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再会、義父よ

「どうしたもんかね、こりゃ」


 みつるはドワーフの地下都市『ダンキル』の関所の前で思わぬ足止めを喰らっていた。


 とにかく待ち順番が長い。

 それも理由というのが、とにかく悪い意味で目立っていたためだ。


 なにせエルフ嫌いで有名なドワーフの都市に、若いエルフの娘を連れた、異国情緒溢れる武装を身に纏った若者とくれば好奇の視線を浴びるのもやむを得ないだろう。

 しかも連れ添いエルフ娘は、エルフでは珍しい黒髪をまるで少年のようにバッサリ切り、盾と鎧姿も勇ましく、どこぞの姫騎士のような出で立ちをしている。

 二人とも悪目立ちすることこの上無かった。


 無論この二人だけでは無い。ダルゴとエルレインは勿論、一番悪目立ちしているのが他ならぬマリオンだったからだ。

 なにせ青みがかった銀の髪などエルフ族にもめったに居ないし、額と豊かな胸の間に埋め込まれたクリスタル。

 衣装もどういう趣味をしているのか、ピッチリとした黒いレザーのジャケットとタイトなミニスカートを纏い、腕と脛に籠手と脚甲を装着している以外に武装らしき物は無い。

 これは遺跡から持ち出したマリオン専用の装備らしいのだが、それにしてもと思わざるを得なかった。


 そしてザクールと言えば出来るなら関わりたくないとばかりに気配を消しているし。


 なんにせよ目立つ一行ではあった。

 早速関所番のドワーフがなにやらこちらを指さして配下に指示を出しているし、先行きは思ったより困難そうだった。




※※※※※※




 そして悪い予感というものはよく当たる。

 それどころか最低の気分であった。


「んで? お前さんどこから来たんだ? 来訪の目的は? ああ、手形は持ってるんだろうな? ええ?」 


 関所番の管理官が確認する内容は他の人間と変わりが無かったが、言葉の中に苛立たしさというか、不審者を尋問するかのような響きをたっぷり含ませていて、こちらを不愉快にさせるには十分だった。


 しかも何故だか順番を後回しにされて今はもう深夜となっている。

 こちとら眠いわ腹は減るわ疲れるわでイライラしているというのに。

 しかもである。

 こんな時に当てになるはずのザクールもこの場には居ない。

 なんと全員が個室で(・・・・・・)尋問まがいの入都管理を受けていたのである。


 俺達一体何かしたか?


 そう考えると怒りすら覚えてきそうなのだった。


「俺は連邦王国の王都から来て、ここの有名な鍛治屋ヌゥーザの一族に、俺の武器を鍛え直してもらいに来た。以上! おわかりですか? 番兵さん」


 怒りの炎がくすぶっていたのか、こちらの態度も険があったが知ったことでは無い。

 当然相手の怒りの買ってしまったが、こちらから言わせればお互い様である。


「なんだ? 小娘。その態度は。ためにならんぞっ!」


 目の前のドワーフはいかにも陰湿な管理官ですと言わんばかりの容貌をしていて、蛇のような印象の男だった。わざわざ人の神経を逆なでするために生まれてきたとしか思えない。


「俺は、男だっ!? そっちこそ、その態度はなんだ! 黙って聞いてりゃ人を不審者扱いしやがって!!」


 光は逆鱗に触れられて激怒してしまい、思わずテーブルを力任せにぶっ叩く。

 ちなみに今の光の腕力は岩をも砕く代物だ。ぶ厚い樫の木のテーブルすらひとたまりもなく、部屋を揺るがす程の轟音立てて真っ二つに叩き割ってしまった。


「ドワーフ族は頑固だが信用おける種族って聞いてたんだがなっ! なんでぇネチネチとっ、腐ったスライムみたいな根性しやがってっ!! ドワーフ族の誇りはどこ行った! ああっ!?」

「く……腐った、スライム?」


 言った後にしまったと思ったが、もう遅いし後悔も無い。

 一方蛇のようなドワーフは青くなったり赤くなったりと忙しく顔色を変える。これで黄色になったら信号機だなと思いつつ、光の怒りはとどまることを知らなかった。


「おうよ! 剛健にして勇猛! だが信義に篤い! ドワーフ族ってそいう種族だって聞いたんだがな!! 蓋を開けてみればどうよ!? 陰険な根性腐れときたもんだ! それともダンキルのドワーフ族がそうなのか!? なら鼻で笑って、言いふらしてやらぁ!!」


