新しい朝は来る
浄化されたライオネルの魂が天へ帰り、あるべき輪廻転生の輪へと戻っていく。
『倒しておいて、こう言うのもなんだが、達者でな』
『来世ではちゃんと恋愛もして、素敵なお嫁さん見付けてね』
光と真琴の二人、鬼神は朝焼けの空へ旅だっていく魂に祈りを捧げた。
奇矯な奴だし殺されそうにもなったが、どこか憎みきれない、そんな相手だったからだ。
それに元はと言えば、こちらが迷宮に押しかけてきたのが原因なわけだし、罪悪感の一つも抱こうというものだ。
二人とも来世というものがあるのかどうかわからない。だが、あって欲しいと願っているし、この魂が今度は幸せを掴めるようにと祈りたくもなった。
そんな二人に声をかけてくる者がいた。
「マスター。個体名マコト。無事ですかーっ」
マリオンだった。
鬼神の禍々しい外見にも臆すること無くトコトコと近付いてくる。
『おう、なんとかな……っとと』
そう返事をした時、鬼神の身体がぐらりと傾ぐ。
今になって、下半身が妙な開放感に包まれていることに気づいた。
身に覚えのある感覚だったので、真琴の方が気になる。
『おーい、真琴。大丈夫かー?』
『あ、あたしの方はなんとか。それより先輩?』
『あー……今回は俺が先だったみたいだな。そろそろ変身解くか』
そんな二人の会話を聞いて、マリオンが子猫のようにコテンと首を傾げる。
「お二人とも、一体なんの話をしているのですか」
『いやいや、こっちの話』
『そーそー。マリオンは気にしなくていいからね』
まさかどっちが先に快楽に達したかとか、言えるはずもない。
『「リクロス・アバター」』
二人は変身を解除して、元の姿に戻った。
「ちょ、ちょっと失礼」
変身を解くや否や、光はそそくさと二人から離れた木の影に隠れた。
そしてスカートをめくりあげ、下着をペロンと剥く。
「うわ……やっちまった」
妙に股間がねっちょりしてると思っていたら、やはり少年の白濁液がベッタリと下着を汚していた。
取りあえず下着を履き替えるかとパンツを脱ごうとしたら、
「マスター。なにをしているのですか」
いきなりマリオンが背後から現れ、光のパンツを奪い取った。
そしてそれをしげしげと見つめる。
「……マスター。この白濁とした粘液はもしや」
「いや、皆まで言うな。てか、返せ」
ところがマリオンは下着に匂いをクンクン嗅ぐと、あろう事か白濁液を指ですくってペロリと舐めた。
「なるほど、これが男性から分泌される良質なタンパク質なのですね。実に美味です」
「……は? お前何言ってんの?」
聞きかじりだが、青臭くて苦いという話ではなかったか。
「もっと味わいたいです。そう言えばここから分泌されるのですよね」
マリオンは光の前にかしずくと、スカートをペロンとめくりあげ、股間に手を伸ばす。
「たしかここに刺激を与えれば出てくると」
「牛乳じゃねぇんだからっ! そんなんでホイホイ出ねぇよ!」
「なるほど、もっと高次元の刺激が必要なのですね。例えば直接咥えるとか」
「せんでいい!?」
「ではどうしたら頂けるのでしょうか」
「なんでそこまでこだわるんだよ!?」
「なぜといわれましても、男性から分泌されるタンパク質が、私のエネルギー源ですから」
「淫魔か、お前は!?」
このヤンデレ人形、とんでもない仕様を持っていやがった。
思わず天をあおいで制作者のライオネルを恨む。
天に帰ったライオネルが、良い笑顔でサムズアップする幻想が見えた気がした。
※※※※※※
「……取りあえずエリクサーのおかげで回復傾向にあります」
ザクールの口調は事務的なものであったが、話す内容は光達を安堵させるのに十分なものだった。
現在ダルゴとエルレインは顔色を取り戻して安らかな寝息を立てている。心なしか髪の色も元に戻りつつあるようだ。
光は両頬にくっきり赤い手形を付けた顔で、安心したように微笑んだ。
