逃亡
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──逃亡
一斉に放たれたグレネード弾と砲弾。
口径40ミリのグレネード弾と口径84ミリの無反動砲弾には、超高度軍用爆薬が装填されており、それが炸裂すればサーバールームごと七海たちはお陀仏だ。
「イグニス!」
ここで七海がイグニスを召喚。
「全く、とんでもない場で呼び出すものだね!」
イグニスは飛来する爆薬を認識すると熱の壁を展開。それに触れた爆薬が暴発して炸裂し、周辺に被害が及ぶ。
爆発の衝撃は博物館を揺さぶり、天井や壁が崩壊するのではないかというぐらいに音を立てて揺れ、照明が消えたり付いたりと点滅する。
『やったか!』
これは流石に七海たちも死んだだろうとウォッチャーのコントラクターたちは確信。
しかし、彼らの予想は裏切られた。
「はーはっはっはっ! この程度で死ぬとでも思ったかよ!」
『目標は未だ健在! 繰り返す、目標は未だ健在だ! クソッタレ!』
七海が粉塵の中から飛び出してウォッチャーのコントラクターに襲い掛かり、ウォッチャーのコントラクターたちは悲鳴じみた報告を叫ぶ。
七海はイグニスの熱の壁で、アドラーはデフレクターシールドを展開して、それぞれ攻撃から身を守っていた。サーバールームもそれによって辛うじて無事だ。
「李麗華。そろそろ30分だぞ。終わったか?」
『ばーっちり! 今、終わったところだよ。脱出して!』
「よし。いい知らせだ」
そんな状況下でアドラーが李麗華に連絡し、李麗華からそう返事が来る。
「七海! 李麗華の仕掛けが終わった! 脱出するぞ!」
「了解だ、相棒! とんずらしようぜ!」
七海たちはもはやサーバールームを守る必要もなくなり、前方に向けて脱出を開始。ウォッチャーの部隊はもはや壊滅的打撃を受けており、七海たちを食い止めることができずにいる。
だが、彼らにはまだ切り札があった。
『ミシシッピ・ゼロ・ワンより本部。こちらは既に全機展開を完了している。指示をくれ』
ここでウォッチャ-のこのような通信をアドラーが傍受。
「七海。恐らくシェルが地上階では待ち伏せている。警戒しろ」
「例のロボット兵器か。任せときな! 俺が蹴散らして──」
七海がそう言って地上に出たと同時に爆発が彼を吹き飛ばした。
『本部よりミシシッピ・ゼロ・ワン。目標をマークしている。火力を叩き込んで始末しろ。交戦規定は射撃自由、抵抗者なしだ!』
『ミシシッピ・ゼロ・ワン、了解』
そのような通信が流れた直後に爆発が起きた方をアドラーが見ると、そこにはオリーブドラブに塗装された二足歩行する大型ロボットがいた。
それは気取った様子のない性能だけを追及した武骨な戦闘機械というシルエットを備え、数々の武装を装備している。。
左手には口径105ミリ電磁砲。右手にはエネルギーブレード。右肩には口径30ミリガトリングガン。左肩にはデフレクターシールドジェネレーター。
そんな完全武装の歩行戦闘車両──シェルが4体が、そこにはいた。
「七海! 無事か!?」
「か、辛うじて……!」
七海が瓦礫の中から起き上がり、目の前に立つ鋼鉄の巨人を見る。
「わお。こいつはやべえぞ……」
『目標の生存を確認。叩きのめせ』
七海が嫌な汗をかくのと同時に電磁砲が火を噴いた。
放たれた多目的対戦車榴弾が炸裂し、七海が再び衝撃によって弾き飛ばされる。砕けたコンクリートの上を七海が激しく転がり回った末に、彼は“加具土命”を構えて立ち上がった。
「ばかすか撃ってるんじゃねーぞ、クソロボット!」
七海はそう叫ぶと彼は身体能力強化を極限まで行使しして、“加具土命”を握り、シュルに向けて肉薄を試みる。
『敵はサイバーサムライだ。肉薄させるな!』
『デフレクターシールド展開!』
しかし、七海の攻撃をシェルが展開させたデフレクターシールドが防ごうとする。
このデフレクターシールドは主力戦車の主砲の砲撃すら弾くものであり、七海の攻撃も失敗するかと思われた。
「ふんっ!」
だがしかし、七海の振るった“加具土命”はデフレクターシールドを切り裂き、さらにはシェルの電磁装甲も、複合装甲すらも引き裂き、シェルの頭部を破壊。
『なんだと……!? デフレクターシールドを引き裂いた……!?』
『クソ。敵は未知のエネルギーウェポン、またはサイバーウェアを使用してる! 全機、警戒せよ!』
シェルは一撃で撃破とはいかなかったが、彼らに七海を脅威に思わせるには十分。
「七海! 敵のシェルはアレス・システムズ製のヴァルキリーA4だ! 今、連中の弱点になる部分をそっちのARデバイスに表示させる!」
「あいよ!」
七海のARデバイスにアドラーから送られてきた敵のシェル──ヴァルキリーA4の弱点部位が表示させる。センサーの集まった部位やエネルギーバッテリー部位、あとはコックピットの位置が表示されている。
「オーケー。やってやるぜ!」
七海はさらに身体能力強化を行使して敵のシェルに迫る。魔術によって物理法則を捻じ曲げ、超加速した七海が突撃し、魔剣“加具土命”をシェルに向けて振るう。
だが、敵もやられてばかりではない。
