38《幕間》ギヨームは見た②
バタリと閉まる扉。
「で? どうするの? ふたりを行かせちゃっていいの?」とクレールが尋ねる。
「バジルと言ったな」ディディエはクレールを無視して、若い薬師に声をかけた。
「リュシアンはこれを何杯飲んだ?」
バジルは、え、と声を上げて戸惑い顔で周りを見回した。
「あいつのことだ。どうせ何度も飲んだのだろう? リュシアンに親しみを感じているなら、あいつを助けると思って素直に教えろ」
「そうなの? バジル?」とロザリーも尋ねる。
「……先程ので五杯目です」
五杯、と誰かが呟く。
「『真実の愛に辿り着く』に今回の騒動の原因を解く力があるかもしれないと知らせて来た日から、毎日。効果が出ないと仰って」
「『効果が出ない』か」とクレール。「腹が立つなあ。ずるいよね。傍観者のふりをしてさ」
「そうする他ないと考えていたのでしょう」とジスラン。「婚約者がいて、自分の力では婚約解消も出来ないのでは」
「歯痒かっただろうな」とマルセル。
「リュシアン殿下は、少なくとも、ディディエ殿下のような抜け駆けはしなかった」とエルネスト。
「どうだか」と王子。
「協定を結ばせたのは、アニエス殿を世間の好奇の目から守るためでしょうしね」とジスラン。
ロザリーが瞬きを繰り返しながら、皆の顔を見ている。
「協力してくれるよね?」とクレールが彼女に声をかけた。「僕はアニエスが好きだよ。彼女に泣いてほしくない。それに自分勝手な王子より、百倍マシだ」
「そうか? こんなに従兄思いの男は他にいないぞ」
ディディエが言う。
「彼女に好かれる兆しが全くないからですね?」と堅物騎士が王子に向かって辛辣なことを言う。
だが王子は何も答えなかった。
「皆さん、何の変化もないのですか?」
俺が問うと、五人の視線が一斉にこちらに向いた。
「変わりましたよ」とジスラン。マルセルもうなずく。
「落ち着いたような気がしないでもない」とエルネスト。
「秘密」とクレール。
「きれいさっぱり、恋情は消え去った」
王子は力強く宣言をした。
「私はもう、アニエスを好きではない。愚かにも外的要因に踊らされていただけだった」
「さて。あっちはどうなるかな」
クレールはやけに明るい声で言うと、椅子の背に持たれて目を閉じた。