ちなみに光の頬に手形をつけたお方は、真琴である。
あの後、騒がしいので様子を見に来てみたら、恋人が嫁を自称する人形にオトコノコを晒してしたのだから、まぁ当然の反応と言える。
挙げ句にはなぜかマリオンと光のパンツの取り合いにまで発展して、落ち着かせるのに苦労した。
「……それで、収穫はあの奇妙な生き人形だけですか?」
「いや、俺達が倒した巨大人形の残骸と、あとマリオンの試作品だな。こいつが20体以上。他にも制作資料とか、調べればあるんじゃねぇの?」
「……素晴らしい。早速国元へ連絡を。調査団の派遣を依頼しないと」
ザクールは思わぬ手柄話に珍しく有頂天になっている様子だった。めったに見せぬ笑みを口元に浮かべている。
ただ陰鬱そうな普段の雰囲気がそう思わせるのか、何となく人の悪い笑みになっていたが。
それにしても、と思う。
ライオネルは『神形機』のことを知っていた。カナン文明を滅ぼした邪神とも。
それに言っていた「あの方々」
光の中にいたシヴァは、異界に追放された神々が、その世界で力を蓄えて逆襲をかける準備をしていると言っていた。
もしライオネルが言っていた「あの方々」とやらが、自分達の世界から追放された神だとしたら、その神々はこの世界で今も力を蓄え続けていることになる。
どんな形で関わるかわかったものではないが、正直面倒臭い。
北欧神話のラグナロックじゃあるまいし、神々との戦いに巻き込まれて人間世界終了の片棒を担がされるのは、全力でお断りしたいところであった。
それくらいなら、この世界に骨を埋める覚悟で生きていった方がまだましである。
国王にスローライフを報酬の引き合いに出したのは半ば方便だったのだが、今では完全に本気になっていた。
元の世界に戻る方法を探しつつ、真琴と一緒にスローライフを楽しんでいこう。
「でもまずは黄金龍助けねぇとな」
ふと気が付くとダルゴが眼を覚ましていた。
「よぉ……兄弟ぇ……奴は?」
光は黙って微笑み、空を指さした。それを見て、ダルゴは察したらしい。
「そっか……勝ったか。凄ぇな、兄弟ぇは」
「そうでもねぇよ」
照れくさそうに鼻の下をこすって笑う。
「それよりよ、お前に相談があるんだが」
「なんでぇ、水臭ぇな。言ってみろい」
「いやな? あれどうしたもんかと思ってな」
「あれぇ?」
光が心底呆れましたと指さした方向には、なにやら言い争っている真琴とマリオンがいた。
「だ か ら っ! 先輩にはあたしって言う正妻がいるのっ! 二号も愛人も要りません!」
「そこをなんとか。なんでしたら性欲処理のラブドール扱いでも構いませんから。いやむしろそうして下さい。ご褒美です、はぁはぁ。許可してくれないと暗殺しますよ」
「自分が何口走っているかわかってる!? あんた!!」
てんやわんやである。
それどころかマリオンの聞いてもしょうが無い性癖まで明らかになって、頭痛と眩暈がしてきそうだった。
「あのぽんこつ。ダルゴんちでどうにかしてくれねぇ?」
「え? いやいや、兄弟ぇ。浮気は男の甲斐性っつーだろ? オイラは持って帰ってきたって事実さえあれば良いだけだし」
「ほー。浮気は男の甲斐性ちね。そげんこつば、考えちょったとかい。おまんさぁは」
「いやだって、男はたまには他の女を抱きたくな時がエルレイン!?」
「ちぃーとばっかい。向こうで話そうか? ダルゴ」
「いてててっ! 耳をひっぱるなってか、お前どこにそんな力があいたたっ!」
嫉妬に狂った女性は恐ろしい。
いやま、男もそうだろうが。
とにかく得るものが大きい冒険だったな、と今はしみじみ思う。
なんだかいらんモノまでくっついて来そうだが。
太陽の日差しが木漏れ日となって森に降り注ぐ。
命の欠片も見あたらないこの森も、今日ばかりは賑やかな朝を迎えていることを、光は妙に有り難いなと思うのであった。




