月下の人形劇④
状況は不利。
敵は巨大人形となって、無尽蔵ともいえる魔力を得ており、通常の攻撃ではダメージを与えても、すぐに回復されてしまう。
ほぼ唯一の対抗手段と言っても良い神刀『小烏丸』はその軌道を制限されているし、正攻法では勝ち目は薄そうだった。
一点。
敵リッチが核となっている胸部の一点を、得意の突き技で仕留めるしか、今思いつく手段は無い。
鬼神は一旦小烏丸を鞘に納め、拳を固めた。
『なるほど格闘戦か。だが、このミケーネスZの戦闘能力を侮ってもらっては困る。喰らうが良い! ネーブルファイヤァアーっ!!』
そう叫ぶと巨大人形の腹部から円筒状のパーツがせり上がり、そこから熱線が放たれた。
鬼神が俊敏にそれを避けると、背後にあった樹木が一瞬にして燃え上がり、あっという間に灰と化す。
冗談のようだが恐るべき威力だった。まともに食らえば只ではすまない。
『野郎っ、調子に乗るな!』
鬼神が木々を盾に巨大人形に向かって行くが、そこには敵の次なる攻撃が待っていた。
『やらせはせんよっ! ロストブリザァアードっ!!』
今度は口と思しき部分が開き、冷気の嵐が襲いかかる。鬼神はそれもかろうじてかわすが、今度は木々があっという間に凍り付き、氷の破片となって砕け散った。
『まったくどれもこれも、昭和のスーパーロボットかってぇの!』
絵面としては滑稽だが、その威力は半端なものでは無い。下手をすると、一撃もらっただけで致命傷にもなリかねなかった。
死霊術士としての魔術の腕も確かだし、正直攻めあぐねているというのが光の正直な感想だった。
そんな時、真琴がこそりと呟く。
『ねぇ先輩。これってもしかして使えるんじゃ』
『こんな冗談みたいに強烈な攻撃を?』
『ちょっと思いついたんだけど、取りあえず逃げ続けて。あのね……』
そんな会話を交わしつつも、鬼神は次々と襲いかかる攻撃を紙一重でかわしていく。
『たく、冗談は顔だけにしとけよ? この一人ロボ大戦が』
『ふははは! なんだかよくわからんが、褒め言葉として受け取っておこう!』
『んでも、当たらなきゃどうってことねぇよな?』
『なんだとうぅ!?』
巨大人形はその台詞に逆上し、次々と熱線と冷気の嵐を周囲に乱射するが、回避に専念する鬼神には一向に当たる気配が無かった。
『……そろそろ頃合いかな』
光のつぶやきに、巨大人形は何かを悟ったように嘲笑う。
『ふんっ! 大方こちらのエネルギー切れを狙っているのであろうが甘いわ! このミケーネスZっ、地脈からエネルギーを得ている、一種の半永久機関っ! そう簡単にへばると思うなっ!!』
『あ、そ。ところでよ、俺の故郷のことわざにこんなもんがあるんだが、知ってるか?』
『ああ?』
一体何を言おうとしているのかと、巨大人形が攻撃の手を一瞬緩めた時だった。
『「過ぎたるは及ばざるがごとし」ってな。周囲を見てみな』
『周囲だと。一体なにを。貴様の障害になる木々があるだけ──』
その時になって巨大人形は気が付いた。
周囲の木々、ことごとく灰や氷の結晶になっていることに。
それをやったのが、他でもない自分自身であった事に。
『まさか貴様最初から!?』
『それこそまさかだよ。確かにお前の戦闘力とやらは本物だったさ。現に手も足も出なかったからな。けど、お前の攻撃力を見て思いついたのさ』
そう言うと鬼神は腰の小烏丸を抜刀した。
『お前の攻撃力を活かして、邪魔な木々を片付けてもらおうってな!』
十分な空間を得た鬼神は、小烏丸を手に躍りかかる。
『今度はこっちの番だ!』
『させんっ! 最終必殺技っ、ムーンライト・ストラィイーク!!』
巨大人形が奇妙なポーズを極めると、額の三日月の飾りが輝いた。そこに凶悪なまでのエネルギーが宿る。
だが。
『遅い!』
鬼神の薙ぐような一太刀が、やすやすと首を両断する。
『あ、あれ?』
間抜けな声を上げ、頭部を失った巨大人形の動きが止まった。
『き、貴様っ! 必殺技のポーズの途中に攻撃とはっ! 戦いの美学をしらんのかっ!!』
『悪いが知ったこっちゃないなっ! こちとら命がかかってるんでねっ!』
もはやどちらが悪役かわからない会話を交わしながら、鬼神の膝蹴りが巨大人形の腹部の熱線砲を叩き潰す。
『くっ……まだまだぁあ!!』
追い詰められた巨大人形は、両腕から再び炎を上げるとその拳を飛翔させ、鬼神の背後から攻撃を試みた。
だが。
『バレバレだっつーの』
その攻撃は鬼神が身を屈める事によって易々とかわされる。それどころか。
『なぁっ!?』
自分が放った攻撃に自分がぶちのめされると言う間抜けな結果に終わった。
『げぶら!?』
『機能に頼りすぎなんだよ、お前は!』
自分の攻撃を喰らい、どうと仰向けになって倒れた巨大人形の上にまたがって、マウントを取った鬼神は、小烏丸を逆手に構え高々と振り上げた。
『これでトドメ!』
『ま、待て、待ってく……っ!』
だが無情にも鬼神の双眸が赤く輝き、小烏丸が振り下ろされて、巨大人形の核たるリッチ、ライオネルを貫く。
『ギャァアアア!?』
ライオネルは断末魔の絶叫を上げて、残された両足をバタつかせるが、それが張り出した木の根を潰し、そこから漏れ出た樹液に足が侵食され鋼鉄の表面を腐食していく。
『敵に回すには愉快な奴だったがな、苦労したのは黄金龍と戦った時以上かもしれねぇ。せめて成仏しな』
突き刺された胸部から、青く輝く粒子が立ち上り、苦悶に歪んだ表情を浮かべた淀んだ赤い輝きを浄化していった。
『あっ……あっ……あ……っ』
ライオネルは最期にまるで癒やされるような声をあげる。まるで天にでも昇りそうな切ない声だった。
『せ、せめて……最期は、童貞、捨てたかっ……』
いやもうそんな肉は無いだろうとツッコむ無粋な人間は、ここにはいない。
戦いの終わりには、朝日が待っていた。




