42日目 魔法生物学:マンドラゴラの栽培について!
42日目
ギルが静電気でパチパチしてる。予想通り過ぎて面白くない。
季節外れのパチパチに若干イライラしながら食堂へ。寝不足気味のやつとアホ面晒しているやつがはっきりと分かれていた。寝不足のヤツはテスト勉強をしていたに違いない。アホ面さらしているやつはたぶん頭の中身もアホなんだろう。出来るやつはそもそも急な追い込みをかけないからキリッとしていた。
ロザリィちゃんが可愛く欠伸を漏らすのが超キュート。眠気が一気に吹っ飛んだ。いつかあのほっぺをぷにぷにしてやるんだ……。
授業はグレイベル先生とピアナ先生の魔法生物学。この授業に関しては中間試験はないらしい。嬉しさに不思議と涙が出てしまった。『みんな眠そうだねーっ!』って明るく声をかけてくれたピアナ先生がとっても可愛い。ぎゅってしたい。
授業内容はなんと……マンドラゴラ! 俺の一番得意なマンドラゴラ! ひゃっほう!
とうとう俺の自慢のマンドラゴラテクニックを披露できるとあって、テンションもマックスに。素手でマンドラゴラを笑わせられる人間なんて俺は他に見たことがない。そのことをグレイベル先生に話したら、是非とも実演して見せてくれと言うので実際にやってみた。
ここでいかにこの技術がすごいのかを確認するために、マンドラゴラの生態について確認しておく。
収穫時期のマンドラゴラってのは、土の中で休眠状態にある。こいつは太陽の光を浴びることで、すなわち引っこ抜かれた瞬間に活性化し、高い殺傷能力のある悲鳴を発する。活性化した瞬間を利用してため込んだ爆発的な魔力を一気に開放するってのがその仕組みだ。
この悲鳴の対処法ってのは主に二種類。完全に悲鳴を防ぐ手立てをしたうえで引っこ抜くか、地面の中で声を上げさせ、そもそもの悲鳴の威力を大幅に削ってしまうかだ。
俺の素晴らしすぎるマンドラゴラテクニックは後者にあたる。土中のマンドラゴラを手探りでくすぐって笑わせることで、活性化前にそのため込んだ魔力を安定的に発散させてしまうというものだ。
常識だけど、マンドラゴラの悲鳴が危ないのは最初の一発だけ。それを危なくない状態で行うってだけだ。猫に引掻かれる前に爪を取ってしまうようなものである。
ただ、こいつは結構難しい。土の中にいるものに光を当てずに適度な刺激だけを与えなくちゃいけないからだ。専門の道具としてねこじゃらしが使われるけど、それだって熟練を要する。
つまり、素手でできる俺超すごい。
んで、愛しのロザリィちゃんとピアナ先生の前で思いっきりマンドラゴラをくすぐってやった。俺のミスリルハンドにあらがえるマンドラゴラがいるはずもなく、一撫でしただけで土中から笑い声が響きまくっていた。
もちろんその声に殺傷性なんてあるはずがない。引っこ抜かれたマンドラゴラはみんなプリティベイビーなスマイルを浮かべていた。こころなしか肌艶もいいかんじ。
もうね、土に手を突っ込んだだけで笑い声が上がるからマジで気持ちがよかった。マンドラゴラちゃんたちがきゃっきゃきゃっきゃ笑っているの。得意なことなんて何一つない俺だけど、マンドラゴラを素手で笑わせる事だけに関しては胸を張って特技だって言える。
常人が一時間に二十体のマンドラゴラを処理できるのだとしたら、俺は三百体は軽く超える。実際そんだけのスピードでできる。ベテラン産婆さんもびっくりなペースで俺はマンドラゴラをこの腕に抱き続けた。途中で持ちきれなくなったからギルのローブにも突っ込んだ。
グレイベル先生もピアナ先生もぽかんって口を開けて呆然としていた。そっとマンドラゴラを抱かせてあげた。
そのあと、ロザリィちゃんの隣に行ってマンドラゴラテクニックをじっくり見せつける。『ふぉぉ……!』って見つめてくるロザリィちゃんがベリーキュート。惚れ直す。いや、むしろ惚れられたに違いない。
畑いっぱいのマンドラゴラを処理しつつ、先生に代わってちゃんとした処理方法も教えておいた。子羊たちに俺のテクニックを伝授したらヤケドじゃ済まないからだ。ジオルドとかクーラスとかがヤバい生き物を見たかのようにぶるぶる震えていたし。
力あるものはいつだって孤独だと身に染みる。でも畏怖って言葉はすごくすき。
途中でギルの静電気が未処理のマンドラゴラを刺激し、あわや大惨事になるところだったけど、あいつ、土からマンドラゴラが飛び出てきた瞬間、『おせえおせえ!』って言って口を開かせる前に神速でぶん殴って処理してた。俺あいつがすごく怖い。
ロザリィちゃんとの愛のマンドラゴラ共同作業中、なんかいい雰囲気になったので、手をわきわきしてくすぐろうとしたら『やーん♪』って笑ってくれた。可愛すぎて鼻血が出そうになった。
イケると思って近づいたら、気高きアルテアちゃんと勇猛たるミーシャちゃんに蹴りを入れられた。そして、フィルラドに体を押さえられ、ポポルからマンドラゴラビンタを貰ってしまった。頬がじんじん。解せぬ。
きっちり処理したマンドラゴラを正気に戻った先生に託して栽培スペースを後にした。背中に受けるピアナ先生の尊敬のまなざしが心地よかった。サインをねだられてもいいように、あとで練習しておこう。俺、マンドラゴラで食っていこうと思うんだ……!
で、夕飯食って風呂入って雑談して今に至るんだけど、俺の偉業はやっぱりいつものページ数じゃ収まりきるものじゃなかった。これでも短く端折りまくったってのを覚えておいてほしい。
マンドラゴラ処理の新たな可能性をもたらしたギル(いい運動ができたからかイビキが規則的。やつはパンチだけでクラスメイトがヘマしたマンドラゴラを完璧に処理して見せた)に尊敬の意味を込め、ちょろまかしたマンドラゴラの根足を鼻に詰めておいた。
今日はいい夢が見られそうだ。




