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戦闘艦グラム//ジェーン・ドウ

……………………


 ──戦闘艦グラム//ジェーン・ドウ



 またジェーン・ドウから依頼がきたのは、前の仕事(ビズ)から7日後のこと。


「ジェーン・ドウから仕事(ビズ)だって。どうする?」


「企業の呼び出しだぞ。応じるしか方法はないだろう」


「じゃあ、行くか。カール・セーガン地区の喫茶店で待ってるとさ」


 七海とアドラーはそう言葉を交わし、ジェーン・ドウの呼び出しに応じる。


「七海。ところで、魔術のデータベースは完成したのか?」


「ある程度は。まだまだ教えるべきことはあるけどな」


「ふむ。好奇心でひとつ聞きたいんだが、データベースを学習すれば、我々も魔術を使えたりするのだろうか?」


 アドラーはそう疑問に思ったことを尋ねる。


「どうだろうな。俺はこの世界でも変わらず魔術が使えてる。けど、どういう要素があって魔術が機能しているかは、まだまだ謎が多いものだから。何とも言えないな」


「使えたら便利だなと思ったのだが」


「いずれ魔術が解明されて科学になれば、使える時も来るさ」


 アドラーと七海はそう言葉を交わして、カール・セーガン地区の喫茶店に向かった。


 喫茶店は以前のとは違う場所で、七海たちは生体認証を済ませて中に入る。


「お待ちしておりました、七海さん、アドラーさん」


 ジェーン・ドウはいつものように丁寧に七海たちを出迎えた。


仕事(ビズ)だって聞いてるけど、どういう仕事(ビズ)なんだ?」


「今回はある種の政府の問題に関係しています」


「政府の問題?」


「正確には航空宇宙軍の一部の将兵による汚職です」


「汚職、ね」


 航空宇宙軍の汚職が、どう自分たちに関係する仕事(ビズ)になるのか、七海たちは分からない。汚職ならば持ち込む先は警察や監査部だと思うのだが。


「我々は汚職そのものを問題に思っているわけではありません。ですが、彼らの汚職が我々に多大な不都合をもたらすことを恐れているのです。これをご覧になってください」


 そこでジェーン・ドウからデータが送信されてくる。


「これは何かの軌道予想図だな。地球の衛星軌道を出て、火星に向けて接近している。これは?」


「地球の密輸組織によって射出された密輸品の軌道予想図です。これを受け取ろうとしているのが、航空宇宙軍のフリゲート“グラム”とその艦長であるシモーネ・バルディーニ大佐なのです」


「つまり航空宇宙軍が密輸にを行おうとしていると……」


 火星に向けて進む密輸品の軌道予想図の最後は戦闘艦グラムだ。火星の早期警戒ネットワークの外に展開した同戦闘艦が密輸品を受け取ろうとしている。


「今回は密輸そのものではなく、密輸される品が問題なのです。これは極めて危険なウィルスであると分かっています。もちろん生物学的なウィルスではなく、マトリクスで作用するウィルスです」


「それが火星に入ると火星のマトリクスが破壊されるかもしれない?」


「そうですね。それだけで済めばまだいいかもしれないという具合です」


 七海がそう言うのにジェーン・ドウは真剣に頷いた。


「何としてもこの密輸品が火星のマトリクスに接続されるのを阻止しなければなりません。必要であれば、戦闘艦の破壊や人員の殺傷も許可します。当然ながらバルディーニ大佐については殺害する必要があると認識しています」


「了解と言いたいところなのだが、作戦行動中の戦闘艦に民間人が近づくのは不可能ではないか? 民間のシャトルではレーザー砲で撃ち落とされて、軌道上のデブリになってしまうだけだ」


