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ヒヤシンス  作者: 新々
22/22

ママとおかーさん

「ヒマなら手伝ってよ」

「んー、ながめるのに忙しいから無理」


 きっちりとひとまとめにした髪とチラつくうなじ。

 部屋着の一部と化したような無地のエプロン。

 リズムよくまな板を叩く音。おいしそうな匂い。

 狭い台所で晩ごはんを作る彼女の姿は。


「なんか、おかーさんみたい」

「あたしが? それは喜んでいいの?」

「イヤだった?」

「うーん、ちょっと複雑」

 鍋を覗き、つまみを回して火力を調整する彼女おかーさん

「今日はなに?」

「肉じゃがと、ホウレン草が安かったからそのおひたし。後はなめこの味噌汁と……あ、昨日のコロッケが残ってるけど食べ──ってなによ、にやにやして」

「やっぱりおかーさんみたいだなって」

 後ろからぎゅってすると、危ないってと叱られた。


「どうしたの急に。会社でイヤなことあったの?」

「そういうわけじゃない……こともないけど」

 どっちなの、とくすくす笑いながら身体を預けてくる。でも、おかーさんは私よりもちょっとだけ背が低くて。

「ねえ、おかーさん」

「なあに?」

「……娘が三つとし上ってどんな気分?」

「いきなり現実持ち出してきたね」

「だってなんか恥ずかしくなってきたから」

「じゃあ交代する?」

 身体を返して向き合った彼女は上目遣いに私を見て、

「ねえ、ママ。ぎゅってして」

 と、甘えるようにそういった。


 え、なにこれ。

 やばい。かわいいっ!


「……痛いんだけど、ママ?」

「もっと甘えていいよ? ほら、ちゅー……ぶぐぇっ!」

「あーもー、おしまいっ!」

 ママを突っぱねて、くるりと背を向けた彼女おかーさんの耳は。

 でも、トマトみたいに真っ赤になっていて。

「恥ずかしいならやらなきゃいいのに」

「こっちのセリフだっての」



 それ以降、私たちは家にいる時だけお互いをおかーさん、ママと呼び合うようになったのだけど。

 それはまた、別のお話。 了

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