仲良し後輩をナンパから助けたら避けられるようになった
「せ~んぱい、お帰りですか?」
「ん? 花宮か」
授業が終わって帰宅しようと思って校舎を出たら、見知った顔が声をかけてきた。
花宮 明音。
中学時代の委員会の後輩で、今年うちの高校に入学して来た。委員会の時にペアを組んでいたこともあり仲が良く、ありがたいことに今でも慕ってくれて俺の姿を見つけるとワンコのように寄ってくる。
「帰りだな。花宮は部活か?」
「ううん。今日は部活が休みなので私も帰りです」
「ふ~ん。なら一緒に帰るか?」
「あれあれ?もしかして放課後デートのお誘いですか?」
花宮はことあるごとに、こうして揶揄ってくる。
実は照れ隠しで俺に気があるんじゃないかと疑ったこともあるが、以前率直に聞いたら真面目に否定されたので違うことは分かっている。
『う~ん。センパイって優しくて面倒見があるところはポイント高いんですけど、私はもっと男らしくて少し強引で格好良い人の方が好きですね』
優しいのも面倒見が良いのも委員会だから仕方なくだった。
そして男らしい強引さなんてもちろんなく、格好良さなんて以ての外だ。
つまり俺は花宮のお眼鏡に適うような男では無いということ。
俺が花宮のことをどう思っているかは秘密だ。
尤も、花宮にはバレていてそれが原因で揶揄われているのかもしれないが。
「花宮がして欲しいならしてやっても良い」
「あ~誤魔化した。私に選択権委ねるのはずるいですよ」
「誤魔化してねーしずるくねーよ。久しぶりの部活休みで、花宮だってやりたいことがあんだろ。気を使ってやったと言ってくれ」
「じゃあデートしましょう」
「良いのか?」
「冗談に決まってるじゃないですか。今日は街でやりたいことが沢山あるんです」
「こいつめ」
こういう話の流れになることは分かっていた。
俺達の間でのお約束で会話を楽しんでいるだけのこと。
べ、別にデートしたいだなんて思ってないんだからね。
「男のツンデレは流行らないしボケとしても百番煎じくらいで面白くないですよ」
「なっ!こいつ脳内を読みやがった!」
「エスパーですから。先輩が私に向ける情欲も全て理解してます」
「馬鹿め、ボロを出したな。その体の庇い方は俺の心が読めてない証拠だ」
「恥ずかしいところ全部隠してるんですけど……衝撃の事実。先輩はマニアックだった」
「さぁデートしようか、ぐへへ」
「いやぁ。こわ~い。逃げろ~」
花宮は笑いながら走り出す。
ちなみに脳内がどうとかってのは、聞こえるようにわざと口にしただけの話である。
「せんぱ~い! さようなら!」
「おう!気を付けて帰れよ!最近は街でのナンパが危険らしいからな!」
「は~い!」
元気が良すぎて危機感の欠片も感じさせないな。
あいつのことだからナンパなんて軽く躱すとは思うが少し心配だな。
今日のホームルームで先生から注意されたが、どうやらこの街の繁華街で反社によるナンパが横行しているらしい。ほいほいついて行ってしまうと怖い人が待っていて酷い目に遭ってしまう事例が何件か報告されているとのこと。
だとすると怖い雰囲気の男が声をかけてくる可能性があり、花宮は怖がって動けなくなってしまうということも考えられる。あいつ、基本的に元気っ娘だけど怖がりだからな。
「そういやそろそろ乳液が切れかかってたから買いに行くか」
帰り道のドラッグストアで購入しても良いが、たまには繁華街に寄り道しても良いだろう。
ーーーーーーーー
「ありがとうございました~」
繁華街のドラッグストアにて、目的の乳液の購入が完了した。
乳液を使うことになったのは花宮からのアドバイスだった。
『男の人でも乳液くらいは使ってスキンケアしないとダメですよ』
ニキビとか関係なくスキンケアをしている男のクラスメイトはいるにはいるが少数派だった。俺も全くやるつもりは無かったが、それで仲良くしてくれている女の子の好感度が上がるのであればと鵜呑みにしてすぐに始めたんだ。
「さてどうしよう」
やるべきことはもう終わってしまった。
いや、本当にやるべきことはまだ残っているのだが気が進まない。
「これじゃストーカーだよなぁ」
心配だからと後を追って繁華街に来ただなんて、やはりやりすぎだったのではないだろうか。
花宮からしたら、俺が彼女に執着しているように感じて恐怖を抱いてもおかしくない。
会ったところで花宮のことだから『そんなに私が心配だったんですか?』などと揶揄ってくれるとは思うが、内心どう感じるのかは分からないからな。
「仕方ない、帰るか」
