257日目 基礎魔法陣製図:立体魔法陣の立体分解組立図【3】
257日目
ギルの肉体が綺麗な逆三角形。……いつも通りじゃね?
ギルを起こして食堂へ。今日のギルはほぼいつも通りだったけど、ミーシャちゃんだけは『なんかいつもよりキレがいいの!』ってギルの肉体の変化に気づいていた。ギルのやつ、赤くなって照れながら『わかってくれるか!』ってポージングを決め、ミーシャちゃんを肩車していた。
朝食は冬野菜たっぷりポタージュスープをチョイス。ジャガイモとかカブとかカリフラワーなんかが贅沢に使われていて非常にデリシャス。冬になってからスープを飲むことが増えたけど、その中でも一番と言っていいくらいおいしかった。
あと、最近はサンタ召還のためちゃっぴぃが自発的に野菜を採ってくれて非常に助かる。ロザリィちゃんも『ちゃっぴぃ……大人になったね……!』って感動していた。感動するロザリィちゃんがプリティすぎて俺も感動しまくった。
そうそう、なぜかジオルドがポタージュスープをがぶ飲みしまくっていた。『なんか実家の味と似ていて懐かしくなった……』とのこと。あいつのお袋さんか婆ちゃんかはたまた姉ちゃんかわからないけど、おばちゃんレベルのポタージュが作れるらしい。
お袋……というか、実家の味ってなんかうらやましい。俺にはないものだ。どちらかと言うと作る側だったし、マデラさんの料理はおいしいけど、おふくろの味かっていうとちょっと違う。
でも、微妙にナイーブになってたらロザリィちゃんが『いつか私のお母さんのスープを飲ませてあげるから、ね?』ってやさしく抱きしめてくれた。俺、ロザリィちゃんに何度救われたかわからない。やっぱ俺、ロザリィちゃんのこういう母性あふれて優しいところが好きなんだと思う。
思わず泣きそうになったけど、ちゃっぴぃもいる手前、何とか堪えることに成功する。さすがにあいつの前でふがいない姿は見せられない。甘えるのは二人きりの時のほうが絶対にいい。
なお、ギルは横目で俺の状態を確認しながらも『うめえうめえ!』っていつも通りジャガイモを貪っていた。何も言わずにさりげない肩ポンだけしてくれるとか、あいつの気遣いと友情に感謝を隠せない。さすがは俺の親友だ。
さて、今日の授業はキート先生の基礎魔法陣製図。『ダルいでしょうけど、パパッと作業を進めて安心して年を越せるようにしましょうね』ってキート先生は大量の書類(たぶん学校側から回された事務作業)と格闘しながら告げる。
授業中に別の仕事をするとか、悪い意味でキート先生も先生と言うそれに染まってきてるらしい。夏休み後のあの純粋なキート先生はもうどこにも存在しないようだ。
さて、一息ついたところで例の落書きを確認すると、
『私はリッチで。姿を消すだと問題ありますが、認識阻害であればいけるのでは? 体表に被膜結界を施し、固有魔振動と周期を半分ずらした魔振動を与えることによる位相ずれを用いれば、少なくとも魔法的隠蔽と言う観点では問題ないと思います』
『じゃあ俺ジンで。リッチのやり方じゃ大がかり過ぎる。準備段階でバレるし、共鳴を考慮してねえじゃん。着眼点は悪くないが現実的じゃねえ。小型化&カモフラ済みの映像記録触媒をなんとかして女湯に設置し、感覚投射したほうがいろいろオイシイだろ?』
『俺はインで。ジンの案だと触媒設置がネックになる。そもそもそれができるなら覗きだってできるって話だよ。ここは発想を変えて、女湯の入り口に魔法陣、あるいは魔道具を設置し、幻惑魔法で特定の男子がいても違和感がないようにすればイケると思う。要は、堂々と入っても問題ない状況を作ればいいわけだ』
『さすがここまで残った猛者たちですね……俺にはそんなこと想像すらできませんでした』
『つーか専門用語バリバリなうえ、結構ガチっぽいじゃねえか。これホント大丈夫なのか?』
『敢えて言うなら、今のところどれも実現できなくはないってのが重要だな。手法を練り直し、準備を整えれば決して不可能じゃない。【気付かれないで見る】、【離れたところから見る】、【バレても問題にならない状況下で見る】……少なくとも、この三つの指針が出ただけでも大きな進歩だ』
