」


 唾でも吐きそうな口調でダルゴがバッサリ切り捨てるが、オスカルは肩をすくめただけだった。


「僕ぁ僕なりにぃ、一族の為にぃよぉかれと思ってぇえやっていることさぁあ」


 そしてその目が三角形に吊り上がり、ダルゴをにらみつける。


「そぉれよぉりぃい、あぁれだけのぉ腕を持ちながらぁ、傭兵まがいのぉ放蕩を尽くしているぅ、君には言ぃわれたく無いねぇ」


 それだけ言い捨てると、オスカルは踵を返してその場から立ち去ろうとする。

 だが帰りざま、振り向いてとんでもない置き土産を落としていった。


「そおれにしても、たぁすかって良ぉかったねぇえ? あのエェルフゥー。まぁあ盾ぇ代わりにはぁ、ちょぉうどよぉかったぁけぇどぉ」


 それを聞いたダルゴの顔が怒りに引きつった。


「手前ぇがっ、エルの事を語るなぁああ!!」


 止める暇もればこそと、ダルゴは猛牛の如くオスカルに掴みかかる。

 だが、オスカルは上半身を軽く捻っただけでその手をかわし、同時に隙だらけのダルゴの足元をいとも簡単に払ってのけた。

 当然ダルゴは顔面から床にダイブする事になる。鈍い音を立てて倒れ伏した従兄弟を、オスカルは事もあろうかその頭を踏みつけた。


「ふんっ、頭ぁに血ぃいが昇ってるんじゃあね。とぉおんだ興ざめだよぉお」


 オスカルはひとしきりダルゴの頭をグリグリと踏みつけていたが、やがてそれも飽きたのか、横腹に蹴りを一つ入れて引き下がる。


「陣中ぅう見ぃ舞いぃのつもぉりだったけど、もぉいいやぁ。さよなら、ダァルゴォ」


 そう言って今度こそオスカルはその場を立ち去った。

 後には、一部始終を見ているしかなかった光達と、屈辱に震えるダルゴだけが残された。



※※※※※※



「全く、なんなの? あいつっ。オスカルって顔かってぇの」


 ねぇ? といいながら真琴はダルゴの手当をしていた。


「なんか訳ありみたいな感じだったけど……一族の恥ってのは穏やかじゃないな。お前ら一体何したんだよ?」


 光は立ち入った事をと思いながらもそう尋ねるが、ダルゴの口は重かった。


「……まぁ、無理に聞こうとは思わんけど、あんまり一人で抱え込むなよ?」

「……余計なお世話でぃ」


 ダルゴの返事は予想通りにべもない。


 そんな時だった。ダルゴの母、イルデが顔を出して来たのは。


「ダルゴ……またオスカル君と喧嘩して。昔はあんなに仲が良かったのに」

「うるせぇよ、お袋。変わったのはアイツだ。オイラじゃねぇ」

「あなたも十分変わったわよ、ダルゴ。一人前になっても髭も延ばさずまるで人間みたいに……」


 そこまで言って、光と視線が合い、慌てたように取り繕う。


「いえ、人間にも素敵なお髭の方も多いですものね。悪気はないのよ」


 なんかズレてるな、と思うがそれだけにしておいた。まぁ美的感覚というか、文化の違いだろう。光がとやかく言う話でもない。


「それにねエルレインの事も、お母さんは嫌ってるんじゃないのよ? エルフじゃなくてドワーフだったら本当に祝福してあげたいくらい」


 だが、それは地雷だった。


「……なんでエルがエルフだったら、駄目なんだよ。どうしてドワーフとエルフが結ばれちゃいけないんだ!」

「そ、それは……」


 戸惑うイルデを救うかのように、今度は別の人物が現れた。


「答えは簡単だ。わしらとエルフとでは寿命が違う。子供だって出来にくい」

「親父……っ」


 いつの間に来たのか、ダルゴの父ダインがのそりと扉をくぐる。


「でも、子供が出来る確率だってゼロじゃねぇ! オイラ知ってるぞっ、『ドゥエルフ』って子供が生まれることくらいな!」

「ドゥエルフ?」


 光は聞き慣れない単語に思わず反応してしまった。


「確かに生まれるかもしれんな。だがドゥエルフはミュール(ラバ)と一緒で一代限りの種族だ。ドワーフにしては長い、エルフにしては短い生を、孤独に苛まれながら生きていかなければならん。お前は我が子にそんな重荷を背負わせる気か?」


 淡々と言い聞かせるような口調に、ダルゴは肩を震わせていた。理屈ではわかっているのだろう。だが、感情が納得してはいないのは明白だった。


「それよりも、ダルゴ。父上……おじいさまがお呼びだ」

「じいちゃんが?」


 ダルゴが怪訝そうな顔をすると、ダインが悲痛な顔をして言葉を続ける。


「それと……お客人達も」


 言われて光と真琴達もまた、何事だろうと首を捻るのだった。



※※※※※※



「入れ……」


 ダインが扉をノックすると、弱々しくもどこか威厳のある声が返事となって聞こえて来る。


「失礼します、父上」


 ダインに次いでダルゴ、そして光達が部屋に入った。結構狭い上に天井も低いので、小柄な光でも若干背を屈めねばならない程だ。


「おう、よく帰ったな。ダルゴ」


 それを聞いて真琴が息を呑む気配がした。


「どうした? 真琴」

「あ、いえ……なんでもない」

「?」


 光が頭の上に疑問符を浮かべていると、ダルゴの祖父の声が聞こえてくる。


「おう……そうか。これはしたり……人間ヒューマンは暗闇を、見通す目を持っておらなんだな。ダイン灯りを。お客人には……不様なものをお見せするが、勘弁して欲しい」


 そしてダインが火打ち石らしいものを取り出し、カチカチとそれを弾くとやがて部屋に小さな明かりが灯る。

 そうしてベッドの上を見たとき、光も思わず声を上げそうになった。


「……はじめましてになるかな。わっしがダルゴの祖父。名をトーリン……現在の”銀の腕(ノルデンス)”だ」


 そこには禿頭の、そして雪よりも白い髭を生やした老ドワーフが居た。


「マスター。この老ドワーフ、生命エネルギー(オド)が」


 マリオンに言われなくても光だってわかる。

 顔色に生気が無い。眼窩は落ち窪み、唇は乾き、かつては逞しかったであろう右腕も、肉を失い骨と皮ばかりになってる。

 明らかに死相が出ていた。

 それだけならここまで驚きはしなかったであろう。

 光達が一番驚いたのは左腕だ。そこだけが銀色に輝き、往年の力強さを示すように若々しく隆起した筋肉を維持している。


「なんだ……これ」


 光は思わず口元に手を当てた。


「気味が……悪いかな? じゃが、これは……これこそが、わっしらヌゥーザの一族の象徴よ」


 そう言ってトーリンは、自らの左腕を誇らしげに撫でるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