これではなんのために繁華街に来たのか分からないが、人生なんてこういうものだろう。
若干の不安と虚しさを胸に抱き繁華街から離れようと歩き出す。
すると俺の目に、最も起きて欲しくなかった光景が飛び込んで来た。
「花宮!」
花宮は壁を背にして立っていて、その周囲を三人の若い男が囲んでいた。
彼女の顔が引き攣っているのが遠くからでも分かった。
「なんで誰も助けようとしないんだよ!」
通行人の中には四人に視線を向ける者がいたが、歩みを止めることも無くそのまま去って行く。
せめて花宮が『助けて』と叫べば誰かが動くのだろうか。尤も、卑劣な連中は叫べないターゲットを選んでそうだが。
世の中の非情さに憤りそうになったが、今はそんな場合じゃない。
花宮を助けるんだ。
「俺の知り合いに何をしてるんですか?」
「あぁ?」
うお、怖え!
男達は穏やかそうな出で立ちなのに、睨まれただけで殺されそうな予感がする。
まっとうな人間でないことを分からせられてしまった。
「せん……ぱい……?」
男の俺ですら一瞬で恐怖する男達に逃げ場を封じられ、怪しげな勧誘をされていたであろう花宮はどれほど恐ろしかったか。彼女の顔は今まで見たことが無い程に青褪めていて怯えていた。
ふざけんな。
花宮にこんな顔させやがって。
「関係ない奴は引っ込んでな」
「そうそう。今大事なお話し中なんで」
「それでも俺達の邪魔をするつもりか?」
「っ!」
こいつら隠す気が全く無い。
露骨に俺に敵意を向けてきやがった。
やばい。
関わったら殺される。
足の震えが止まらない。
でも。
だからこそ。
逃げられるわけがないだろうが!
「こっちだ!」
「うお!」
「こいつ!」
突然俺は強引に男達の間に割って入り、花宮の腕を掴んだ。
「逃げるぞ!」
「あ……」
男達の虚をついた隙に逃げてしまおうと思ったが、花宮は恐怖で足に力が入らないらしくこけそうになってしまった。これでは走れない。
「てめぇ、何しやがる!」
「クソガキが!」
「逃げられると思うなよ!」
やばい。
男に腕を掴まれた。
このままでは俺はボコボコにされ、花宮は連れてかれてしまう。
だがここは繁華街だ。
いくら人々が無情だとはいえ、大騒ぎになってしまえば誰かが助けてくれるかもしれないし、警察に連絡してくれるかもしれない。
それを期待して必死に耐えるか?
いや、違う。
今は一刻も早く花宮をこの場から遠ざけて恐怖から解放させるべきだ。
「放せ!」
「痛!この野郎!」
俺の腕を掴んだ男の股間を狙って思いっきり蹴り上げると、腕は解放された。
だが相変わらず逃げ道は塞がれ、強引に突破しようにも花宮が走れない。
だから俺は一旦壁際まで退き、花宮を抱き抱えた。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「おいおい。まさかその格好で俺達から逃げられるとでも……」
「俺は!」
男の一人が何かを言おうとしたのを、腹から声を出して遮った。
俺の大声に通行人の何人かが足を止めて見ている。
ここで助けを求めたら助けてくれるだろうか。
一瞬だけ周囲を確認したが、残念ながら助けてくれそうな強そうな男性はいなかった。
やっぱり自分でなんとかするしかない。
「こいつを絶対に守ってみせる!」
咆哮とも呼べる渾身の叫びは、より多くの人々を釘付けにした。
悪事を働こうとしている男達はあまり注目されたくないはずなので、これで動揺を誘えたらという狙いだ。それと同時に全力での叫びそのものが相手を戸惑わせる効果があると思っていた。
狙い通り、男達は驚き一瞬動きが止まった。
その隙を逃さず、花宮を抱えたままショルダータックルのような形で最も広い隙間を狙って強引に突破を試みた。
「うおおおおおおおお!」
「ぐお!」
「しまった!」
男達が振り返り慌てて俺に手を伸ばそうとするが、その体は動かない。
立ち止まっていた多くの人々が自分達を見ていることに気付いてしまったからだ。ナンパしているだけならば何か言われても弁明が可能だが、無理矢理捕まえようとしたら問答無用で悪人認定されてしまう。
恐らくは追ってこないと思うが、何処にあいつらの仲間が潜んでいるか分からない。
安全なところまで足を止めるつもりは無かった。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
運動部ではない俺は体力が無い。
花宮を抱えたまま全力で走るだなど無謀でしかないが、足を止める訳にはいかない。
「せん……ぱい……」
確かこっちの……こっちで……あそこだ!
