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喧嘩するほど仲が良い②

 お食事は何にしましょうか? と給仕の娘から問われた時に男二人が揃って注文したのは「「取り敢えず肉」」であった。

 そして何の肉にするかしばし喧々囂々《けんけんごうごう》としていたが、店のおすすめが子羊の肉(ラム)と言うことで、子羊のソテーにシチュー。あとは焼きたてのパンと一見簡素だが、結構なご馳走を味わう事になった。


 無論割り勘で。


 なお、ザクールは相席するのは畏れ多いと抜かして、一人カウンター席で酒を飲んでいる。

 しかし、ただ飲んだくれているのか、道中の情報を得ているのか、しきりに隣の客と話していたし、距離もみつる達をさりげなく監視できるポジションにいるのは流石といったところだろうか。

「一緒にされたくない」というのが本音かもしれないが。


「それで? 何をどこからどこまで聞きたいんだよ」


 光が子羊のソテーに食らいつきながら、ダルゴに向かって面倒臭そうに尋ねると、ドワーフの少年は鼻息も荒く詰め寄ってきた。


「んなモン決まってるじゃねーかよ。お宝に

なりそうなネタ、全部吐けや」

「ねぇよ。そんなモン」


 実際の話、光は黄金龍『デュラントー』に取り憑いている怨霊らしきモノを退治したいだけで、特に見返りは期待していない。

 国王には褒美として「スローライフの援助を」と言ったが、半分はただの建前であった。

 そもそも動機がゲーマー根性の成せる業というのか、困難なクエストだと燃えるクチで、その達成感を味わいたいと言うのが理由の一つ。残りはまぁ、口に出すのも照れくさいが、黄金龍を苦しみから助けたいというのが大きな理由だった。

 

 ゆえにダルゴには悪いが、そういう尋ねられ方をされても、答えようが無いというのが率直な理由だったのだ。

 無論それでドワーフの少年が納得しようも無かった。


「嘘こけや。そんな業物わざもの持ってて、ヌゥーザ一族(いちぞく)に更に鍛え直して貰おうなんざ、まともな相手を相手にしてんじゃねぇって事くらい、オイラにゃお見通しよぉ」

「業物? って俺の刀の事か?」

「カタナってのか。その妙に長いサーベル」


 ダルゴはパンをかじりながら、しげしげと光の「村正《MURAMASA》」に熱い視線を送りながら、手を伸ばそうとする。

 光はそれを邪険に払いながら、ジロリとダルゴを睨んだ。


「あんまり馴れ馴れしく俺の刀に触るんじゃねぇ。迂闊に『村正こいつ』に触ると呪われるぞ?」


 実際、ゲーム的効果として村正を装備していると攻撃力が格段にアップするのと同時に、防御力が低下してしまうのである。

 そのバッドステータスを無視して余りある効果が有るのも事実だが、ただでさえ紙装甲と名高い侍にはキツい物が有るのも事実だ。

 故に「ヴィクトーニア・サガ」のプレイヤー達からは、この効果から「村正の呪い」として事実上の呪いのアイテムとして認定されている。

 事実、素人目からでも分かるほど、妖気というか『魔』属性のオーラがだだ漏れで、目立つ武装には違いなかった。

 しかし、村正は光がゲットして以来強化に強化を重ねているので、データ的にはこれ以上強化のしようが無い。


「そんな物騒なモン、ヌゥーザの連中に鍛え直させるつもりなのかよ!?」

「俺が強化して欲しいのは、また別のモンだよ」


 驚いているのか呆れているのか、それとも怒っているのか分かり辛いダルゴの悲鳴をよそに、光はスマートフォンを操作して、装備を変更する(・・・・・・・)

 すると村正が消え、白い鞘の刀が現れた。


「今なんばしたと!?」


 それを見て、今度はエルレインが九州弁のような訛りのエルフ語で叫ぶ。

 まぁ無理もないだろう。というか迂闊だった。


「あー、こいつはな、その、ウチの国で作られたマジックアイムみたいなモンだ」

「ちょっと見せて」


 今度はエルレインが光の持ったスマフォに手を伸ばすが、そうはいくかと慌ててポーチに収める。


「ケチーっ」

 

 なんともカップルそろって自分の好奇心に遠慮が無い。光が呆れたようにため息を漏らしたら、真琴まことが人の良い事を言い出した。


「まぁ、いいじゃん。見せるくらいなら、別に。はい、エルレイン。あたしのを見せてあげる」

「良かと? わーい! ありがとね、マコトっ!」


 そしてエルフ娘二人はあーでもないこーでもないとスマフォ談義に花を咲かせている。

 んでもって男はというと。


「下手に扱って、折るんじゃねーぞ」

「わかってらい。トーシロ扱いするな」


 無論少々のことで折れるものでは無いのだが、何となく憎まれ口の一つも叩いてみたくなる。

 それでもダルゴは注意深くその白い刀──『小烏丸』を手に取り、慎重に鞘から抜いた。


「へぇ……こいつは」

「分かるか」


 ダルゴはゴクリと唾を飲み込み、その刀身に見入っている。

 実際モデルになった『小烏丸』の分類は『太刀』である。刀身の反りも刀とは異なり、扱いも実は似て否なるものなのだが、ゲーム上では同じく刀とされている。ただ面白い特徴があった。

 切っ先が両刃になっており、刺突技と併用するとダメージがアップするというもので、刺突系の『武技アーツ』を持つ者に好評だったのだ。

 また、その実際の歴史的経緯からイメージを受け、分類は村正とは逆に『聖』属性を持つ、侍が持ちうる中では唯一とも言って良い対死霊系武装として設定されている。


「……こいつはこいつで、結構な業物だけど、これを鍛え直すって? こいつの切れ味で不十分な相手をする気かよ?」

「ああ。相手は『怨霊』だからな。それも飛び切り強力な」

「オンリョウ……ねぇ。それなら神殿の坊さんの援助頼んだ方が良くねぇ?」

「言い方は悪いが、神聖魔法の腕前だけなら、真琴の方が上だ。それでも足りねぇんだよ」


 はぁーとダルゴは呆れとも感心とも取れる深いため息を漏らすのだった。


「神聖魔法使うエルフってだけでも珍しいのに、確かにあの腕前は大司教様クラスだったもんな。東の方にはそんな奴がゴロゴロいんの?」

「知らん」


 そう言ってパンを噛み千切る。いささか無愛想だったかなと思うが、別段愛想を振りまくような相手でも無い。

 だが、ダルゴはひとしきり小烏丸を堪能すると、あっさり返して面白い提案をしてきた。


「つまり、お前らは何だか事情があって、そのオンリョウを倒したい訳だよな?」

「それがどうした」

「オンリョウにはちと劣るけど、ここから四日ほど行った場所に、面白い噂の古代遺跡があるんだよ」

「面白い噂?」


 なんだろうとつい興味を引かれた。それが顔に出ていたのだろう。ダルゴはしてやったりといった笑みを浮かべて、とんでもない情報を提供して来た。


「そこに出る(・・)んだってよ」

「出るって、死霊系?」

「ただの死霊系じゃねぇぞ。聞いて驚け相手は………」


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。


「相手は『死の王』──リッチだ」

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