206日目 基礎魔法材料学:後期中間テスト(ジャスティスを語れ!)
206日目
ギルが穏やか。ギル味が足りない。
ギルを起こして食堂へ。今日もいつも通りちゃっぴぃが『きゅーっ♪』とか言って俺の膝に乗り、スクランブルエッグをよりスクランブルにしながら食べ始めたんだけど、ここでギルが『女の子がはしたない真似してはいけませんよ?』とか言いながらちゃっぴぃの世話をしだした。
しかも、ナイフとフォーク、さらにはナプキンまで用意してジャガイモを『ああ……おいしい、おいしい』と微笑みながら食べだす始末。『どうしてそんな真似をするんだ?』と聞いたら、『食事にナイフとフォーク、ナプキンは当然でしょう?』と穏やかに諭された。
まさかこいつからテーブルマナーを語られるとは。しかも、『今日はどうしちゃったの!?』ってギルによじ登るミーシャちゃんに、『お転婆なのは結構ですが、レディはこちらの方が好みでしょう?』ってふわりとお姫様抱っこしてあげていた。
ミーシャちゃんちょう幸せそう。喉をごろごろ鳴らしてギルに懐いていた。あと、ロザリィちゃんが『──くん、私にもやって♪』というので、僭越ながらお姫様抱っこさせていただいた。
俺にしがみついてくるロザリィちゃんがマジプリティ。あとすっげぇ柔らかいのが当たっている。しかも超いい匂いも。おまけにすごいぬくもりも感じた。朝からイチャイチャで来て超幸せ。
周りが盛大に舌打ちしていたけど、あいつらテストでイライラしてるのだろうか。あと、ちゃっぴぃにもお姫様抱っこをせがまれて大変だった。ガキには十年早いと思ったけど、優しい俺はリクエストに応えてあげた。
さて、今日はシキラ先生の基礎魔法材料学の中間テスト。『どうせ足掻いたところで大して変わんねえよ!』って超にやにやしながらテスト開始が告げられる。再履の人、粘ってギリギリまでノートを見ようとしてたけど目の前で取り上げられていた。
肝心のテスト内容だけど、単語の説明や穴埋め、シチュエーションに対する最善の行動を論ずる記述問題が多かった。シキラ先生の言った通り、授業中にやっとけよって言われた板書をきちんとしていれば問題なさそげなレベル。
が、『単位は落とさない』ってだけで、板書に書いたことを完璧に答えられてようやく達成度六割ってくらいのなかなかにいやらしい問題ばかり。なんていうか、問題文的に原理や理由なんかも併せて説明しなきゃいけないんだけど、ちょうど板書にはそれが書かれてなくて、口頭で何度も言ったようなことがその答えになっている。
つまり、ノートを完璧を覚えていたら合格、授業をちゃんと聞いて理解出来てたら理解度に応じボーナス点って感じだった。
ノートを完全に覚えるってだけでも結構難しいから、その辺が再履の多い理由だろう。まじめにやったやつなら逆に楽勝過ぎる感じもする。
テスト中、シキラ先生は『え~っ? おまえその解答でいいのぉ~?』とか、『あるぇ~? これじゃ再履一直線かなぁ~?』とか、『お前マジで勉強したのか? さすがに三回目の再履は救いようがねえぞ』って周りを煽ったりからかったりしていた。
で、『俺シューン先生たちに聞いて一回見てみたかったんだよね!』と猛烈な勢いで動くギルの腕の観察を始める。『話しにゃ聞いてたけどマジすげぇ!』と笑い、ルンルン触媒を用いたよくわからんガチ結界をギルの周囲に施した。
『どこかのクレイジーが何らかの方法でカンニングさせてるかもしれないじゃん?』とシキラ先生はこっちをみてニヤニヤしてくる。が、ギルの腕は止まらない。テスト用紙を黒く染め上げる音がずっと続いていた。
『えっお前自力でやってんの?』とシキラ先生。『カンニングなんて卑怯な真似、紳士がするはずないでしょう?』と余裕な表情のギル。
そりゃそうだ。今のギルが行っているのは単語を見ることによる条件反射なのだから。とある単語を見たら特定の行動をとるように筋肉に教えたからこそ出来る技術であり、第三者の影響そのものは関係ない。
これが計算問題とかに使う、俺の筋肉の動きを空気振動で感知し、逆解析的に行うトレースコピーならギルは詰んでたけど、記述問題に関してはほぼギル自身の実力で成り立っているのだ。
なお、ギルはその後に『それに、私にはこの筋肉がありますから。今日もステキで瀟洒でしょう?』ってポージングを取っていた。性格は紳士だけど中身はギルらしい。今日も脳筋は絶好調のようだ。
結局、『別の方法か……』ってシキラ先生はつまらなさそうに結界を解除した。なんであの人は俺がギルにカンニングさせていることをみじんも疑っていないのか。先生の偏見に悲しみを隠せない。
そうそう、最後の問題を解き終わったと思ったら、『裏面に最終問題あり。忘れないこと』との記述を発見。解答欄的にもう終わっているなのにどういうこっちゃと裏返したら、『お前のジャスティスを語れ』と一文が書かれていた。
もちろんその下は全部真っ白。たぶんサービス問題って奴だろう。
とりあえずロザリィちゃんの可愛さ、ステラ先生の素晴らしさ、あとフードは顔半分まで隠れるくらいがエクレセントってことと、ちょっと考えていたハートフルピーチジャムを用いたクッキーのレシピとその考察を細かい文字でみっしり書いておいた。
なんだかんだでテストはつつがなく終了。友人たちは『割とイケた』とそれなりの自信。クーラスは『ジャスティスを語る時間のほうが長かった』って言ってた。何を語ったかは返却の時にみんなで見せようってことになった。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。紳士で穏やかだったギルだけど、イビキはクソうるさくて紳士性の欠片もない。どっちかっていうとタチの悪い喉風邪をやらかして昼寝しているギガンデスみたいなかんじ。
明日はテストがない……とはいえ、念のためもうちょっと勉強してから寝ることにする。ギルの鼻には廊下で拾ったマーマンの爪を詰めてみた。おやすみのたうろす。
あなたのジャスティスを全力で語ってください。




