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宇宙に向けて

……………………


 ──宇宙に向けて



 七海とアドラーはシャトルを強奪(スナッチ)するために、シャトルの集まるフィリップ・K・ディック国際航空宇宙港を目指した。


『どのシャトルを強奪(スナッチ)するかはこっちから指示を出すから、それまで待っててねー』


「あいあい。待ってますよ」


 李麗華は自宅から七海たちを支援する。


「見ろ、七海。あそこだ」


「おお」


 七海たちはタクシーで目的地に向かい、まさに今シャトルが離陸して行っているフィリップ・K・ディック国際航空宇宙港を目にした。


 曲線的で空気抵抗の少なそうな巨大シャトルが、滑走路をラムジェットエンジンをふかして駆け抜けて、そのまま宇宙へと離陸していく。そんな未来的な光景が七海たちの前に広がっていた。


「すげえ。未来な光景だぜ」


「これで驚くならば反重力エンジンを備えた航空宇宙軍の戦闘艦の離陸を見たら、もっと驚くだろうな」


「そいつも凄そうだが、今は仕事(ビズ)をやらないとな」


 七海たちはタクシーを降りると空港のエントランスに入った。


「どこから駐機場に?」


「李麗華が偽造IDを作ってくれている。このIDで駐機場に出るぞ」


「オーケー」


 七海たちは李麗華が偽造した空港職員のIDを使って、本来ならば空港関係者しか入ることのできない駐機場へと向かった。


 いくつかのセキュリティゲートを抜けると、七海たちは大小さまざまなシャトルが待機している駐機場に到着。小さなものはセスナ機程度のそれで、大きなものは七海がみたことのあるどんな大型旅客機より大きい。


 そして、どれもSF作品に出て来るもののように輝いている。


「李麗華はどれを選ぶのかね。どれもカッコよくて楽しみなんだが」


「旧式の(アイス)が脆弱なものだろう。そうでなければ強奪(スナッチ)は難しくなる」


 七海がワクワクして尋ねるのにアドラーがそう返しながら周囲を見渡す。


『おふたりさん。ようやく強奪(スナッチ)する機体が決まったよ。ナビするから、そこまで向かって。よろしく!』


「了解」


 七海たちは李麗華のナビで問題のシャトルへ向かったのだが……。


「こ、これか……?」


 そこにあったのはおんぼろなのが目に見えて分かる旧式シャトルだった。機体の塗装は剥げかけており、さらにはかなり錆びている。まともに動くかどうかすら怪しそうな機体であった。


「これはかなりの旧式だな……。小型宇宙往還機キーウィ。シリウス・ダイナミクス製の60年代のものだ」


「マジかよ。30年前の機体? もっとカッコいいのがいい!」


 アドラーも呻きながら言うのに七海が我がまま。


『これならいなくなってもすぐにはバレないし、なんだかんだで機体のシステムはちゃんとアップデートされている。文句言わずに乗り込んでー!』


「はいはい」


 李麗華に急かされて七海たちはシャトルに乗り込む。


 ガチャンと重々しい金属音を立ててドアが開き、七海たちは中に乗り込むとドアをしっかりと閉めた。機体は4座席あり、2座席は操縦席と副操縦席だ。


 アドラーがその操縦席に座り、七海が副操縦席に座る。


「李麗華。乗り込んだぞ」


『オーケー。システムを書き換え中だから少し待ってね』


 李麗華がアドラーの報告を受けて、機体の登録IDなどを書き換え。全く別の航空機として登録しなおし、そのIDで離陸の手続きを行い始めた。


「アドラー。これって宇宙に出ても本当に大丈夫なんだよな?」


「恐らくは。やはり心配か?」


「心配してないといったら嘘になる。だが、李麗華とあんたを信じるさ」


「そうか。じゃあ、幸運のおまじないだ」


 アドラーはそういうと七海の頬にキスをした。


「これがおまじない?」


「ああ。なんだかんだで嬉しいだろ?」


「否定はしないよ」


 七海はにやりと笑ってサムズアップし、アドラーも同じように笑ってサムズアップ。


『離陸許可が取れた。ここからは管制の指示に従って離陸して。管制はAIでこっちの情報は全て偽装したものを飲み込ませてあるから大丈夫』


「オーケーだ、李麗華。行くぞ!」


 アドラーがそう言い、シャトルは駐機場から滑走路へとタキシングする。


 管制塔からAIが離陸する滑走路を指定してきて、アドラーはそちらにシャトルを向かわせると、滑走路への侵入許可が出る。いよいよ離陸だ。


「宇宙酔いに気を付けろよ、七海」


「もう何にだって備えてるさ、アドラー」


「なら、準備は万端だな」


 ラムジェットエンジンが点火され、機体は一気に加速。おんぼろながらしっかりとした加速で滑走路を離陸したシャトルは、そのままデブリ対策のデフレクターシールドを展開させ、火星の空を飛んだ。


『上手くいったみたいだねー。次はオービタルシティ・ホープに近づくわけだけど、軌道監視衛星によればオービタルシティ・ホープの周辺に巡視艇サイズの戦闘艦を確認しているよ。恐らくは海賊の戦力かな?』


