第二十話 祝杯 二
酔った神官とのちょっとした騒動の後、近くの石段に腰掛けてヒザクラと話しているとアサヒとトウヤが帰ってきた。二人とも手には一升瓶を持っている。
「やぁハツメ嬢! アサヒはなかなかいける口だぞ」
「意外と飲みやすいものだな」
二人とも楽しそうだ。
「ヒザクラもどうしたこんなところで、さぁ飲むが良い!」
トウヤに杯を手渡されぐいっと飲むヒザクラ。
「あー……美味いな」
「はっはっはっ! 勝利の美酒だ!」
口を開けて笑うトウヤを見て、ヒザクラは何か思い出したようにぽんと手を叩く。
「ああそういえば。婦人会の方々がお呼びだったぞ、トウヤ」
「何だと!」
トウヤの戸惑った顔は珍しい。
「婦人会?」
「そうだ。こいつ、婦人会からいつも縁談持ちかけられるんだよ」
ヒザクラはくくく、と喉を鳴らして笑う。
「今日は誰の娘だろうな?」
「面白がるんじゃない! いつも丁重にお断りするこっちの身にもなれ!」
トウヤは一升瓶と杯をヒザクラに預けると少しだけ身なりを整える。
「では行ってくるぞ、婦人会のお姉様方に会いに」
「お姉様なんて歳じゃあねぇだろ」
「失礼なことを言うでない!」
そう言ってトウヤは石段を降りていった。
「楽しかったなぁ」
あれからハツメはアサヒとヒザクラとしばらく話し込んだ。日もすっかり変わってしまったのでお開きになり、今は神官舎の自分の部屋だ。
とんとん。
廊下を叩く音がする。
「……私の部屋の前? アサヒかしら」
とんとんとん。
「はーい」
障子を開けると、
「じゃーんハツメ! 飲みましょうよ!」
「女同士の、え、ん、か、い!」
双子だった。
とりあえず部屋に招き入れ座らせる。泥酔しているわけではなさそうだが、いつもと雰囲気があまりに違う。
「あの……これは一体……」
「これはね! 銘酒『天剣山』! 辛口でおすすめよ」
「いや、銘柄のことじゃなくてですね……」
「敬語なんて使わなくて良いのよ! 私たち、あなたに感謝しているのよ」
「そうそう。さっき、って言っても結構前だけど、ハツメが一本背負い決めた男いたでしょう?」
「ああ。あの人……」
「あいつ、いつも女という理由だけで下に見て、大っ嫌いなの」
「でも私たちが手を出すと舎長に怒られちゃうから。代わりにあなたがやってくれて胸が空いたわ」
もう痛快! と杯をあおるフユコとユキコ。
「あはは……」
ハツメは乾いた笑いしか出来なかった。
女同士の話は盛り上がる。
「私たちね、ビャクシン様に憧れて、神官になったの」
「強く気高く美しく。時には獣のように、時には賢人のように振る舞うそのお姿!」
「素敵ー!」
二人はきゃっきゃっと騒ぐ。
ハツメには眉間に皺が寄った怖い人という印象しかないのだが、身内にはそう見えるのかもしれない。
「そういえば、ビャクシン様に妻子はいらっしゃるの?」
「それがね」
「亡くなってしまわれたのよ。三十年前の錫ノ国との戦で」
それであんなに錫ノ国を恨んでいるのか、とハツメは納得した。
「私たちは代わりになどなれないけどね。せめてお側に仕えて、一緒に戦いたい」
「だから今こうして共に戦って、報奨まで直々に賜るなんて、本当に幸せよ」
花が舞うような笑顔だった。
「そうだ。ハツメ、あなたまだ女の戦い方っていうのを分かってないでしょう」
「あの一本背負いで根性と素質は伝わったわ。あとは体格差のある男相手にどう効率良く戦うかよ」
びしっとハツメを指差す。
「強さこそ全て! さぁ語り合いましょう、男の倒し方!」
「語りたい気持ちはあるけど、もう眠気が……」
ハツメの訴えなど関係無しに、突然始まった双子による男の倒し方講座は朝まで続いた。
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