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新米冒険者の俺がA級パーティーから追放されたお荷物を押しつけられたわけだが、とんでもない美少女ですごい強かった。あと、ちょっと頭おかしい  作者: 南野 雪花
絶体絶命のピンチとか、そういうやつ?

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第23話 ここは俺に任せて先にいけ!


 魔王軍が攻めてくるんだってさ!


「つーか、どうんすんだよ。真面目な話」


 お手上げフレイ。

 魔将軍が云々とか、話が大きくなりすぎである。

 C級になったとはいえ、新人冒険者の手にはあまりまくりだ。


「いやあ、俺らの手にだってあまるぜ」


 ガイツが肩をすくめてみせた。


 そもそも、個人レベルでどうこうってレベルの事態ではない。

 国なり貴族領なり、とにかくでかい組織が一丸となってことに当たるべきだろう。


 とはいえ、そういうところが動くには、たしかな証拠が必要になる。

 ダークエルフの証言だけではいささか弱い。

 弱いが、報告しないってわけにはいかないのだ。


「情報のかかえ落ち(・・・・・)が、一番マヌケだからな」


 フレイが言う。

 パンナコッタがもたらした情報を、誰にも伝えることなく死んでしまう。

 それが最も忌避すべきこと。


 国が動く、領主が動く、それらはまさにフレイたちの決めることではない。

 彼らにできることは、まず知らせること。

 その上で、一緒に戦うなり他の地方へ逃げるなり、選択肢が与えられるだろう。


「となれば、とっととザブール戻って報告だな」


 ため息を吐きながら荷物を背負いなおすガイツ。

 ここでうだうだ話していても、事態の解決にはまったく寄与しない。

 他の冒険者たちも帰還の支度を始める。

 フレイチームに加入することになったパンナコッタも。


「結論が出たようじゃな」


 割り込む声。

 ぎょっとしたように全員の視線が動く。


 壁に背を預けるように立った人影。

 深紅の胸甲(ブレストプレート)をまとった紅い髪の女。


 背はミアと同じくらいで、けっして高いとはいえないが、胸とか尻とかがワガママな自己主張をしている。

 トランジスタグラマーといった感じで、街を歩けば男どもの九割くらいは鼻の下が伸びるような体型だ。


 が、ここにいる男たちが目を見張ったのは、体型に感心したのではない。

 側頭部から生えたねじくれた角。

 人間には存在しない部位を目にしたからだ。


 魔族(デーモン)

