死の王①
「聖肌っ!」
真琴が叫ぶと全員の身体が淡く輝く。これは魔法耐性を上げる魔法で、魔術戦を得意とするリッチ相手には有効な一手だろう。
「はん! お人形相手がご趣味のリッチ様に、生身相手の楽しさを教えてやろうか!!」
今度は光が『戦士の咆哮』を使ってリッチの敵意をあおり、注意を引き付ける。これで初手は十分だ。
後はリッチの能力だが、死霊系は必ず『恐怖』の呪文を身に纏っている。ただ影響度が個体毎に異なっており、スケルトンやゾンビといった下級の者ならば、肝の据わった人間ならどうということはない。
だがリッチ程高位な死霊ともなると、その影響度は深刻な状態にまで達する。
現にダルゴやエルレインも今現在その影響下にあって、恐怖で震えている。正直戦力としては期待できない。
考えてみると、リッチと平気でどつき漫才をやっている自分達の方が異常なのである。
それよりも気になる事があった。このリッチこれだけの恐怖を撒き散らしながら、気配が無い。それどころか、まるですでにそこにいたかのように、突然現れている。
ザクールも見事な隠形術を備えていたが、このリッチはそれと同等の隠形術を持っていると考えた方が良さそうだ。
そして一番気になるマリオンは。
「マスターに対する攻撃的意志を確認。これより護衛モードに移行します」
再び両腕に魔方陣を纏い、リッチに向かって構えを取る。
『おお、愛しきマリオン。偽りのマスターに従うとは。大丈夫、そこの小僧の肉体を得て、真の夫婦としてここで暮らそう』
「お断りです、この骨。私はマスター以外愛しませんし愛せません」
いささかその愛とやらが重いし、病んでいるがな。と、光は内心ツッコんだが、敵に回らないのは正直助かる。
「さて、正直話を聞いたとき、お前には同情したんだがな。だが、この身体をくれてやるのもお断りだ。倒させてもらうぜ」
光は小烏丸を構えて、突っ込んで行った。狙うはリッチの胸部中央に輝く、おそらくは核。
「秘剣、『燕落とし』っ!」
神速の突きがリッチの胸に吸い込まれていった。だが。
『残念でしたぁああ!』
後ろから声が聞こえて来たかと思うと、背中に熱いものが突き刺さる感触が伝わってきた。
苦痛をこらえ振り向くと、リッチがケタケタと笑いながら、両手に青白く揺らめく火の玉をもてあそびながら立っている。
しかも火の玉にはもがき苦しむような顔が浮かんでは消えていた。
『我が「苦痛の顎」の味はいかがかな? それ、気力が衰えて来てはいないかね?』
「ぐっ……!」
光は意識を背中に集中させて、抗魔を試みる。
すると若干痛みが引き、背中に食らいついていた「何か」がうめき声を上げながら離れていった。
『ほう、大した意志力だ。普通なら痛みに狂うのだがな』
「はっ! その程度の攻撃で俺を止められるものか!」
『だが』
また後ろから声が聞こえてくる。
『私の実体を掴めなければ、相手にもなるまい?』
いつの間に!?
驚くいとまが有ればこそ、再び背中に何かが食らいついているような痛みが走った。
そこにマリオンが駆け込んでくる。
「マスター。今援護します」
そしてマリオンは拳を振り上げると、光の右側面を殴りつけた。
すると何かが砕けるような音が鳴り響き、光の背後に居たはずのリッチの姿が消えて、音がした方にその姿が現れる。
マリオンの拳はリッチの顎を完全に捕らえていた。
『が、がはっ!?』
「子供だましですね。幻術で仮初めの実体を作りあげ、自らは不可視の呪文を使ってこそこそ攻撃」
そしてマリオンは身に纏った貫頭衣を翻しながら距離をとり、続いて魔力の宿った回し蹴りを放った。
「輪廻に帰りなさい、この骨格標本」
マリオンの蹴りがリッチの側頭部をとらえる。
「『贖罪の一撃』っ」
まばゆい魔力の輝きと共に、リッチの頭蓋が砕け散った。