フラフラになりながらも、俺はどうにか目的の場所まで辿り着けた。
「すいません!」
「どうしました?」
「助けてください。この子が悪質なナンパに絡まれまして」
「分かりました。中でお話を伺いましょう」
良かった。人がいてくれた。
最近はパトロールで交番に警官が不在なんてこともあるから心配だったんだよ。
俺は交番に花宮を預けると、その場を離れて帰ろうとした。
「貴方からもお話を伺いたいのですが」
「でも男の俺がいたら花宮が怖がると思うんです。また後でというわけにはいきませんか?」
強引なナンパ被害のせいで男にトラウマを抱いてもおかしくない。仲が良かった俺だけは例外だなんてうぬぼれるようなことはもちろんしない。警察も女性の警官が応援でやってきて花宮の対応をしてくれているし、俺の判断は間違っていないはずだ。
「なるほど、お優しいんですね。では連絡先だけ教えて頂けませんか?」
「分かりました」
「それと安全のため私が同行します」
「え?」
「あなたも狙われるかもしれませんから」
あっぶな。
全然気付いてなかった。
確かにあいつらの狙いをダメにした俺が逆恨みで狙われてもおかしくない。
このまま一人で帰ったら危険だったわ。
父さんと母さんには連絡したけれど、そもそも今日は仕事で帰りが遅くなる予定だったし、会社が遠いからすぐには迎えにこれない。だから今帰るなら一人で帰るしかなかった。パトカーで送ってもらうなんて嫌すぎるし、ここは警察の人の言う通りにするか。
「おっと。あまり心配はなさらないでくださいね。彼らは警察と事を構えるのを嫌がっていますので、お二人がここに来た時点でターゲットからは外れている可能性が高いですから」
一度狙われた花宮や関係者の俺はまた狙われるかもしれないと警察が警戒することになる。
ゆえに奴らは狙いにくくなるってことなのか。
少し詳しく聞いてみると、どうやらあのナンパ集団のボスは個人の感情よりも実利を選ぶタイプだからまず間違いなく大丈夫だろうとのこと。
「じゃあ俺は帰ります」
警察の人と一緒に交番を出て家に帰ることにする。
「せ、せんぱい!」
すると交番を出た所で花宮から声がかけられた。
振り返って彼女の方を見ようとしたのだが、夕陽が眩しすぎて彼女の顔が良く見えない。
「あの……今日は……その……あ……ありがとう……ございました」
花宮にしては元気が無い。
やはりさっきのナンパの恐怖がまだ抜けていないのだろう。
本当は男の俺に声をかけることすら怖いかもしれないのに、それでもお礼を言おうと努力してくれるだなんて良い奴だな。
「気にすんな。たまたまだよ。今日はぐっすり休めよ。じゃあな」
しかし本当に陽射しが眩しすぎる。
どうにか目が慣れて来たが、花宮の顔が遠目からでも真っ赤に見えてちょっと不思議な感じがした。
ーーーーーーーー
数日後。
警察の人が言っていた通り、俺は逆恨みで狙われることも無く、事情聴取もとっくに終わり、いつも通りの日常が戻っていた。
花宮も両親に送り迎えしてもらってはいるらしいが、普通に登校しているとのこと。
後は時間が花宮の心の傷を癒してくれればそれで事件は終わり。
だと良かったのだが、一つだけ俺のメンタルがガリガリと削られる変化があった。
「お、花宮じゃないか」
「!!!!」
「あ、おい……行っちゃった」
学校で花宮に会うと、彼女は慌てて俺から逃げ出してしまうようになったのだ。
登校中に偶然会っても。
「おはよう花宮」
「!!!!」
廊下ですれ違っても。
「花宮」
「!!!!」
放課後に校門で会っても。
「花宮、今帰りか?」
「!!!!」
彼女は俺の存在に気付くと一目散に逃げ出してしまう。
やはり男にトラウマがあるのかと思ったが、花宮が普通にクラスメイトの男子と話をしている場面を目撃してしまった。
つまり花宮は俺だけを避けている。
考えられる理由は一つしかない。