 ぷつん。

 気のせいか何かが切れる音が聞こえた。


「え、え…………っ! 衛兵ぃいい!! すぐ来いっ!! 乱心者だぁあ! 出会えっ出会えぃいい!!」


 なんだか時代劇の殺陣シーンのような展開になってしまった。

 

 外に控えていた屈強なドワーフ兵が戦斧や戦鎚を手になだれ込んでくる。


 その時だった。


「どこ触ってんのさ! このドスケベ!!」

「防衛モードに移行。敵性ドワーフを排除します」

「なんばすっとかい! この筋肉ダルマがっ!!」


 まるで光の動きに呼応するように、三人娘の雄叫びが聞こえてきた。

 同時に男臭い雄叫びと絶叫が木霊する。


 手近なドワーフ兵を蹴り飛ばして個室のドアをくぐると、エルレインの魔法が、真琴の強打ラッシュが、そしてマリオンの『罪業の一撃(ソドム・インパクト)』がそれぞれ炸裂しドアを突き破っていた。


 死人、出てなきゃいいなと願いつつ、光もまた拳を構える。

 するとノシノシと熊だか怪獣だかわからないような足取りでドアから出てきた真琴達が、光向かって駆け寄って来た。


「先輩っ! ちょっと聞いてよっ!! ここのドワーフっ、身体検査だーなんて言って、あたしのおしり触ったんだよ! 許せると思う!?」


 それは許せん。事実なら。


「マスター。わたくしは胸を揉まれました。本物かなどと抜かしくさって」


 それはいかん。ただ過剰防衛は良くないが。


「ミツルーっ! ウチは白髪見付けたけんち言われて髪の毛抜かれたーっ! もうお嫁に行けんーっ!」


 切実だが、それって恩を仇で返すとか言わんか?


 三人の言い分はともかく、このままではまずい。


「……ようやくまとまりかけていたのに、どうしてそれを台無しにするような事をするんですか? あなた方は」

「「「のわっ!?」」」


 そんなことを考えていたら、いきなり背後からザクールに怒られてびっくりした。

 平気なのはマリオンだけで、鼻先に指を突き付けて、とうとうと説教をかます。


「個体名ザクール。まず気配を消さないで下さい。マスター達が驚くではありませんか」

「……癖のようなものでして。それよりどう収拾を付けるおつもりですか?」

「では防衛モードから殲滅モードに」

「……しなくて結構です」

 

 仕方が無いと言った様子でザクールは「宝剣を」をと光にささやく。

 身分を保障するものとして国王から預かった代物で、道中結構役に立ったが、ドワーフ相手に効果あるのかと思いつつ、光は国王から下賜された宝剣を取り出して鞘から抜いた。

 するとまばゆい輝きが周囲を圧倒する。

 ドワーフ達はそれを見て明らかに怯んだ。


「……ここにおわすお方は、連邦王国国主アドモス八世が名代にあられます。無用に弓引くは連邦王国とこの地下都市との共栄共存の約定を破るものとお心得下さい」


 ザクールのその言葉に明らかにドワーフ達から動揺の声が漏れる。

 もっともそれにへこたれない人物もいたが。


「ええい! そんなものまやかしに決まっている!! 早くっ、早くその化け物達をどうにかしろぉお!!」


 それは光を担当していた蛇のようなドワーフだった。

 化け物呼ばわりとは失敬な。

 光達の視線がその陰険ドワーフに集中する。


 そんな中、突如として朗々とよく響く声が周囲を支配した。


「みな、武器を引け。ダンキルのドワーフは卑怯者、痴れ者と言われたいのか」


 すると暗がりの中から身長こそ低いものの、がっしりした体軀に見事に伸ばし編まれた顎髭を蓄えた、一際ひときわ偉丈夫のドワーフが現れた。

 そしてその背後には、どういう訳か神妙な顔をしたダルゴが控えている。


「し、しかしダイン戦士長」

「しかしも案山子かかしも無い。武器を引けと言っている」


 そしてダイン戦士長と呼ばれたドワーフはゆっくりと光達の方に近付いてきた。

 

 正確には一人の前に。


「久方ぶりだな、エルレイン」


 慈しみさえ感じさせるその言葉に対する、エルレインの反応は奇妙なものだった。

 声を震わせ、畏れとも戸惑いともつかぬ響きを乗せてこう答える。


「お、お義父(とう)様」


 と。


 カランと、エルレインが杖を落とす音だけがその場に響き渡った。

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