『エネルギーブレード展開!』
シェルの右手に装着されたエネルギーブレードが青い光を伴って展開する。その巨大な刃が七海に向けて振り下ろされた。
「うおおおっ! マジかよ!」
七海が悲鳴じみた声を上げる中でエネルギーブレードが迫り、七海は“加具土命”でそれを迎え撃つ。電気の弾ける音が響き、エネルギーブレードが“加具土命”に接触。
『まさかエネルギーブレードを迎え撃った……!』
主力戦車であろうと貫くエネルギーブレードが、ただの人間が構えている剣に迎え撃たれている光景にシェルのパイロットが思わず呻く。
「この程度でやられてたまるかよ!」
七海はそのままエネルギーブレードを押し返してシェルをよろめかせると、再びシェルに肉薄して、今度は弱点部位であるバッテリーを狙う。
“加具土命”はバッテリーを貫き、バッテリーから火花が散る。シェルはすぐには停止せず、分散配置された予備バッテリーで稼働するが、そこまでだ。もはやエネルギーブレードもデフレクターシールドも展開できなくなった。
『ミシシッピ・ゼロ・フォー! 脱出する!』
鉄の棺桶に成り下がったシェルからパイロットが脱出。
「残り3体!」
七海がそう叫ぶ。
「七海! 破壊されたシェルから、ここにいるシェル部隊のネットワークへの侵入をやってみる! それまで時間を稼いでくれ!」
「あいよ! でも、できるだけ早くしてくれよ! 流石にこいつはきついぜ!」
アドラーは七海によって破壊されたシェルに向かいながらそう言い七海が苦しい笑みでそう返す。残っている3体のシェルは七海を殺す気満々で向かってきている。
『撃て、撃て! 叩きのめせ!』
2体のシェルの肩に装着されたガトリングガンが火を噴き、七海を狙う。
口径30ミリのガトリングガンはあらゆるものを破壊する威力で、考古学研究棟の鉄筋コンクリートの構造をやすやすと破壊し、七海に遮蔽物を与えない。
さらに言えば流石の七海でも、この口径の砲弾を弾くのは難しい。
「畜生、畜生! 殺す気かよ!」
七海は身体能力強化で加速しながらシェルの砲撃を回避し、アドラーがネットワークに侵入するまでの時間を必死になって稼ぐ。
『クソ。どういう速さだ。射撃管制装置で照準できない』
『面を制圧するぞ。一斉に砲撃して叩く』
『了解』
いくらガトリングガンで砲撃しても七海を殺害できないのに苛立ったシェル部隊の指揮官が面を制圧することを指示。口径105ミリ電磁砲に多目的対戦車榴弾が装填され、3体のシェルが一斉に発射した。
「イグニス!」
それに対して七海はイグニスを召喚。イグニスが現れると同時に生じた熱の壁が、多目的対戦車榴弾を暴発させ、空中で爆発が生じる。
「慌ただしい日のようだな、坊や。次は何をやらせる気だい?」
「何とか時間を稼ぐってところだよ、姐さん!」
「ふうん。何とかしてみようか」
イグニスは熱の壁を展開しながら、炎によって敵のセンサーや武装を狙う。
しかし、シェルや戦車などの装甲戦闘車両が火炎瓶などの炎でどうにかなったのは、昔の話だ。今の軍用兵器は多少の熱には耐えられる。
「姐さん、そのまま敵を引き付けておいてくれ! 俺が連中の武装を潰す!」
「はいはい。任せておきな」
イグニスが正面から敵のシェルと交戦している間に、七海が側面からシャルへの打撃を試みる。時間を稼ぐと言っても守ってばかりでは、押し切られると判断した結果だ。
『ミシシッピ・ゼロ・ツー! 側面からのサイバーサムライが迫っているぞ!』
『クソ。デフレクターシールド展開!』
七海が迫るのにシェルがデフレクターシールドを展開して、七海の攻撃を防ごうとする。七海の前面に青く帯電した障壁が展開する。人が触れれば黒焦げになるようなエネルギーがそこにはあるが、七海は止まらない。
「そらっ!」
七海は再び強引にデフレクターシールドを引き裂いて突破。
そのままシェルの左手を切り落とした。
「はははっ! 武装のひとつは封じ──」
『エネルギーブレード展開』
「やべえ」
七海が攻撃を浴びせたのちに離脱しようとするのを、シェルがエネルギーブレードを振り上げて阻止しようとする。
「回避、回避ー!」
七海は必死に身体能力強化を駆使して攻撃を回避し、空を切ったエネルギーブレードは博物館をばっさりと切断した。
「まだか、アドラー!?」
「今、完了した。システムを焼き切るぞ」
七海がそう叫ぶのにアドラーがそう報告。
次の瞬間、シェルの制御系がネットワークからの過負荷で焼き切られ、シェル3体は動きを停止しした。
「オーケー! このまま脱出だ!」
「長居は無用だな!」
シェルが動かなくなったところで七海とアドラーは博物館内を駆け抜けて脱出。
『ヘイ、おふたりさん! この車を使うといいよー!』
「サンキュー、李麗華!」
李麗華がリモート運転で侵入したときとは別の車両を寄越し、七海たちはそれに乗り込んで博物館から脱出したのだった。
「もう俺たちは博物館に一生出禁だな」
「どうでもいいだろう」
そんなことを言いながら、七海とアドラーは李麗華の下に戻る。
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