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その名はマリオン②

「よ……っ!?」

「「「嫁ぇええええ!?」」」


 絶句するみつると、驚きの余り叫んでしまった他三人を尻目に、『マリオン』と名乗った人形はしれっと答えた。


「はい、わたくしはこの方の嫁となりました」


 そういうとマリオンは更にぐいぐいと身体を密着させ、豊かな胸を光に押し付ける。


 当然黙っていないのが、光の嫁を自認するこの少女だった。


「ちょっと待ちなさいよ! もう先輩にはあたしって言う奥さんがいるのっ! 第一なんで先輩の嫁なんて自称してんのさ!」


 その問いに首を傾げてマリオンは不思議そうに言った。


「眠っていた姫を起こすのは、王子様のキスでは。その後お互い恋に落ちていくのは当然の流れかと。そして夫婦となってめでたしめでたし、というのは常識ではありませんか」

「あんたの常識ってどうなってんのよっ!」


 真琴ががうがうと吠えるが、マリオンはそれを無視するかのようになにやらブツブツ呟いている。


「おかしい。このケースの場合、マスターもわたくしに好意と劣情を抱くはず。そして二人は深く愛し合う……ですよね。マスター」

「どんなケースを想定しているのか知らんが、それはねぇと思うぞ? 俺は」


 それを聞いてマリオンの眼が驚愕に見開かれた。


「そんな馬鹿な。この身体は黄金律と造物主の趣味によって作られたはず。この身体に欲情を抱かないとは、まさかマスターは不能だとか」

「んなワケあるかいっ!」


 光は頭が痛くなってきた。


「そもそもだ、人形のお前に恋愛感情なんてものが有るのか?」

「理論としては理解しています」

「ほらみろ。恋愛は理屈じゃねぇの。感情から来るモンなの。それを一方的に理屈で決めつけられたら堪ったもんじゃねぇよ」


 マリオンはそれを聞いても納得していないようだった。


「ふむ。ですが、愛情が無くとも嫁には成れるのでは。炊事に掃除洗濯から育児はては性欲処理まで」

「待て待て待て! 性欲処理は嫁の役目じゃねぇえ!? あれは愛の行為って言ってだな……」

「愛など粘膜が生み出した幻想では」

「だーっ! ともかくっ、俺にはもう恋人が居るの! だからお前を嫁にも恋人にもする気はねぇ! わかった!?」


 話はこれでお終いとばかり、光はマリオンを引き剥がし、真琴の側に行く。


 残されたマリオンは相変わらず無表情に光をみつめていたが、やがてなにか思いついたように手を打った。


「ではこうしましょう。私はいわゆる二号でかまいません。いかがでしょう」

「だから俺は真琴一筋だと」

「ならばめかけでは」

「意味は同じだ」

「では側室ならば」

「俺は貴族でも殿様でもねぇ」

「ではどうしたら」

「しるかっ!?」


 どうやらあの変態死の王(リッチ)、ろくな情報を入力して居ないらしい。

 なんだか余りにも男の都合によい女という感じなのだ。そんなマリオンが不憫で、リッチが勝手極まりなく思えて腹が立ってきた。


 一方マリオンは、まるで途方にくれたように黙って立っている。

 するとダルゴがつかつかと近寄ってきて、その腕を掴んだ。


「まぁ、こいつを持って帰りゃ、親父やじいちゃんもぐうの音も出ねぇだろうぜぇ。さっさと持ち帰……っ!?」


 ダルゴが言えたのはそこまでだった。マリオンが掴まれた腕を振りほどくと、ダルゴの樽のような身体が高々と舞い上がり、ビタンと愉快な音を立てて床に落下してきたのだ。


「自衛モード発動。わたくしの身体に許可無く触れることは許しません」


 そして視線を真琴の方に琥珀の瞳を向けると恐ろしいことを言い出した。


「ようは優先順位を上げるか、共に活動停止、心中すればいいわけですね」


 するとマリオンの両腕から魔方陣のような物が出現し、まるでギアのように回転する。


「自己保存の観点から心中は無し。となれば、個体名マコトを破壊してマスターの優先順位を上げることにしましょう」



 ヤンデレモード突入のお知らせだった。

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