「ええ。もちろんその点は理解しております。こちらで手段を手配しておきますので、どうぞご利用ください」


「分かった。では、グラムが密輸品とランデブーするのは?」


「2日後です。何としても阻止を」


「分かった」


 アドラーはジェーン・ドウに向けて頷き、七海とともに喫茶店を出た。


「どうにも怪しい仕事(ビズ)だよな。航空宇宙軍の汚職軍人を止めたければ、航空宇宙軍の憲兵にでも頼めばいいだろ?」


「ああ。私が思うに、恐らくは密輸されるブツが相当危険なのか、あるいはブツをジェーン・ドウが手に入れたいだけなのかもしれない」


「コンピューターウィルスを? マトリクスを破壊するかもしれないような?」


「ジェーン・ドウは火星のメガコーポの使い走りだ。そして、火星のメガコーポがそういうものを手に入れれば、地球に対して使用するという選択肢ができる」


「それもそうか」


 アドラーの説明に七海は頷く。


「しかし、戦闘艦に近づくための手段ってなんだろうな?」


「さあ? 軍用のシャトルでも準備してくるんじゃないか?」


「マジかよ。ちょっと楽しみになってきた」


「単純なやつだな……」


 七海が興奮するのにアドラーがあきれ顔。


「まずは李麗華と情報を共有するところからだ。今回もハッカーの力を借りることになるだろう。航空宇宙軍を相手にマトリクスからの支援がないのはぞっとする」


「そうだな。李麗華に仕事(ビズ)を受けたってことを知らせないと」


 七海たちは再びオポチュニティ地区に戻り、李麗華のマンションに。


「ジェーン・ドウの仕事(ビズ)ってなんだった?」


 李麗華は七海たちが戻るなり、そう尋ねてくる。


「航空宇宙軍の汚職軍人が密輸の片棒を担いでいて、その密輸で運ばれてくる品がやばいものだから阻止しろってさ。何でも途方もなく危険なウィルスらしい。火星のマトリクスを崩壊させるような」


「へえ。それはまた興味深い仕事(ビズ)だ」


 七海が仕事(ビズ)の内容を説明し、必要なデータを李麗華に送信。


「ふうん。戦闘艦グラム、ね。じゃあ、いつも通り私はマトリクスで、そっちは現実(リアル)で情報収集と行くかい?」


「そうしよう。と言っても、今回は現実(リアル)で手に入る情報はあんまりなさそうだけどな」


「そだね。航空宇宙軍が市井に情報を垂れ流しているとは思えないし」


 航空宇宙軍の汚職についてストリートで情報が手に入るなら、憲兵隊も既に情報を入手して取り締まっているはずだ。


「ま、期待せず探してみるさ」


「そうして。また後で分かったことを突き合せよう」


 そういう約束をして七海とアドラーはストリートへ、李麗華はマトリクスにダイブ。


 向かう先はもちろんBAR.黒猫。


「航空宇宙軍ってワードだけで検索すると流石にヒットする量が多すぎる。とりえあずは艦名のグラムと汚職を加えて検索してみよう」


 李麗華はそう言ってログの検索を開始。


 すると、いくつかのログがヒットした。


「『航空宇宙軍艦艇についてのトピック』『航空宇宙軍汚職疑惑』その他いくつか。とりあえすこのふたつから始めてみよう」


 李麗華はそう言ってログを再生。


『新造艦がまた就役。凄いペースだよな。1週間に1隻は増えてる』


 トピックの会話はまずそこから始まった。


『地球との戦争を恐れているんだろう。地球の国連宇宙軍(UNSC)の規模は、未だに火星を大きく上回っている。今、戦争になれば火星は負けないにしても、勝利もできないという具合だ』


『冷戦状態ってやつだからな。こっちがどれだけたくさんの軍艦と核爆弾を持っているのかを見せつけるのが、この冷戦って戦争だ』


『くだらねえ戦争』


 トピックはそのような流れであった。


『別に航空宇宙軍が戦闘艦をそろえているのは地球への抑止力だけじゃないぞ。他にも理由はある。宇宙海賊対策だ』


『確かにな。宇宙海賊は未だに火星の物流に悪影響を及ぼしている。今度導入されるフリゲートもその宇宙海賊対策だろう?』


『そうだ。グラム級フリゲートは艦隊決戦というより、宙域防衛や衛星軌道域での戦闘が任務だ』


 なるほど。グラムは海賊対策に生み出され、そして海賊行為に使われているると。そう李麗華は記憶した。


『武装がそこまで強固じゃないのが、その証拠だな。高出力レーザー砲4門、対艦ミサイル、機雷敷設機、そして艦載機としてシェルを搭載。宇宙海賊を取り締まるには十分だが、艦隊決戦には向いてねえ』


 ここでグラムの詳細なスペックが表示され、李麗華はそれをダウンロードしておく。


「次に行こう」


 そして、李麗華は次のログを再生。


『航空宇宙軍は間違いなく汚職をしているさ。どうして宇宙海賊がいつまでも存在すると思う? それは賄賂を受け取った航空宇宙軍が見逃してるからだ。だろ?』


『それは単純な考えすぎないか?』


 航空宇宙軍の汚職を取り扱ったトピックでは、そういう会話から始まった。


『航空宇宙軍にとって宇宙海賊の存在は、地球の脅威と同様に自分たちの存在意義になる。それを根こそぎしてしまうのが果たしていい選択かってことかもしれないぞ』


『宇宙海賊がいなくなると予算がつかなくなるってか?』


『そう。そういうこと。一部の将兵が賄賂を受け取ってるんじゃなくて、航空宇宙軍全体で宇宙海賊を全滅させないって意図がある。そうかもしれないだろう?』


 このトピックでは他に具体的に摘発された航空宇宙軍の汚職についても扱っていた。ほとんどが宇宙海賊から賄賂を受け取ったということなどだ。


 密輸についてはあまり触れられていない。


「うーん。残念ながら空振りかな」


 そう李麗華が思ってログの再生を終えたとき、あるトピックが目に入った。


『スリースター・ダイヤモンド社が火星=地球の旅客事業再開!』


……………………

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