357日目 目覚め
357日目
なんか魔法が使えない。ピュアな頃に戻った気分。
ギルを起こして厨房へ。珍しくアバズレやババアロリがいると思ったら、『魔法が使えない……!』って二人ともが慌てていた。あのルフ老も、『儂の一生分の研鑚がァ……!』って歯をぎりぎりしている。で、三人そろってマデラさんに呪われていないかどうか確認してもらいに来たそうな。
が、『……一日経てば戻るさ』とマデラさんは一言だけ言って朝の仕事に戻る。『普段から魔法ばかり使っているんだ。たまにはたるんだ体を鍛えたらどうだ?』と、自分は事もなげに杖の一振りでいろんな仕事をしていた。
間違いなく、ギルの影響だろう。どうやらこの宿屋に泊まっている全員(マデラさんを除く)が魔法を封じられたらしい。
ともあれ、そんなこと仕事には関係ないのでいつも通りの業務を行う。『今は魔法よりも新しい入浴剤がほしい』とアルテアちゃん。『最近ナイフさばきうまくなってきたと思わない?』とロザリィちゃん。リボン&ヴィヴィディナのオートで洗濯仕事をするミーシャちゃん&パレッタちゃん。二人とも抱き合うようにぐっすりスヤスヤしていた。
朝食はやっぱりみんなで取る。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃが膝に乗ってきたため、サラダを多めに『あーん♪』してやった。サラダばかり食わせていたら執拗に顔面を引っかかれたのが未だに解せぬ。
ギルはもちろん『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。グリル、ロースト、ポワレ、ピカタ、マルヤキ、ソテーもうまそうにそれに頭を突っ込んで食べていた。どうやらもうエッグ婦人がいなくても一人で飯を食えるようになったらしい……っていうか今までもそうだった気がする。
あ、俺も久しぶりに愛の杖にジャガイモを食べさせておいたよ。いや、正確にいうとさ、杖のほうがビクビク脈動してジャガイモを要求してきたんだよね。『なにそれすっごくこわい』ってリアは言っていた。
午前中は仕事をして過ごす。冒険者連中も魔法が使えないため、大半は宿屋でゆったり過ごしていた。おっさんが手をワキワキしながら『昨日の借りを返さないとな?』ってナターシャに詰め寄り、ナターシャは『あっ、バカやめろぉ!』って抵抗するもくすぐられまくっていた。たぶん、昨日の酒瓶インパクトの復讐だろう。
そうそう、暇を持て余したポポルとパレッタちゃんがルフ老&ミニリカと追いかけっこをして遊んでいた。『合法的に体に触れていいとは……!』ってルフ老はハァハァしていた。ポポルはポポルで『付き合ってくれそうなのあの二人くらいしかいないじゃん?』って言っていた。こいつ、たまに物事の本質を見抜くから侮れない。
なお、開始早々年寄り二人はバテていた。『む、昔はもっと走れたのに……!』、『そこにレディがいるのになぜ儂の体は動かぬのだ……!』ってなかなかに悔しそう。普段から魔法を使っている弊害だろう。
『あらぁ、おじいさま。もっとがんばりましょうよ!』ってパレッタちゃんはローブの裾から足をチラチラしてルフ老を煽る。『全然手ごたえねーなぁ』ってポポルも無意識にミニリカを煽る。ほほえましい祖父母と孫のそれだったことをここに記しておこう。
午後の時間、ちょっと面白いことが。クーラスがリアに『こないだのエプロン、ようやく完成したよ』ってちゃっぴぃのと色違いのそれをプレゼントしていた。
どうやら夜寝る前とかにちょくちょく進めていたらしい。リアのやつ、眼を輝かせて『わぁっ! ありがとう!』って喜んでいた。
しかも、『おにいちゃん、だーいすきっ!』ってクーラスにぎゅーっ! って抱き着いたの。それもやましい感じは一切なくて、本当につい感極まって抱き付いたって感じ。
子供の純粋な好意だったからか、クーラスも満更でも無さそげ。『気に入ってくれたならうれしいよ』ってぽんぽんとリアの頭を撫で、軽く抱き締め返す。ようやくガキの扱い方というものを覚えたのかもしれない。
あまりにも嬉しかったのか、リアは夜の宴会の時、それを装備してウェイトレスをやっていた。無駄にターンとかしたりしてひらひら具合を楽しむという浮れっぷり。『女の子だもん、こういうのはうれしいよね!』ってステラ先生も一緒になってターンしていた。
ああもう、ステラ先生が女神過ぎて困る。あんなにもエプロンが似合う先生が他にいるだろうか。いや、いない。
しかも、『先生、魔法使えないとただのぽんこつだから……』って昨日以上にサービスたっぷりに働いてくれるっていうね。なんでステラ先生はこうもステキで気高いのか。先生ならいてくれるだけで売り上げ向上するし、なにより周りのみんなを癒してくれるというのに。別に気にしなくてもいいのに頑張ってくれるところが、もう本当にマジキュート。
あと、魔法使えないとぽんこつだって言ってたけど、期末テストのときに普通にジオルド締め上げてたよね? そこのところはどうなんだろう?
なお、リアはお礼のつもりなのか、『パパのおごりでパフェあげる!』ってクーラスに貢いでいた。『いや、別にそんな気にしなくても……』ってクーラスは言ったけど、『もう、そっちこそ素直に受け取りなさいな!』ってアレットが激昂するアレクシスを鞭でガチガチに固めながら笑顔で押し付けていた。
だいたいこんなもんだろう。最後に衝撃の事実を書いておく。
夜、なんかクーラスがぼーっとしていたので話を聞いたら、『やべえ、なんか目覚めそう』って、その一言だけを呟いた。その視線の先にはアレットに髪を拭いてもらっている湯上りリア。ちょっと冗談抜きにクーラスはもうおしまいかもしれない。
ギルはスヤスヤとクソうるさいイビキをかいて寝ている。友人がヤバい扉を開けかけているというのに何とも呑気なものだ。
とりあえず、床に落ちてたリアの髪の毛でも詰めておこう。グッナイ。