 はるか昔から、人間たちはそれ(・・)を、そう呼び慣わしてきた。


「……接近に気付かなかった? この俺が?」


 フレイが内心で無念の(ほぞ)を咬む。

 気配を探るのに長けた彼に気付かれず近づくというのは、けっこう大変だ。

 つまり、よほどの実力差があるということだろう。

 レンジャーの頬を汗が伝う。


「もうきたんだね。カルパチョ」

「んむ。そちが寝返ってしまったゆえな。あわてて飛んできた」


 シニカルな笑みを交わし合うダークエルフと魔族。

 赤い瞳と赤い瞳から放たれた視線が、見えない火花をあげながら絡む。


「裏切り者には死を。判っておろうな。パンナコッタ」

「裏切ったんじゃない。正しい道に戻るんだ」


 デイジーと出会い、(もう)(ひら)いた。

 信じるモノを見つけた。

 生きる道を見つけた。


「あえていおう。カルパチョ。魔軍に正義などない。デイジーこそが正義だ」


 きっぱりと言い放つ。

 ガル、ガイツ、メイサン、ゴルンの四人が大きく頷いた。

 バカばっかりである。


「言いおるわ。信仰をもたぬダークエルフが」


 にやりと片頬を歪める魔族の女。

 愉しそうに。


「ミア。帰りのルートを憶えているか?」


 視線を外さないまま、フレイが横に立つ少女に話しかけた。

 ようやく聞こえるくらいの声で。

 ほとんど唇を動かさず。


「二回目だからね。さすがに頭に入ってるわよ」

「OKだ。合図したら逃げるぞ。一斉に」


「戦わないの?」

「勝てると読むか?」


「りょーかい」

「三! 二!」


 突如として大声でカウントダウンを始めるC級冒険者。

 一瞬、戸惑った顔をする仲間たちだったが、すぐに思い出す。

 情報のかかえ落ちだけは、絶対に避ける、と。


「一、GO!!」

「みんな! 逃げるわよ!!」


 ミアを先頭に駆け出す冒険者たち。

 あまりといえばあまりの行動に、カルパチョの反応はやや遅れた。

 慌てて追いかける。


 が、その足にフレイが投げつけた何かが絡みつき、無様に転倒した。


「な!?」


 紐だ。

 両端に重りをつけただけの、ただの紐。


 武器ではない。

 ボーラという、狩猟具の一種である。

 使用方法は今みたいに獲物の足に絡めて転倒させる、というようなもの。


 カルパチョが起きあがるまでの短い間に、冒険者たちが部屋を出る。

 音高く閉められる扉。


 内側から。

 ただひとり、部屋に残ったフレイの手によって。


「ちょ!? フレイ!?」


 扉に取りすがり、どんどんとデイジーが叩いている。


「時間を稼ぐ。ガル。頼むぞ」


「……心得た」

「ちょっ! やだ! はなしてガル!! ボクも残るよ!!」

「聞き分けなさい! デイジー!! 誰かが殿軍(しんがり)をやらなきゃいけないの!」

「だってミア!」

「許せ。デイジー」

「フレイーっ! フレイぃぃぃぃっ!!」


 仲間たちの叫びと足音が遠ざかってゆく。

 聞き分けのない親友は、武芸者が抱え上げて走っているのだろう。

 こんな場合だが、くすりとフレイは笑ってしまった。


「余裕じゃな。若いの」


 ボーラを投げ捨て、苦々しくカルパチョが声をかける。

 そりゃあ、この状況で一人だけ残り、しかも笑っていたら、どんだけの強者かと思うだろう。


 だが、逆なのだ。

 フレイは自分が一番役に立たないことを知っている。

 だから残った。


 A級冒険者たちは、もし魔軍と戦うとなったときには中心になるような連中だ。こんなところで犠牲にするわけにはいかない。

 ミア、デイジー、パンナコッタたち魔法職も同じ。

 そしてガルには、三人を守ってもらわなくてはならないのである。


 消去法の結果として、もっとも弱い自分が残り、わずかな時間でも足止めする。

 これしかない。


「英雄的な行動をするタイプには、見えなかったのじゃがな」


 苦笑とともに、魔族の女が腰から得物を外した。

 鞘に収まっていない抜き身の剣。

 波打った独特の刃を持つ、片手持ちのフランベルジュ。


「べつに俺は英雄じゃないさ。こうするのが最善だと思っただけだよ」


 フレイも腰の後ろに右手を回し、隠しから得物を取り出す。

 魔力を帯びたジャマダハルだ。


「自らが犠牲になることを(いと)わぬものを、英雄と呼ぶのじゃよ。さて、あらためて名乗っておこうかの。(わし)はカルパチョ。魔王アクアパツァーの四天王が一人よ。死ぬまでの短い間じゃが、憶えておけい」

「フレイだ。名乗るべき家名も肩書きない根無し草さ」


 瞬間。

 音高くぶつかるフランベルジュとジャマダハル。


 次の動きはフレイの方が速かった。

 (つば)迫り合いには移行せず、身を屈めて低空の回し蹴りを放つ。


「なんとぅっ!」


 ジャンプ一番(いちばん)、ひらりと回避するカルパチョ。

 そのまま落下の勢いを利用して、フランベルジュを切り下げる。


「ぬあっ!」


 体勢を立て直すことをせず、勢いのままにごろごろと転がって避けた。


「……面白い戦い方をする戦士じゃの。何処(いずこ)の武術じゃ?」

「ただのケンカ闘法さ」

「世迷い言を」


 追撃せず、剣を構えたままフレイが起きあがるのを待つ。

 余裕か、慢心か。

 いずれにしてもフレイにはありがたい。


 紅の猛将、なんて異名の奴に本気で戦われたら、ちょっと洒落にならなすぎる。

 是非こちらを舐めきって、油断してほしいものだ。

 目の前にパンチダガーを持ちあげ、じりじりと間合いを詰める。


「疾っ!」

「せいっ!」


 踏み込みは同時。

 斬撃(ざんげき)刺突(しとつ)がぶつかり合う。


 双方ともに魔法の武器(マジックウェポン)

 ばちばちと過負荷の火花が散った。


 フレイの体勢が崩れる。

 頭ひとつ分も身長の低い、しかも女性に力負けした。

 さすがは魔族といったところか、能力(ポテンシャル)が違いすぎる。

 崩されながらも、なんとか蹴りを放とうとするフレイ。


「その動きは、さっき見たぞ」


 しかしカルパチョの蹴り足の方が速かった。

 顔面に足が迫る。


「ああ。たしかに見せた(・・・)


 その足をフレイの左手がむんずと掴む。

 驚愕に見開かれるカルパチョの赤い瞳。


 同じ体勢から同じ技を出す、と、思いこんでいた。

 思いこまされた。


 そのまま身体を回転させるフレイ。

 巻き込まれるように宙を舞ったカルパチョの小さな身体が、びったんと床にたたき付けられた。


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