283日目 基礎魔法材料学:アロン-カボナ系の魔平衡状態図
283日目
爽やかな風が部屋に吹き込んでいる。ジャガイモ臭がしなければ最高だったのに。
ギルを起こして食堂へ。冬休み明け一発目の授業日だからか、いつもより微妙に人の集まりが良い。きっと寝坊で遅れることを恐れたのだろう。この学校、変なところで真面目な人が多いよね。
朝食後はちょっと趣向を変えて紅茶を楽しんでみる。俺の知らない茶葉だけどなかなかいい感じの香りだった。鼻にふわっと抜けていくときに懐かしい何かを思い出しそうになる。紅茶ってコーヒーやココアに比べて味が薄いからそんなに飲まないけど、こういうところはすごいと思う。
ギルはもちろん『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていた。『お前もどうだ?』と紅茶を進めたところ、『ジャガイモって最強だよな! だってコーヒーにも紅茶にも合うんだぜ!』って超笑顔で紅茶をがぶ飲みしていた。こいつ紅茶の味全然わかっていない。
そうそう、ふうふうしながらゆっくり紅茶を飲むロザリィちゃんがめっちゃかわいかった! 一口飲んでほわっと顔を緩めるところなんて天使と見間違えるくらいにキュートでびっくりした! なんでロザリィちゃんってあんなにかわいいんだろう?
授業はシキラ先生の基礎魔法材料学。『おーっす、あけましておめでとう!』と相変わらずシキラ先生は元気。『休み明け一発目の授業ってやる気でなくてたるいよな!』となかなかの発言。そしてその割には腕まくりして出欠取るのがめっちゃ早い。『シューン先生みたいにやってたら日が暮れちまうからな!』ってさりげなくシューン先生をディスリスペクトするのも忘れない。
内容は魔平衡状態図の具体的な例……ってことでアロン-カボナ系の魔平衡状態図をやった。クソ面倒だけど以下にその概要を簡単に描いておく。正直文章だけじゃ説明できない。
描くのクソ面倒くさかった。正直やった事を後悔した。なんで俺はわざわざ貴重な睡眠時間を削ってまでこんなことをしたのだろうか。『教科書見とけ』の一言で済んだのに。
真面目な俺だからとりあえず説明する。まず、純粋なアロンは低魔度から順にαアロン(体心立方)、γアロン(面心立方)、δアロン(体心立方)のように魔度によって変化し、このように純粋魔法材料において魔度によって構造が変化することを同魔素変態と呼ぶ。
カボナを固溶したアロンについてはα固溶魔体(フェリア)、γ固溶体(みんな大好きオステル)、およびδ固溶魔体とセメテルが存在する。また、同系統別種のアロン、特にキャストアロンではα固溶魔体およびγ固溶魔体のほかに高カボナ領域で安定系のグラフィテルと準安定系のセメテルが存在する。
また、高魔度、低カボナ領域ではδ+Lの包晶反応、中魔度、高カボナ領域ではL→γ+Cの共晶反応、低魔度、低カボナ領域ではγ→α+セメテルの共析反応が起こる複雑な魔平衡状態図である。
A1変態の線は共析魔度で、同様にA3変態はフェリアの析出魔度、Aπはセメテルの析出魔度を示す。A0変態はセメテルの魔磁気変態魔度を示し、これを境にセメテルが強魔磁性と常魔磁性に変化する。
アロン-カボナ系(アロンとカボナの複合魔法材料)ではアロン-セメテル系魔平衡状態図により、グラフィテルではアロン-カボナ系魔平衡状態図により組織変化を考える必要があり、セメテルの代わりにグラフィテルが生成する。
ぶっちゃけるけど、説明の部分は教科書丸々写した。休み明け一発目からこれとか泣けてくる。再履が多い本当の理由がわかった気がした。いくらなんでも内容濃すぎない? しかもめっちゃ複雑だし、中間までにやった内容とかめっちゃ関わってきているし。何なのコレ?
『こんくらい楽勝だろ? だってお前ら、クリスマスも暮れも年明けもあんなにバカ騒ぎしたりイチャついてたりしたもんなぁ? 予習も復習もしなくていいくらい余裕があったもんなぁ?』ってシキラ先生はすんげえにっこりと笑って言っていた。この人、間違いなく私怨が入り乱れていね?
もちろん、再履の人も含めて全員涙目。俺だって涙目。ギルだって涙目。必至こいてノートをとったりするので精いっぱいだった。今回は俺のノートにコボルトの落書きしかないって言えば、どれだけヤバい授業だったかわかってもらえるだろう。耳のところが実にうまく決まったからぜひ確認してほしい。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日はちょっと疲れたのでさっさと寝よう。ギルの鼻には床に落ちていた木屑を詰めてみた。みすやお。
※魔系の文字に対応できなかったため、文章中では代替して別の文字を使っています。
・α
図中のフェリア(○を伸ばしてeを付けたような記号)
・γ
図中のオステル(反転した々に○を付けたような記号)
・δ
傾けたψに○を付けたような記号
・L
図中上部真ん中のうねうねしている記号
・C
図中の%の左にある記号。
・A
変態の前にある記号
・π
一番上の変態のAに該当する部分にある下添え字の記号
大晦日から元旦にかけてこの図を作成していた。卒論とか学会とかあるのになぜあのクソ野郎は最後の最後でこんな手間をかけさせるのか。
もちろん、理系なら資料は全部 TimesNewRoman。まさか今まで培ってきたことをこんな形で使うとは思ってもいなかったよ。




