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259日目 魔法造成実習:対人戦闘訓練【VS.クーラス】

259日目


 ギルの涙が炎。意外にも綺麗で不覚にも感動した。


 ギルを起こして食堂へ。あいつがあくびして涙を流すたびに随所で感動(?)の声があがる。恐ろしいことにほとんど涙と同じ性質を持っているらしく、燃え広がることがないうえに流体的に扱える。これほど珍しいものもそうそう見つからないだろう。


 で、さっそくティキータのゼクトとバルトのシャンテちゃんが『取引しようぜ!』とやってきた。炎の涙は数滴しかなかったため、おばちゃんに断りを入れてコショウを借り、やつの顔面に思いっきりまぶす。


 『ぐおぅあ!?』ってギルの悲鳴と、『食べ物で遊ぶんじゃない!』っておばちゃんの怒声。拳骨が飛んできた。解せぬ。


 とはいえ、予定通りたくさんの炎の涙の採取には成功。『理由くらい言ってくれよ親友……』ってギルが涙目だったので、『心で通じると思ってたんだけど……』って言ったら、あの野郎、『も、もちろん通じていたし? 今の親友ジョークだし?』って焦りだした。俺、あいつの考えていることがいまいちよくわからん。


 なお、『クラス財産にあったけど使える人がいなくてさ』とゼクトからはクリンゲル・トーアを、『なんかいつの間にか手元にあって怖くなっちゃって……』とシャンテちゃんからは異界の雫をもらった。


 よくよく考えれば、俺、素材二つとおばちゃんのゲンコツを交換したってことだよね? シャンテちゃんはともかく、ゼクトもゲンコツされるべきじゃね?


 もちろん、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを喰っていた。炎の涙で部分的にいい感じの焦げができてとてもおいしかったとか。


 さて、今日はちょうスーパーウルトラゴールデン女神ステラ先生の魔法造成実習……と言う名の対人戦闘訓練。『ギルくん、なんかおしゃれだねっ!』って杖をコンコンしながら出欠を取る姿がマジプリティ。


 ギルの野郎、トロールみたいな笑顔を浮かべて鼻の下を伸ばしていた。もちろん、ミーシャちゃんがすんげえ不機嫌な顔でギルの腕をガジガジしてた。なぜかちゃっぴぃも一緒にガジガジしてた。


 さて、今日の対戦相手はクーラス。『普通にやろうぜ。お前の普通じゃなくて、世間一般の普通だぜ?』と言ってきたので、『俺ほど普通な人間、他にいるのか?』って聞いたら『そういうところが普通じゃないってなんでわからないんだよ……』って呆れられてしまった。解せぬ。


 早速試合開始。クーラスは早々に罠魔法陣をこれでもかと展開し、俺の迎撃態勢に入る。あいつの罠魔法の特性上、受動的な攻撃しかできないとはいえ、俺は迂闊に近づけないし、なにより決闘の控えチームを爆破するようなイカれたやつが相手では油断ができない。


 ちょっと試しにそこらの小石を魔法陣に投げてみたら、一瞬でそれは燃やされ、凍り、毒に侵され、そしてチリになった。あいつの罠魔法ちょう怖い。


 『さすがにやりすぎじゃないか』って声をかけたら、『そうでもしないと身の危険を感じるからな』って返された。身の危険を感じるのはこっちだ。


 しかしまあ、マジで失敗したと思ったね。遠距離から魔法で攻撃とかもしたんだけど、なんか魔法感知式の罠魔法陣があって、連鎖的に跳ね返されたし、それを避けようと移動した先にも罠魔法陣があって危うくハゲるところだった。


 やっぱ最初に速攻で決めておけば良かった……とボヤきながら策を練る。積極的攻撃行動をしてこないのだけが救い。時間だけはあるので、とりあえず【浮気デストロイ:レプリカ】でもぶっ放そうかと構えた。


 が、罠魔法陣ごと吹っ飛ばしてやる……なんて思ったら、『そぉぉぉこぉぉだぁぁぁ!』ってクーラスが罠魔法陣(小規模爆発)を背中に展開し、すんげえ勢いで突進してきた。


 身体的にも性格的にも魔法の性質的にも接近戦はしないあいつが接近してきたことに驚きを隠せない。ぶん殴ってきたところはなんとか体を反らして躱した……と思ったら、体中がビリビリ。目の前がチカチカ。思わず膝をついた。


 『お前、やっぱり油断が過ぎるよな』って笑うクーラスの右手には電撃罠魔法陣が仕込まれていた。あの野郎、自らの手に罠魔法を施し、酷く物理的な方法で起動したらしい。


 しかも、なぜか見ていたギャラリーから歓声が上がる。『すげえ、ギル以外で初めてまともな有効打じゃん!』、『──相手にやるじゃない!』等と聞こえた。なにこのそこはかとないアウェー感。


 しかし、『──くん、がんばれーっ!』って声が俺を勇気づけてくれた。見る見るうちにやる気がわいてくる。ロザリィちゃんが見ているのだ、俺が負けるはずがない。


 そんなわけで、発想を変えて純粋な肉弾戦を挑むことに。まだそれなりに近い場所にいたクーラスに肉薄(罠魔法陣を突っ切った。めっちゃ痛かった。なんか右腕がメキョって言って左脚がやけどで酷いことになってた)し、テッド仕込みのケンカ殺法とヴァルヴァレッドのおっさん仕込みの体術でクーラスに殴る蹴るの暴行を加える。