「俺に会うとあの時のことを思い出してしまうからなんだろうなぁ」
だとすると俺は花宮に会うべきじゃない。
彼女を苦しませるだなんて言語道断だ。
しかしもう彼女と話が出来ないというのは辛いな。
『せ~んぱい』
元気に呼んでくれる声。
『あれあれ? もしかして私に気があるんですか?』
悪戯顔で揶揄ってくる声。
『いやぁ。こわ~い。逃げろ~』
一緒にふざけ合う時の楽し気な声。
その全てを俺はもう聞くことが出来ない。
仲が良い後輩との幸せな一時は終わりを迎えたんだ。
涙が出そうな程に辛いけれど、花宮の方が遥かに辛い。
ここで我慢できず諦めきれないような情けない男ではいたくない。
「雨、か」
俺の心情を反映しているかのように、外は雨が降っていた。
傘持ってないんだけどどうしよう。放課後までに止むと良いな。
ーーーーーーーー
「止まねぇじゃん」
むしろ雨脚が強くなり、走って帰ることも難しそうだ。
先日の事件の影響で母さんが迎えに来てくれることにはなっているが、今日は仕事の都合で遅くなるとのこと。せめて近くのコンビニにでも移動して時間を潰したかったのだが、この調子では無理そうだな。
俺と同じような立場の連中も、親が迎えに来たり友達と一緒に帰ったりと、一人、また一人と帰宅して行く。
やがて昇降口には俺一人が取り残された。
「はぁ……」
なんとなく気が重く、溜息が出てしまった。
心の中には一人の女の子。
いつまでもウジウジと本当に情けない。
彼女のためを想うなら忘れることが最善だというのに。
「あっ」
「!!!!」
神様はなんて残酷なんだ。
またしても花宮と会ってしまった。
これまでも自然に会ったことは何度かあったが、こんなに高頻度で会うことなんて無かったのに。
事件の後にわざわざ会わせるだなんて酷すぎるだろう。
花宮はこれまでと同じように、慌てて駆け出して行く。
その時、あるアイデアを閃いた。
彼女を安心させてあげるために俺が出来ることが一つだけあったではないか。
「花宮!」
逃げる彼女の背に向かって俺は大きく声をかけた。
雨の音が激しいが、それでも聞こえると信じて。
「怖がらせてごめんな! 花宮の前に姿を見せないように気を付けるから!」
彼女が俺の姿を見て怯えるのであれば、俺が姿を見せないように気をつければ良い。
そしてそのことを花宮に伝えれば、少しばかりは安心できるのではないか。
こうして宣言することで自分の心の中の未練を断ち切ることにも繋がった。
最高のアイデアだと本気で思った。
花宮の足が止まった。
すでに彼女は屋根の下から飛び出していて、傘を開こうとしている状態だった。
しかしその傘は一向に開かず体はどんどん濡れて行く。
「お、おい!花宮!風邪ひくぞ!」
俺はどうすべきなのか。
走ってあの傘を開いてさしてあげるべきだろうか。
だが俺が近づいたら怖がらせてしまうのではないか。
相反する二つの考えに縛られて体が動かない。
そうこうしているうちに花宮の全身が水浸しになってしまう。
やはり風邪をひかせないように行動すべきだろうか。
そう俺が判断しようとしたその時。
「…………」
花宮が何かを言っている。
でも彼女は俺に背を向けているし、雨の音が煩くて聞こえない。
「何だ!何を言ってるんだ!?」
仕方なく俺は濡れるのを覚悟で雨の下へと飛び出し、彼女に近づいた。
「違う……の」
「違う? 何が違うんだ?」
花宮の真後ろまで移動したら、ようやく彼女の声が聞こえた。
「せんぱい……いかないで……」
「え?」
それはどういう意味なんだ。
困惑して答えを返せないでいると、花宮はいきなり振り返り俺の胸に飛び込んで来た。
「私から離れないでください!センパイ!」
「!!」
雨に濡れた俺の制服を両手で思いっきり掴み、俺の胸に額を強く押し付けながら花宮は絶叫した。
「ごめ……ごめん、なさい。センパイは恩人なのに、逃げちゃって、本当にごめんなさい!」
