表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
谷の橋姫 錫の日高  作者: 古千谷早苗
第四章 錫ノ国編
188/194

最終話 朝日

 都の最奥に構える宮殿は一夜の間、延々と燃え続けた。

 真っ暗な空に伸びる炎は紅い花のように咲き、銀白の都を照らす。


 いつ散るか分からない花を眺め、人々は朝を待つ。

 永遠を思わせるような、長い夜だった。






 ――どんな夜でも、やがて朝がくる。

 夜を越え、澄み切った世界に柔らかに射すのは朝の日。


 空を覆っていた灰が晴れ、天災が収まったことに人々は安堵した。

 清々しい白光が差し込む正階段前の広場で、戦からの生還を、天災の無事を分かち合う。




 だがそれも、ハツメには関係なかった。

 朝が来ても、世界が続いても。待ち人が来なければハツメにとっては一緒だった。


 一時ほどではないものの、まだ台地の上には赤火がちらついている。

 焦げた匂いにも、宮殿から吹き荒ぶ熱にも慣れた。

 彼女はあれからずっと、正階段の下で彼の帰りを待っていた。


 石畳に力なく座り込むハツメは俯き、何度呟いたか分からない彼の名を呼ぶ。


「アサヒ……」


 彼がいないと、自分の朝はやってこないというのに。

 そっと目を閉じても、いつもは浮かぶあの柔らかい光は見えなかった。


 彼に会いたい。もう一度、あの優しい光に包まれたい。

 伏せられたハツメの珠の瞳から、涙の粒が零れたときだった。


「ハツメ」


 呼ばれた声に顔を上げる。

 階段を下りた先でハツメを見るのは、白光を浴びて柔らかく目を細める彼。

 ハツメの名を呼んだのは、紛れもなく。


「待たせてごめん。……ただいま」


 全身が、心が、全てが焦がされたように熱い。

 ハツメはアサヒに駆け寄ると、彼の胸に勢いよく飛び込んだ。


「本当よ! どれだけ心配したと思ってるの! 離さないとか言ったくせに、最後の最後で私のこと置いて行って! もうアサヒなんて――!」


 口から溢れ出るまま感情を叫ぶ。

 濡れた目でアサヒの顔をじっと睨めば、彼は困ったように眉を寄せた。


「嫌いになった?」


「なるわけないじゃない! ……好き。大好き、アサヒ」


「俺も好きだよ、ハツメ」


 アサヒは優しくその言葉を落とすと、ハツメの涙をそっと指で(すく)う。


「谷ノ国に帰ろう」


 白い指にのせられた雫は草花にきらめく朝露のようで、それでいて温かかった。

ありがとうございます。

次話より、エピローグが四つ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