 良く考えてみれば、あいつの周囲って罠魔法陣ないんだよね。まあ、巻き込まれたら危ないし当然だけど。


 クーラスのやつ、それなりには粘ったんだけど、もともとインテリタイプだから俺の華麗なる体術の前に倒れ伏した。ミニリカじゃないけど、それなりに魔力も込めた打撃もしたから、見た目以上に威力はあったしね。


 終わってみたらなんのことはない。多少痛いの我慢して接近すれば楽勝だったわけだ。慣れないことをしたのがクーラスの敗因だろう。


 だけど、俺はやっぱりあいつを舐めていた。某所で裏の組長だとか、副組長と言われるあいつを舐めていた。


 うん、勝ったと思って倒れたあいつに背を向けたらさ、『油断が過ぎるって……言ったはずだぜ……』ってクーラスの声が聞こえたの。で、振り向いた瞬間にボカンよ。俺たちの闘っていたフィールド全部爆発したんだよ。あいつマジヤバくない?


 どうやら、大量の罠魔法陣に紛れてこの自爆用の罠魔法陣も仕掛けていたらしい。普通に仕掛けたらまず間違いなく俺は見破ったと思うけど、大量に罠魔法陣があったせいで見落としたってわけだ。


 さて、そんな大量の罠魔法陣が爆発したら当然俺もクーラスもタダじゃ済まないんだけど、なぜか二人とも無事。しかもなにやら聖母の愛を全身に感じる。


 『二人とも、やりすぎ!』ってプンプンしながら結界を張ってくれたステラ先生がそこにいた。怒る姿もマジプリティで惚れ直した。ステラ先生、クーラスが罠魔法陣を仕掛けた段階でこの企みを見抜いていたそうな。


 一応、結果としては俺の勝ち。クーラスの最後の爆発は決着がついた後だったからってのがその理由。『魔系としては正しいけど、先生はクーラスくんにそんなやりかたをしてほしくないな』ってステラ先生は涙目で語っていた。


 俺に関しても、『ケガはしょうがないけど、それで悲しむ人もいるんだからね?』って治癒魔法をかけてくれた。ドクター・チートフルレベルの治癒魔法のおかげで、俺の腕も脚もすんげえ勢いで治る。先生の愛を感じずにはいられない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ネグリジェ姿のステラ先生がクラスルームにやってきてくれた。ひゃっほう。


 早速カードゲームに誘おうとしたら、『二人とも、自分をもっと大切にしてよぅ……!』ってクーラスもろとも抱きしめられた。思わぬ展開に心臓ドッキドキ。すんげえ柔らかいのがおもっくそ当たっている。あと、クーラスはガチで気絶寸前だったと思う。


 どうやら、クーラスの爆発もさることながら、俺が無防備に罠魔法陣に突っ込んだのもステラ先生的にアウトだったらしい。『みんながボロボロになるの、先生見ててつらいんだよぉ……!』ってステラ先生はポロポロ泣いていた。


 泣く姿もめっちゃプリティで思わず抱き締め返しそうになったけど、さすがになんか様子が変。今までだってこれくらいは普通だったのに、なぜ今日に限ってこんななのか。


 詳しく話を聞いたら、何か未だに例の帰省問題でナーバスになっているらしい。その上で教え子が自らを危険に晒すような戦い方をしたもんだから、堪えきれなくなったのだとか。最初は我慢しようとしたんだけど、一人で部屋にいたら急に寂しくなっちゃったんだって。


 『先生はみんなのこと家族だと思ってるんだからぁ……っ! もうずっと一緒にいたいと思ってるんだからぁ……っ!』ってすんげえポロポロ泣きながら語りまくっていた。しかも、問答無用でいろんな人にぎゅっ! って抱き着く始末。ギルにも、ジオルドにも、ちゃっぴぃやヴィヴィディナやヒナたちにまで抱き付いていた。


 アルテアちゃんやロザリィちゃんがずっと寄り添って肩を抱いてあげていたけど、それにしたって今日のステラ先生は情緒不安定だった。たぶん、ここしばらくの疲れとかいろんなものが積もりに積もって決壊したんだろう。事情はよくわからんけど、そんな風になった冒険者(特に新人ちょい過ぎの女の子に多い)を宿屋の食堂で何度も見たことがある。


 最終的に、泣き疲れた(?)ステラ先生は『今日、こっちに、お泊まりしたい、な……』と涙目で訴えてきたので、今日はみんなでクラスルームで雑魚寝しようってことになった。さりげなくステラ先生のお隣に行こうとしたんだけど、女子が早々に周囲を固めてしまった。ちょう残念。


 まあ、女子にぎゅっ! ってされたステラ先生がうれしそうだったから良しとしよう。あと、雑魚寝って割りには女子の意向で男女でぱっくり割れているのがいただけない。ロザリィちゃんと一緒に寝たかったんだけどなぁ。


 ギルは今のところはそれなりにうるさいイビキをかいてスヤスヤと寝ている。ちなみに、俺がこれを書いているのは深夜のみんなが完全に寝静まったころだ。さりげなく睡眠魔法(これがなかなか便利。自分に効かないのは難点)で眠りの霧をかけておいたからバレることはないだろう。


 とりあえず、ステラ先生の安眠と安全のためにも、今日は徹夜で結界魔法だのなんだのをかけまくっておこうと思う。さしあたって、ヴィヴィディナの鱗粉を俺ワンダフル三号でガチガチに固めたものをやつの鼻に詰めておいた。おやすみしない。

20151219 誤字修正

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