『なかなか盛り上がってるじゃねえか! これだよ、魔系ってのはこうじゃなきゃダメなんだよ! とりあえずお前ら、出来るできないにかかわらず、ありったけの案を出してそれをブラッシュアップさせていこうぜ!』
……と書かれていた。ニューフェイス三人のガチっぷりに驚きを隠せない。口ぶりからして上級生だとは思うけど、やっぱこの学校の生徒はみんなクレイジーらしい。どうしてその知識をもっと別のことに生かせないのか、残念でならない。
とりあえず、
『あらかじめ女湯内で待ち伏せする、というのはどうでしょう? それならリッチの手法の問題点である【準備が大掛かりになる】というのもある程度は緩和できるのでは? 侵入はおばちゃんが掃除をするときにインの手法で潜り込めばいいわけですし』
……と、書いておいた。まだまだ粗があるけれども、それはニューフェイスたちに直してもらえばいい。みんなで協力して物事にあたるというのが大事なのだ。
さて、肝心の授業内容だけど、予告通り前回の課題の続き。ガタガタの台で描くのはやっぱり面倒で作業の進捗はイマイチ。そもそも、内容そのものがかなり難しいから、ファンクションパターン一つ仕上げるのにすごく時間がかかる。
あと、構造的によくわからないところが多かったのも致命的。変に曲面とかが多いから、立体に直した時にどんなふうに描くのか、あるいは描き方がわかってもそれを再現するのが非常に難しい。何回かブチ切れそうになるレベル。
そうそう、キート先生が俺たちをリラックスさせるために軽い雑談をしてくれたんだけど、『ミラジフ先生、生徒の挨拶をガン無視することで有名ですけど、私が挨拶してもガン無視するんですよね。かといって、すれ違う時に無言だとそれはそれでアレですし……』って話してくれた。
一応は格上の先生だから挨拶しなきゃなんだけど、ガン無視されておっかないから、最近は小さくそれっぽくぼそぼそっと呟くだけにしているそうな。
さて、なんだかんだで全体の四割ほどまでいったかな……と帰り支度をし始めた授業終わりに事件が。クーラスが『あああああッ!?』って理知的イケメンにしては珍しい雄たけびを上げる。
どうやら図の中央の見積もりを誤り、完成図が製図用紙に入りきらないことが判明したらしい。『この一個だけ微妙に入らねえ!』って血涙を流していた。キート先生、『立体分解組立図にはよくあることです』って微笑ましいものを見るかのようなまなざしでクーラスを慰めていた。
なお、クーラスの後ろの席だったポポルは真っ青に。後ろからクーラスの図面を見て書いていたから、あいつもやり直し決定。同じくクーラスのを参考にしていたやつ数名が悲鳴を上げる。
『これ結構厳しいぞ……!?』とクーラスが有効な配置を逆算したところ、クラスの八割ほどのやり直しが確定した。上下左右ともに指一本分も空きスペースがない。最初っから計算して描かないとまず間違いなく入りきらないっていう絶妙に厭味ったらしい寸法になっていた。
つーか、逆算してようやくギリギリ収まるレベル。キート先生、『まあ、みなさんいい経験になりましたね』って死んだ瞳で笑っていた。
キート先生、最初っから俺たちが失敗することを見越していたらしい。あの人、なんかだんだん性格悪くなってきてね?
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『もう無理泣きそう……!』って俺に抱き付いてきてくれた。頑張って描いていたところでの衝撃の事実判明に、すっかり弱気になってしまったらしい。『俺がついているよ』ってやさしく頭を撫でておいた。泣き顔ロザリィちゃんもすっごくキュートですさんだ心が癒された。
ギルは腹出してスヤスヤとうるさいイビキをかいている。こいつは俺の動きを完全トレースしていたため、特に問題なし。あいつ、俺がいなかったらどうやって授業を乗り切るのだろうか?
ギルの鼻には書き損じの製図用紙(誰かが廊下にポイ捨てしてたやつ)を詰めてみた。みすやお。




