人形回廊④
「連斬 『霞』っ!」
光は抜刀するや否や、神速の太刀筋を放つ。無数の斬撃は文字通り人形を八つ裂きにして、ついでに核となる死霊をも斬っていた。
だが、前にも後ろにも多くの人形、この迷宮の主が名付けた人形にして死霊『死霊人形』は雲霞の如く現れ、襲いかかってくる。
「がばいきつさーっ! どげんかならんとねっ!? この数はっ!!」
エルレインも体力の限界に来ているようで、魔法の冴えが無くなってきている。
一方無尽蔵かと思われるような、真琴の魔法と武技はまるで衰える事を知らないように、守りそして攻めていた。
意外に健闘しているのがダルゴで、真琴から『聖』属性の力を付与された戦斧を振るい、活路を切り開いている。
「あと少しだ! オイラの勘に間違いなけりゃ、もうすぐ出口だ。頑張れよ!」
「当てになるっちゃろうね!?」
「将来の旦那を信じなさいっと、ほい!」
そんな軽口を言いながら、また一体仕留めていく。
すでにダルゴはリッチの放っていた『恐怖』の影響からは逃れていた。
だがエルレインは。未だ影響下にあるようだ。先程から呪文の詠唱ミスが続いている。
光はそんなエルレインを庇いながら、小烏丸で人形に宿る死霊を浄化し、もう片手に村正を持ってただの人形と化したモノを叩き切っていた。
「ここだ」
やがて一行がやってきたのは一体の人形が飾られているところだった。この回廊では唯一稼働していない人形である。
「やっぱりな。こいつ見ても何も感じねぇ。こいつをどうにかすりゃ、この向こうが扉になっているはずでぇ」
「なんでそんなことわかるんだよ」
「兄弟ぇがやってただろ? 地図書いて怪しい空間見付けるって奴よ」
「んじゃ、ここがその出口の可能性が高いってわけ?」
真琴がエルレインをガードしながらまた一体浄化・破壊する。
「おうよ。ただ問題が……」
言われるまでも無い。かなりの数を倒した筈だが、人形達は未だ現れて来るのだ。
「あたしにまかせて! 『聖光』!!」
真琴が叫ぶと、迷宮が真昼の太陽の様に輝き、人形達が怯み始める。
「お次はこれ! 『聖域』!!」
真琴が床に手を叩き付けると、そこから球状の不可視の壁が現れ、人業達を押しやっていった。
「よし。これで10分は保つわね。ダルゴ君、今のうちに罠と鍵の解除お願い」
「お、おう……」
真琴の使った魔法は概ね初期から中期にかけて取得するものである。ただ、レベルが上がるとその効果も上昇すると言う特性を持っている。
これだけの死霊を抑え込む者など、恐らくこの世界にはそうそういないだろう。
ダルゴが驚くのは無理もなかった。
「ほら、ぼうっとしてない。罠はダルゴ君が頼りなんだからね?」
言われて慌てて取り組み始める。
「動くのは腕と足だけ、か。ってことは腕と足を動かして、ポーズをとらせればいいんかよ」
そう言いながら、ダルゴは慎重に人形の手足を動かしていく。
最初は足を若干交差させ、両腕で胸と秘所を隠すようなポーズを取ってみるが何もおきない。
あの変態リッチのことだ。多分だがまともな格好をさせ、解錠しているとは思えなかった。
「大体この手足って、どこまで動くんだろうな?」
「それを今から確かめてみるさな」
そして光の言葉にダルゴは改めて人形の四肢を動かす。
するとある位置で『カチリ」という微かな音が聞こえてきた。
「よし、こいつをヒントにやってみるかねぇ」
「そんなのんびりした時間、ないよ。もう5分切ってる」
「げ!? マジかよっ!」
真琴の言葉に慌てたダルゴが急いで人形の手足を動かす。だが、反応は無かった。
「こ、こうか? こうか!?」
徐々に光りが減じていき、障壁もじわじわと破られつつもダルゴは必死に足掻く。
「落ち着け! 未だ時間はある!」
そう叱咤激励して、光は神刀と妖刀を構えた。
そしてついに呪文の効果が切れる。
ここぞとばかり死霊人形他達が殺到して来た。
「やらせるか! 真琴っ、二人のことは頼んだぞ!!」
そう言うや否や、光は人形達の群れに飛び込んでいく。
時間稼ぎとは言え、余りに分が悪い賭けであることを承知して。