「おいおい。こっちは非武装だぜ? どうしろってんだ?」


 李麗華から連絡が来るのに七海が唸る。


「戦闘艦について具体的な情報はないのか?」


『待ってて。調べてみる』


 アドラーは冷静にそう質問し、李麗華が軌道監視衛星の情報を分析。


『分かったよ。シリウス・ダイナミクス製のシムシュ級コルベット。武装は高出力レーザー砲1門と近接防衛用レーザー砲2門、それから対艦ミサイル4発という軌道警備目的のシンプルなやつ』


「シムシュ級か。なら、どうにかなるだろう」


『こちらからもできるだけ支援する』


「頼むぞ」


 アドラーはそう言ってシャトルをオービタルシティ・ホープに向ける。


「俺は軌道衛星都市に到着するまで2095年宇宙の旅を楽しむよ」


「そうしていてくれ。ジェットコースターに乗った気分になれるぞ」


「うへえ」


 七海がアドラーの言葉に呻く中、シャトルは加速し、宇宙空間を駆ける。


『問題のコルベットがスペック通りに動いているなら、そろそろレーダーの索敵圏に入るよ。用心してねー』


「クソ。マジでこのおんぼろで軍艦相手にやるのかよ」


『こっちでも廃棄衛星のアクセスして妨害を試みているから。そっちも頑張って!』


「はいはい。と言っても、頑張るのはアドラーだが」


 李麗華からそう言われて七海はアドラーの方を見た。


「行けそうか?」


「行かせてみせるさ。吐くなよ、相棒」


 そういうとシャトルは殺人的に加速した。七海はシートに押し付けられる。シャトルは加速に加速を重ね、その速度はかつてのジェット戦闘機以上の速度となる。


『コルベットに動きありだよ。艦首をそちらに向けつつある。分かっていると思うけど、艦首には高出力レーザー砲だからね』


「ああ。知ってるとも」


 シムシュ級コルベットの高出力レーザー砲は艦首付近に設置されている。それは潜水艦の魚雷発射管と似たような配置だ。


「見えてきたぞ。あれがオービタルシティ・ホープだ」


「あれがか」


 オービタルシティ・ホープは旧式のデザインの軌道衛星都市で、デザイン性など皆無なシンプルすぎる円錐上の構造物が自転しながら火星の軌道上を周回していた。


 工事途中だったらしく、まだ完成していないだろう部位も見られる。


『今、廃棄衛星を誘導しているけど、そっちの突入(ブリーチ)間に合いそうにない。本当にどうにかできそう?』


「何度も言わせるな。何とかする!」


 アドラーはそう言うとオービタルシティ・ホープに向けてシャトルを駆る。


 そこでようやく問題のコルベットが視界に入った。灰色に塗装されいる艦で、ずんぐりとした葉巻状のシルエットで艦首では何かの光が見える。


「来るぞ──」


 次の瞬間、コルベットから高出力レーザーが発射された。


 アドラーはシャトルを大きくひねるように機動させてレーザーを回避。七海はあまりの急な運転に三半規管がやられかける。


「マジかよ。本当に撃ってきやがった」


「大丈夫だ。あの手の小型艦は連続して主砲を撃てない。次は恐らく54秒後!」


「うおお!?」


 アドラーがそう言う中で七海はシャトルの座席にさらに押し付けられる。コルベットの射撃管制装置(FCS)を撹乱するための機動であり、コルベットの主砲の狙いがなかなか定まらない。


 それでもコルベットはさらに発砲。レーザーが七海たちのシャトルを狙う。


「うひょー! やべえ、やべえ! 殺しに来てやがる!」


「ああ! 当然殺しに来てるだろうな! だが、もう少しでオービタルシティ・ホープそのものを遮蔽物にできる!」


 コルベットは七海たちから見てオービタルシティ・ホープの左側に位置しており、アドラーはオービタルシティ・ホープの右側に向けてシャトルを機動させている。もう少し突っ込めば、コルベットは攻撃できなくなるだろう。


 しかし、その前にさらにレーザー砲の砲撃だ。


「ふん!」


 アドラーはナノセカンド単位で敵の攻撃を分析し、回避行動を実行。レーザー砲の砲撃を見事潜り抜けてオービタルシティ・ホープへと接近する。


『廃棄衛星を誘導中! コルベットを潰すよ!』


 李麗華からもそう連絡があり、コルベットに向けて廃棄されていた大型の通信衛星が突っ込む。コルベットは近接防衛用のレーザーで迎撃しようとするも力及ばず、コルベットのデフレクターシールドに衛星が接触。


 デフレクターシールドが衛星に押されながら軋み、ついにはエネルギーが飽和して決壊。コルベットの艦体に巨大な衛星が衝突してコルベットが宇宙空間の中で無音で崩壊していく。


「オーケー。これで帰り道はばっちりだな」


 七海がそう言う中で、アドラーはシャトルを宇宙海賊ポセイドンの拠点となっているオービタルシティ・ホープへドッキングさせるべく接近を続けた。


……………………

今日の更新はこれで終わりです。


応援が励みなって作品ができています……。ですので、面白いと思っていただけたらぜひ、評価やブックマーク、励ましの感想をよろしくお願いいたします……。

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