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第6章ー1 様々な別れ

最終章の第6章になります。

第5章の終わりからは、2年程、時が流れています。

「3人目ができたみたいです」

「嬉しいけど、困ったな」

 プリチャの言葉に、上里松一はそう返さざるを得ない。

 

 正道が産まれて2年程が経ち、今年こそは張娃を正室に迎えよう、と考えていた矢先だった。

 この間、以前よりも筆まめになって、松一は張娃と手紙のやり取りをした。

 その手紙のやり取りで、上里屋の経営が完全に軌道に乗って落ち着いたこと、シャム王国と日本との間で攻守同盟が締結され、日本から軍隊が派遣されることになり、安全性が高まったこと。

 そうしたことから、今年こそ正室に張娃を迎える、と先日、手紙を張娃に送ったばかりだった。


 そして、今年こそは張娃を正室に迎えて結婚しよう、と松一が準備を進めている最中に、それこそ約3年前と同様、プリチャは松一の子を妊娠してしまったのだ。

 とはいえ、以前と違うことがある。

 大人びた張娃が覚悟を固めたのだ。

 不本意ですが、プリチャが私を正室と立てるのならば、プリチャとの同居を私は受け入れます、と手紙のやり取りを松一とする内に、張娃は書くようになっていた。


 だから、以前と状況が違うと言えば違うのだが。

 今度は松一の方が、儘ならない状況に陥っていた。

 本来の所属である皇軍、大日本帝国海軍の大尉として軍務に復帰することに、松一はなったのだ。


 これは様々な要因が引き起こした事態だった。

 まず、この世界に赴いた多くの艦船整備が困難になる一方に陥っているという要因があった。

 この世界に工作艦「明石」が艦隊と共に赴いており、更にそれに乗艦していた技術者等もいるとはいえ。

 そもそもの工業基盤に格差がある以上、工作機械の整備は不可能に近く、徐々に艦船整備が困難になるという事態が引き起こされるのは避けがたい話だった。


 そのために、この世界に赴いた大日本帝国海軍上層部の面々は、艦隊の最期の花道を飾るための大攻勢作戦を発動しようと考えた末、マラッカ攻略作戦を発動することにした。


 また、その一方で陸軍の整備は順調に進んでおり、前装式ライフルの量産化に日本は成功していた。

 そして、その扱いに習熟した部隊整備も粛々と進んでおり、実戦投入が可能になりつつあった。

 こうしたことから、シャム王国と日本は攻守同盟を締結し、日本軍がシャム王国に駐留するようにもなりつつあった。


 こういった様々な事情が相まって、松一は小沢治三郎連合艦隊司令長官の副官として、軍務に復帰することになったのだ。

 もっとも、このことは軍機扱いされており、松一としては、それこそ家族にも明かせない話だった。

 だから、表向きは松一は上里屋の主として、皇軍の軍属としての協力を要請されたので、皇軍に協力したのだ、という形をプリチャを始めとする家族や奉公人に取らざるを得なかった。


 だが、このことが、妊娠していたプリチャには、結果的に嫌な予感を与えたらしい。

「色々と秘密があるようですね。その秘密のせいで、もしもという事態が起きそうです」

「そんなことを思わないでくれ。本当に起きそうだ」

「でも、本当に嫌な予感がして堪らないのです。それこそ、色々な人と別れるような予感が」

 プリチャは、松一にそう言った。


 今のプリチャにとって、松一は第二に大事な男性になっていた。

 それこそ、本来の夫のサクチャイは、このまま行方不明で消息が分かることはない、という諦めが内心にあったのも、プリチャの松一への想いを助長することになっていた。

 だからこそ。


 今になって、松一が自分に見せない秘密があることに、プリチャは嫌な予感を覚えてならなかったのだ。

 だからこそ、半ば願掛けもあって。

「お腹の子は、あなたが還ってきてから名付けますから」

 そうプリチャは言い、松一は出征を果たすことになったのだ。

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