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袖振り合うも多生の縁②

「で、お前一体何モンなわけよ? 三つ目の種族なんて上位魔族くらいしか知らんけど、お前、魔族の血でも引いてるん?」


 血に塗れた戦斧を突き付けている少年は、光よりも小柄だった。下手をすると小柄な女性以下の身長しか持ち合わせていない。

 だが、声は骨太で男らしく、戦斧を構えるその腕も、大地を踏むその足も、明らかにみつるよりも二回りは太かった。

 そしてその顔立ちも、光達と同年代に見える。ただ不精者なのか、口髭と顎髭をうっすらと生やしていた。

 しかし、癖の強そうな髪は短くまとめられ、清潔な印象を受ける。

 屈強短躯とでも言うのだろうか。そんな言葉が似合う少年であった。


 光が破壊衝動も忘れ、呆気に取られていると、少年は「まぁいいか」と言いつつ戦斧を振り上げる。


「なんかヤバそうな感じだし、一応()っておくか」


 などと物騒な事を言い出し、なんの躊躇も無く、まるで餅でも突くように「ほいっ」と戦斧を振り下ろす。


 金属と金属が激しくぶつかり合う音が鳴り響いた。


 そこで光が見たものは、盾を両手で構えて戦斧の一撃を防いだ真琴まことの姿だった。


「へぇ……オイラの一撃を防ぐんだ。エルフの姉ちゃん」

「先輩は……やらせないっ」


 真琴は力の限り踏ん張ると、少年の戦斧を押しのけた。少年はたたらを踏んで体勢を崩す。

 そこに真琴は盾を鈍器代わりに使って、強打ラッシュをかけようとした。

 だが、それはかなわなかった。


『風よ 疾く 疾く駆けよ 駆け抜けて その力もて壁となれ』


 またもや美しい声が響き渡り、突風が壁となって真琴と少年の間に立ち塞がる。


 そして、真琴と少年が見やった視線の先に立っていたのは、美しい少女だった。


 背は高く、下手をすると光よりも高身長だった。そのわりに身体は起伏に乏しく、まるでしなやかな柳を思わせる肢体をしている。

 長い髪は後ろで編んでおり、流れる金の様だ。

 なにより、長く尖った耳に神秘的なみどりの瞳。


 その少女はしずしずと歩いてきて、手に持った杖を振り上げると。


 ポコン


 まるで間抜けな音が響く様な勢いで、小柄な少年を殴る。

 そして、すぅ……っと息を吸ったかと思うと、一気呵成にしゃべり出した。


「なんば考えちょるとねっ、あんたはっ! なんもいきなり殺すこともなかろうもん!!」

「でもよぅ、エル」

「デモもイモも無か! 何遍言うたら分かるとね!? こん、ふうけもん(馬鹿者)がっ!」


 長身の少女が見かけによらぬ勢いで、がうがうと少年を責め立てる。

 それに対して少年は、バツが悪そうに頭を搔くだけであった。


 そうしてひとしきりしゃべり終わったかと思うと、くるりと真琴の方に向き直り、ぺこりと頭を下げた。


「ごめんねぇ。ウチのふうけもん(馬鹿者)がいきなり。おまんさぁ(あなた)の旦那さぁは大丈夫ね?」


 それを聞いて、真琴はポリポリと困ったように頬を搔き、「あー」だの「うー」だのと言って、返事を躊躇っている様子である。

 そしてようやく出た台詞がこれであった。


「……ごめん。貴女の言葉、なまりが強くて、よく分かんない」


 それを聞いて、少女の端正な顔が驚愕に歪み、手から杖を落としてぐらりと身体をよろめかせた。


「そ、そげん、こつが……っ! ウチ共用エルフ語(シルヴァン)ば話しよっとけ(てるのに)。おまんさぁ、ほんなごつ(本当に)エルフね?」

「いや、九州弁で話されてもなぁ~って」

「キューシューち、なんね? そい(それ)は。国か地方の名前?」

「うん、まぁそんなとこ。あたしの国の南にある地方なんだけどね」

「ウチの森。クージュじゃみんなこげん話し方ばってんがねぇ。そげん似ちょると?」

「うんうん、似てる似てる」


 そんなかしましい二人の少女の会話に、少年が恐る恐る口を出す。


「ところでエルよぅ……」

「なんね、せからしか(うるさい)ね。聞いてやっけん、言うてみんしゃい」

エルフ語(シルヴァン)で会話すんの止めてくんねぇ? オイラも周りの連中も、聞いてて殆どわかんねぇよ」


 それを聞いてエルと呼ばれた少は「むぅ」と頬を膨らませて考え込むが、一呼吸したあと口調を改めた。


「コレでイイですカ? ワタシ大陸共用語(コモン)、にがテデスけど」

「てかよぉ。共用語もまともに話せないで、よく森を出ようなんて思ったよな? お前」

「ウルさいデス。ホトイてくだサイ」


 ぷいとそっぽを向いたその様がなんだか子供っぽくて、真琴はもうすっかり毒気を抜かれ、忍び笑いを立てていた。


 そして殺されかけた光はというと、徐々に元の姿を取り戻し、奇妙な二人組を呆気にとられて見つめ続けるのだった。

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