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従者のお仕事  作者: 那智
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始まりの話 (3) ※他者視点

練習がてら他者視点です。


辺境の森で一人の男が穴を掘っていた。

男の名をバロン・イェルリといった。

一目で鍛えられているとわかる身体に身なりの良い服装。それなりの歳なのか艶を失った金髪には白い髪が混じっていた。


「ふう、助かったはいいが・・・なかなかの重労働だなこれは」


バロンはトルリトリスの大臣である。

辺境伯とその隣に領地を持つ貴族のいさかいを調停した帰りに自らの命を狙う刺客に襲われ、護衛の尽力もありここまで逃げ延びた。

そして護衛ともはぐれここまでかと思ったそのときに思わぬ助けを得て、幸運にも生き延びることができたのであった。


「あの若いのがこんな森でなぁ・・・ふむ、訳ありか?」


バロンの馬車の中には少年が眠っている。正確には気絶している。

少年について彼はなにも知らない。突然現れ、突然こちらを助けた謎の人物である。

にも関わらず馬車に寝かせたままでいるのはバロンにとって少年が一応命の恩人であるからに他ならない。

それに訳ありかもしれないと思ったもののバロンはそれを大したことではないと考えていた。

辺境ではそういうことは珍しくないと聞いていた。なにより今の自分のほうがよっぽど訳ありなのだから。


「しかし、もう歳だな・・・このような重労働は体に響く」


昔よりも動かなくなった体をほぐしながら手に持った道具を握り直す。そうして穴を掘りつつ少年が目覚めるのを待つのだった。



刺客の処理が終わり、馬に怪我がないか確認しているときにようやく少年は目を覚ました。


「んえ? ・・・あ、ん? ここどこ?」

「おお、目が覚めたか? 」

「・・・あ、馬車乗ってたおじさん。無事だったんですね」

「お主のおかげでな。 ワシはバロン。よければお主の話を聞かせてはくれんか?」


目覚めた少年はバロンを警戒することもなくよく喋った。農村の生まれであること。両親を早くに亡くしたこと。そしていろいろあって村から追い出させたことをあっけらかんと話した。

話を聞くうちにバロンはこの少年に農村の生まれという経歴に見合わぬ知性と教養が備わっていることに気づいていた。


なんとも哀れな少年か。おそらくこの少年はその知性故に恐れられ、村ぐるみで都合のよい生け贄にされたのだろう。バロンはそう思った。

実際には『ちょっとしたミス』で本当に倉庫一つを吹き飛ばしているのだがそのことを彼は知るよしもない。


そんなわけで彼は少年に自分の元で働かないかと持ち掛けた。

バロンはそれなりにこの少年に同情していたし命を救ってもらった恩を感じていた。なによりバロン自身としても味方を欲していた。


トルリトリス大臣である彼だが若き王と側近・・・という名の王を傀儡にしている者たち政敵であるためあまりよい関係ではない。そのため味方と呼べる者はそう多くはなかった。その数少ない味方も政敵たちの妨害や嫌がらせにより迂闊には動くことができない。

そのため警戒されずに動ける味方を欲していたのだが少年はかなり都合のよい存在であった。

うまく使えば相手に気付かれずにいくつか仕事を任せられるかもしれない。そういう打算もあった。


「おじさんって都会の人です?」

「トカイ? トカイというのは知らんがこれでも王都でそれなりの地位にある。 不自由はさせんぞ?」

「ひゃ! お偉いさん? それに王都! 人がいっぱいいるとこだよね! 行きます行きます!」


そうして「都会に行ける! あ、都会って言葉ないんだっけ。 えーと人里に行ける!」と喜ぶ少年を見て少し申し訳ないと思いながら馬車に乗り込んだ。


「そういえばお主、名はなんだ?」

「あー、名前は村を出たときに取られました。 なんでも追放する時の決まりらしくて。 なので好きに呼んでもらえれば」

「そうか。 ふむ、そうさな・・・」


バロンは少し悩んでから口を開いた。


「シグリッド、というのはどうだ?」


少年は一瞬驚いた顔をして、それからふにゃりと笑った。


「はい、おじさま。 これからシグリッドをよろしくお願いしますね」


人懐っこい笑みを浮かべシグリッドは深々と頭を下げた。

シグリッドが思った以上の拾い物であったことをバロンが知るのはそう遠くない話である。

これにてさらりとプロローグは終了。

ところで今回は本編を兼ねてたからそのまま(3)って書いたけど他者視点の場合ナンバリングせず外伝みたいな感じのタイトルにした方が分かりやすいんだろうか?

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