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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅴ 冷たい親族と温かい友情
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056 ※ミネ視点

 セキが帰って来られない。

 てっきりこっちの空港から掛けてると思ったら、まだ向こうの空港で足止めされているのだという。

 ラジオのニュースで臨時法については聞いていたが、それが、こういう影響を与えるものだとは想像出来なかった。当選してから、まるで他国を目の敵にするような新党首の姿勢に、どうも不信感が拭えなかったけれど、ここまでとは。どうにかならないものか。

 受話器を置いたあと、リビングを移動しながら思案していると、庭先からミキが駆けてきた。


「ママ。ナナが、げんきないの。みてあげて」


 そう言って、ミキは私のジーンズを太股あたりを引っ張るので、庭先へ出た。里親の候補が見つかったから、セキと一緒に話し合おうと思っていたけれど、それどころではなさそうだ。

 犬小屋を覗き込むと、ナナはぴくっと身体を持ち上げかけたが、入口に立っているのが私とミキだと気付くと、また伏せに戻ってしまった。


「ひょっとしたら、パパが居ないことに気付いてるのかも」

「パパ、いつかえってくるの?」


 ミキに答え難い質問をされ、返事に窮した時、私の頭に、一つの名案が閃いた。


「ちょっと待ってて」

「えっ? どこいくの、ママ」

「二階。すぐ戻るから」


 私は、リビングを通り抜け、階段を上がり、ベッドルームへと移動した。

 そして、クローゼットの籠の中から、以前にラジオでハガキが紹介された時に送られてきたハンカチを引っ張り出した。それから、それを持って階段を降り、洗面所に移動する。

 そこに置いてある、以前にセキが職場の知人にもらったという香水を手にすると、洗面台にハンカチを置き、その上に満遍なく香水を振りかけた。

 洗面所にカモミールの香りが広がったところで、ハンカチを持って庭に戻る。


「あっ! ナナ、だめよ。おへやは、あしをきれいにしなきゃ」


 フランス窓を開けると、匂いに気付いたナナが、犬小屋から飛び出してきた。やっぱり、この匂いはセキのだと覚えていたか。

 

「はいはい。興奮するのは分かるけど、ちょいと大人しくしてちょうだい」


 尻尾を振ってはしゃぐナナを宥めつつ、首輪にハンカチを括りつけた。そして、そのままナナを抱え上げると、ミキに話しかけながら、ナナを車へと運んでいく。


「ミキ。悪いけど、お留守番しててちょうだい。夕方までには戻るから」

「わたしもいきたい!」

「駄目よ。遊びに行くんじゃないの。お願いね」

「はぁい」


 ミキは、しぶしぶ言うことを聞くと、リビングへと戻って行った。

 私は、帰ったらミキに何と説明しようかと考えつつ、なるべくナナをセキに近い場所まで移動すべく、車のドアを開けた。

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