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死の王③

「ダルゴっ! エルレインっ! そこからすぐ離れろ!!」


 みつるは慌てて叫ぶが一瞬遅かった。

 ダルゴとエルレインが苦悶の表情を浮かべ、まるで首を掴まれて吊り上げられたように宙に浮かぶ。


『やれやれ、私としたことが。マリオンに霊子感知能力を持たせていたことを忘れておったわ』


 陰鬱な声と共に、姿を隠していたリッチがその姿を現す。そしてその両腕はダルゴとエルレインの首を掴まえ、高々と持ち上げていた。


『ふむ、手酷くやられたな。まぁいい。幸いこの手に生気の塊が有る。これを喰らって回復を図るとしようか?』


 すると二人の顔色がみるみる青白くなっていき、その髪も白や銀へと色が落ちていく。


 生気強奪エナジードレイン


 高位の死霊系が持つ特殊能力で、光達がやってきたゲームの中ではその死霊のレベルによって多くの経験値が奪われるという、極めて悪質な効果を持っていた。

 では、実際にそれをやられてみたら?

 答えは見ての通りだ。生気を吸われ場合によっては死に至るだろう。

 光はそれを目の当たりにして、焦燥感に駆られた。


「待て! 変態リッチっ!! ……取引といこうじゃないか」

「先輩!? なにいってんのさ!」


 だが真琴の言葉にも構わず、光は小烏丸を鞘に納めて手を挙げた。


『変態ではない! 私の名はライオネルだっ! ……それで、取引というのは?』


 興味を引かれたのか、ライオネルは二人を降ろすと、生気強奪エナジードレインを止め、眼窩に灯る赤い光を光の方にむける。


「俺の身体が欲しいんだろう? ならくれてやる。その代わり二人を離せ。いや、離してくれ」


 意を決した光の言葉に感じ入るものがあったのか、ライオネルは鷹揚に頷いてみせた。


『ほほう。随分と殊勝な心がけだな。良いぞ。その気概に免じてこの二人は離してやろうではないか』

「先輩っ馬鹿なこと言わないで!」

「個体名マコトに同意です。他人の為に自分をを投げ出すなど、理解に苦しみます」


 女二人が止めに入るが、光は聞く耳持たぬとばかりに近付いていく。


「先輩!!」


 真琴は近寄って光を引き留めようとするが、片手で制された。

 そしてその指先の僅かな動きを見て黙り込む。

 そして光はライオネルの前に立ち、その双眸を睨み付けた。


「さぁ、来てやったぜ。二人を離せ」

『ふん、よかろう』


 ライオネルはゴミでも捨てるように二人から手を離した。どさり、という鈍い音が響き渡る。

 そしてゆっくりとその指先を光の額に当てた。


『では覚悟はいいな?「精神破壊マインドブラスト」……っ』


 ライオネルの指先に魔力の輝きが灯った、その時。


「真琴! 今だ!!」


 光の叫びに真琴が素早く呼応する。


聖光ホーリーライトっ!」


 不浄を燃やす聖なる光が、突如としてライオネルの顔面に(・・・)激しく輝いた。


『グガァアアア!? お、おのれぃい!!』


 死霊たるライオネルにしてみれば堪ったものではないだろう。例えるなら、いきなり顔面を炎で焼かれたに等しいのだから。

 無論その隙を見逃す光ではない。

 身を屈めると、その体勢から居合いの一撃を繰り出した。


「抜刀術っ、焔舞ほむらまい!」


 斬っ!


 光の放った鋭い一撃がライオネルの胴を薙いだ。切り裂かれた部分から灼けた硫黄臭が流れる。


『グハァ!?』


 だが仕留めるまでには至らない。

 光は全身の筋肉を軋ませて続けて攻撃を放った。


「これで終わり!」


 光は膝の屈伸と刀を振り抜いた勢いを利用して、高々と飛び上がり、両手で小烏丸を構え、大きく振りかぶる。


「剛剣っ、兜割りぃいい!!」


 そして落下の勢いを利用して、ライオネルを頭から真っ二つに両断した。


『ギャアアアアア!?』


 耳を塞ぎたくなるような怨嗟の雄叫びが迷宮に木霊する。


『あ……あ……っ』


 ライオネルはガクリと膝をついて、遂にそのまま倒れ伏すのだった。


「ふぅ……っ。ひとまずこれでケリかな」


 成仏しろよとばかり、光は両手を合わせてライオネルの冥福を祈る。

 そこにどんとぶつかって来るものがいた。

 眼に一杯の涙を溜めた真琴である。


「この馬鹿っ! あんな無茶して、本当にあいつの操り人形になったら、どうする気だったの!?」

「いやだって、お前ちゃんと気づいてくれたじゃねぇか。俺の作戦によ」

「どういうことなのです。マスター」


 マリオンが訳がわからないという顔で尋ねてきた。


「別に? サイン出して奴が術をかける前に、真琴に聖光ホーリーライトで目くらましをかけてくれるように頼んだだけだよ。いや、上手くいって良かった」


 光はからからと笑っていたが、マリオンには信じられなかったようだ。


「馬鹿な。あの短時間、あの僅かな仕草でああも緻密な作戦が立てられるはずが」

「まぁそこの所は付き合いそれなりに長いから、お互考えることがわかるつーか」


 ふむ、と腕を組んでマリオンは考え込んでいた。彼女なりに思うところがあるのだろうか。


「もしや、それが『愛の力』というものですか」


 思わぬ台詞に光は吹き出した。


「いや、あの。そんな大層なもんじゃ無くて、お互い理解し合ってればって痛ぇ! 真琴何しやがる!?」


 いきなり脛を蹴られた光は涙目になって抗議するが、なぜか真琴は怒っているかのように口を尖らせてそっぽを向いている。


「お互いの行動パターンの相互理解が愛の力……という訳でも無い。奥が深いです。愛というのは」


 相変わらずマリオンは理屈として理解しようとしているようだ。

 理屈じゃないと言ってるんだがなぁ、と光は内心苦笑していたが、なにはともあれ、これにて取りあえずは一件落着、と呑気に構えていたら、未だ怨嗟の声が聞こえてくる。


『まだだ、まだ終わらんよ!』


 流石のしぶとさに、光は呆れかえった。


「お前も往生際が悪いね。さっさと成仏しろっての」


 ライオネルはバラバラに砕け散った骨を継ぎ合わせて必死になって立ち上がろうとする。だが、もはや戦う力が残されていないのは明白である。

 それでも必死になって足搔く。


『こ、こうなれば最後の手段っ! 出でよっ!「ミケーネス」っ!!』


 その言葉と共に地鳴りが起こった。


「な、なんだ!?」

「なんだかよくわからないけど、経験上ろくな事にならない気が……」


 光と真琴が戸惑っている間にも、地鳴りは強くなっていく。


『見るがいい! 我が最強の戦闘人形「ミケーネス」の威容を!!』


 マリオンが封じ込められていたアクリルケースの裏の壁が音を立てて開いていった。


「おい……冗談だろ?」


 光は呆れるような畏れるような口調で呟く。




 そこには見上げるほど巨大な鋼の人形が立っていた。

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