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従者のお仕事  作者: 那智
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隣国のお姫様(2)


正直なところ少し驚いた。

お姫様としか聞いてなかったから勝手に大人しい感じの人を想像してたけど思ってたより快活なお人のようだ。

いやしかしほんとまぶしい。初手目潰しだろうか。


「も、申し遅れました。 この度姫様の従者に任ぜられましたシグリッドと申します。なにかご用があれば何なりとお申し付けください」


だがしかしなんというかな。その笑顔や仕草には作り物めいたものを感じる。

いやこの言い方は意地が悪いな。そもそも初対面から信頼度MAXなんてあり得ないわけだしお互い様である。

まあ彼女にとってはこの国は悪く言うなら仮想敵国。そうそう本心は見せまい。

むしろこの国の上層部と違ってどのような意図があれ友好的に事を運ぼうとする姿勢には好感を覚える。むしろなんだこの国の上層部。


「ところで一つよろしいですか?」

「なあに?」

「その、侍女の方はどちらに・・・?」


今気づいたのだが部屋の中には姫様しかいない。

彼女は姫という身分である以上自国からも身の回りの世話をする侍女をつれてくるのは当然の権利だ。

最低でも一人か二人は連れてきて、足りない分をこちらの人員で補うのが普通であるはずなのだが侍女が誰もいない。


「あー、それなんだけどね? ・・・君に言うと嫌味みたいになっちゃうかもしれないのだけど・・・ここの外交官の人が連れてくるの認めなかったみたいで連れてこられなかったの」

「・・・なんか、申し訳ないです。 この分は精一杯お仕えすることで償いますので・・・」

「き、気にしないで。 あなたが悪いわけじゃないもの」


苦笑い混じりに笑いかけてくれるものの心苦しい。これほんと打算とか関係なく全力で仕えないと償えないでしょ。つーかなにしてんだ上層部。通路に罠仕掛けんぞ。

よーし、決めた。あとで怒られるかもだけど物事に全力で取り組むためには思いきることも必要だろう。


「いいえ、いいえ。 全力で気にします。 故に私は・・・俺はこれよりこの国の人間であることを忘れ貴方につかえましょう」

「ええ!? そ、それはだめよ。 君が怒られちゃうわ」

「問題ありませんよ。 元よりこの国に対する忠誠などたいして持ち合わせておりませんし直接の雇い主たる大臣には『真っ当に仕事に励め』と言われていますので。 まあ最低限大臣に報告はしないといけないのですが。 そういうわけでこれから俺はおおむね全部貴女のものですので遠慮なくお使いくださいね」


人身供養いえーい!

とかいう謎テンションは置いといて実際これくらいやらないと彼女はこちらを信用してくれないだろう。

それに俺としても国と姫様とで板挟みになるよりはいっそのこと姫様側に付いたほうが気が楽なのである。

姫様は呆気にとられたような顔をしている。まあ初対面の人に実質すべてを捧げるとか言われたらそうなるね。


「しかし、人がいないのであれば集めねばなりませんね。 手配してきますので少し時間をもらえますか?」

「う、うん。 わかったわ・・・」


呆けた姫様をそのままに、一度部屋を辞して人を集めることにした。




「いや、馬鹿じゃない? 控えめに言って貴方馬鹿じゃない?」

「辛辣! いやまったくもって反論できないけれども!」


件のエストリアの姫様と話したことを同僚に話したら罵られた。

侍女服を着たこの二人はクラーディラ・フルトクヴィストとエリーザベト・セイデリア。

おじさまが姫様の侍女として手配してくれた大臣派貴族の娘である。愛称はクララとリザ。ちなみに罵ってきたほうがクララだ。


「クララ、そんなに怒らないの。 シグリッドだってシグリッドなりに考えたんでしょうし」

「穏やかに辛辣!」


リザは怒るクララを落ち着かせようとしてくれている。しかし俺が馬鹿ということに関しては一切反論してくれていない。

その容赦のなさがこの一年一緒に仕事してきた故の気安さからだったらいいなあとは思っている。


「まあいいわ。 それでバロン様から言われた通り私たちはエストリアのお姫様のお世話をすればいいのね?」

「うん、お願い。 俺じゃ他はともかく着替えの手伝いとかできないし」

「ところでフィオラ様は着替えはどうされたのかしら。 少なくとも昨日の夜と今日の朝はお一人なのよね」

「一人でやったらしいよ。 別に赤子じゃないんだからって言ってた」

「まあお強い人なのね」

「あら立派じゃない。 この国の貴族の中にはいい歳になっても一人じゃ着替えられないのもいるのにね」


その辺は貴族の見栄とかもあるから多少はね?クララもリザも複雑な着方のドレスとかじゃなければ一人で着替えられるけど。


軽い雑談を済ませてからクララとリザに姫様の事を頼み、俺はまた廊下を歩き始める。

まだ姫様の元には戻れない。

なにせ確認してみたら姫様がここで暮らすにあたり必要なものがほとんどなにも用意されていなかったのだ。侍女を始めとしてその他の生活用品の手配や服の用意もなにも!用意されていたのは食事くらいなものだがそれだってあと数日もしないうちに途絶えるだろう。

取り巻きたちは俺たちの失態を見たくてたまらないらしいけど素直に見せてやるほど俺はかわいい性格をしていない。

むしろチャンスである。向こうがなにも用意していないならそこにこちらの人員を入れてしまえばいい。

そうすれば少なくとも日々の生活において嫌がらせに悩まされることはない。

向こうも文句の言い様がないだろう。なにせ用意しなかったのは自分たちなのだから。

仕事を丸投げした挙げ句難癖つけるとか恥の上塗りもいいとこだ。その辺は取り巻きたちも理解できている。人を馬鹿にするのは好きだけど自分が馬鹿にされるのは嫌いだからねあの人たち。

早速おじさまのこの事を伝えに行くとしよう。おじさまの事だからもうすでに予測して準備してるかもだけどそれならそれで良い。楽ができる。


時間かかりましたが更新です。

次あたりで簡易的な人物紹介入れます。

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