「そ、それは仕方ないだろう。俺と会うと思い出して怖くなっちゃうんだろ?」
「違う!違うんです!そうじゃないんです!」
「え?」
花宮は下を向いたまま思いっきり顔を左右に振って否定した。
俺の顔を見てナンパのことを思い出して怖くなるから逃げたのだと思っていた。
だってそれ以外に逃げる理由なんて無いだろう。
後になって思った。
そんな風に勘違いしていた俺を殴ってやりたいと。
「センパイに会うと、胸が苦しくて、恥ずかしくなって、どうして良いか分からなくなっちゃうんです!」
そこまで言われて気付かない程、俺は馬鹿ではない。
以前、花宮が話していたことを思い出した。
『う~ん。センパイって優しくて面倒見があるところはポイント高いんですけど、私はもっと男らしくて少し強引で格好良い人の方が好きですね』
元々好感度は低くなかった。
それは普段接してくれている態度からも明らかだった。
そして先日のナンパ事件。
俺は必死に行動して花宮を助けた。
それは『男らしくて少し強引で格好良い人』に該当するのではないだろうか。
つまり花宮は俺と会うと怖がったんじゃなくて……
「元々センパイなら良いって思ってたんです。堂々と告白してくれたら良いのにって思ってたんです。でもセンパイは全然勇気を出してくれないし、どうしようかなって思ってたらあんなに格好良く助けてくれちゃうんですもん。気持ちが溢れすぎてどうすれば良いか分からなくなっちゃったんです!」
なんてことだ。
やっぱり花宮は俺の気持ちなんて分かっていたんだ。
そして嬉しいことに俺の気持ちを受け入れるつもりだった。
でも俺がいつまでもはっきりした態度を見せないから困らせてしまっていた。
男らしくて少し強引で格好良い人。
それは花宮の好みの話だったかもしれないけれど、男らしく格好良く告白して欲しいっていうアピールでもあったのだ。
情けない。
情けない情けない情けない情けない。
花宮を困らせた上に、こんなことまで言わせてしまうだなんて。
「花宮」
彼女の肩にそっと両手を置いた。
「好きだ」
この一言を告げるのに、どれだけの時間をかけてしまったのだろうか。
そのお詫びというわけではないが、少しばかり花宮の希望を叶えるべく努力してみるとするか。
「あの時宣言したように、絶対に守ってみせる。だから俺の女になってくれ」
これで少しは『男らしくて少し強引で格好良い人』になれただろうか。
その答えを花宮が真っ赤にした顔をこちらに向けて教えてくれた。
「三十点」
「マジかぁ」
どうやらお気に召さなかったらしい。
肝心の場面で決めきれないとか情けないにも程があるだろ。
「ちなみにどこが悪かったか聞いても良いか?」
「俺の女になれ、くらいは言って欲しかったです」
「…………言いすぎかなと思って日和った」
「でしょうね。先輩らしいです」
「それは褒めてるのか?」
「さぁどっちでしょう」
慣れないことはするもんじゃない。
花宮の理想に近くなくとも、自然体が一番だったのかもな。
「それともう一つ」
「まだあるのか?」
「守ってくれるなら……」
「くれるなら?」
「い、一生ってつけて欲しい、なんて」
「花宮!」
「きゃ!」
あまりにも愛おしくて我慢出来ずに抱き締めてしまった。
お互いに雨で制服がぐしょぐしょだけれど、全く気にならない。
「好きだ。大好きだ。俺と付き合って欲しい」
優しく力強く彼女の身体を抱き締めながら、心からのシンプルな想いを伝える。
やっぱりこっちの方が俺らしい。
そんな普通の告白がお気に召したのか、彼女はいつものような元気な声を取り戻した。
「はい!」
雨はいつの間にか止んでいて、雲の切れ目から差し込む夕陽が俺達を祝福するかのように照らしていた。
ピュアな恋愛を描いたつもりなのですが、この後バカップルになる未来しか見えない……




