死の王②
「他愛も無いですね。この程度で私のマスターを名乗るとは」
リッチの頭部を粉砕したマリオンは、かすかに軽蔑の笑みを浮かべた。
「それに姑息な手段で戦って死の王を名乗るなど、千年早いです。生まれ変わって一昨日来やがってください」
リッチはぐらりと倒れこむように膝を付いた。
随分呆気ない最期だな。まぁ、愛する人形の手にかかるなら本望か。
などと勝手な感想を抱きながら光が立ち上がろうとした。だが。
『回れ回れ因果よ回れ。回り巡りて有るべき姿へ』
陰鬱な呪文が響き、フィルムを逆転させるかのようにリッチは立ち上がった。そして頭蓋が再構成される。
『ふむぅ……目覚めたばかり故にいささか手加減していたが、この手癖足癖の悪さはいただけんな。どれ、少しばかりお仕置きをせねばなぁ』
まとわりつくような声音に、マリオンが不愉快そうに眉をひそめ再び蹴りを放つと、リッチは片手でそれを易々と受け止め、足首を掴んで高々とつり上げた。
その拍子に貫頭衣の裾がペロリとめくり上がり、マリオンの下半身をさらけ出す。
『うほっ!? なかなか良い眺めではないか』
そしてその指をマリオンの秘所にのばそうとした。
『くぅーっ! 堪らんのう!!』
だがそこに、思わぬ救世主が現れる。
「女の子の大事な所にっ! 汚い手で触れるなぁっ!!」
真琴がアークサーベルを片手に突っ込んできたのだ。しかも完全に不意打ちだった。
リッチの脇腹を真琴のサーベルが貫き、ジュウッという硫黄が焦げるような匂いがして、リッチが苦痛にもがき苦しむ。
『がぁ!? し、しまったっ! 胸が貧相なので視界に入っておらなんだ!?』
「しっつれいね! 誰が貧乳だってぇえ!?」
いやツッコむところはそこじゃ無いだろう。と、一瞬光は思ったが、好機には違いない。
「はぁっ!」
立ち上がった反動を生かしての逆さ袈裟切り。これがリッチの核をかすめ、更に苦悶の叫びが上がる。
『くっ! おのれこうなればっ!」
リッチの姿が不意に消えたかと思うと、光達の周囲に次々とその姿が現れたのだ。
その数ざっと見積もって10数体。
『くはははははっ! これぞ分身の術法っ。最後の一体を倒すまでこの質量を伴った幻像は破れぬぞ。さて、その間我が攻撃に耐えられるかな?』
更にリッチが右腕を上げると、その周囲に鬼火が次々と灯っていく。
『餓鬼魂召喚っ! そら、マリオンとそこの女男以外の全てを食らいつくせ!』
「やらせないっ! 聖光っ!」
真琴が死霊系に継続的なダメージを与え続ける聖なる光を灯すと、餓鬼魂が苦しそうに揺らめく。そしてリッチの分身達も真夏の太陽を浴びたように身悶えした。
「先輩! やつらの足元見て!!」
「足元? ……そうか!」
光は真琴の意図する事がわかった。幻影なら「影」は出来ないはず。それさえ見極めれば。
そう思って周囲にいるリッチの足元を見たが、結果は想定外だった。
全員に影があるのだ。
『ば、馬鹿め。言ったであろうが。質量を持った幻像だと! その程度の小細工で見破れるものかよ!!』
勝ち誇るリッチに対してぐうの音も出ない。
こうなれば片っ端から斬っていくしかないと覚悟を決めた時だった。
「マスター。敵の本体の位置だけならわかります」
マリオンが思わぬ事を言い出した。
「どういうことだっ?」
「わたくしには霊子感知器が搭載されています。本体の位置だけならは感知可能ですが、わたくしの攻撃手段では手傷を負わせる事ができません。ここはマスターと不本意ながら個体名マコトの攻撃が有効かと」
「それだけでも十分だっ! 場所は!?」
「あそこです」
光明が見えたとばかり、光はマリオンが指さした場所に視線をうつす。
だが、その場所を確認して背筋を凍らせた。
そこには脅えてオロオロするダルゴとエルレインの姿があったのだ。
そしてマリオンの言葉を証明するように、ダルゴとエルレインの影の間に、第三の影がうつっていた。




