表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/368

139日目 夏季特別講座:テッド 実践的な魔法の運用

139日目


 ギルの吐息がピーマン臭い。なぜもっとがんばれなかったのか。


 ギルをたたき起こし、ナターシャのもとへ。相変わらずあいつのヨダレ癖は直っておらず、口のしまりがたいそう悪い。フィルラドよりも悪い。


 で、いつも通り問答無用で枕を抜き取り、テッドにケツビンタし、おっさんの腹を足蹴にし、そしてミニリカの肩をゆさぶって起こそうとした……ところで気づく。


 なんで俺、宿でもないのにこいつらの面倒見ようとしてるんだろう?


 とりあえず、枕カバーだけ念入りに洗い、やつらに見つからないうちに食堂へといった。


 あまり食欲がわかなかったので、朝食は無難にサラダをチョイス。もそもそとキャベツなんかを食べまくる。ギルはもちろんジャガイモを『うめえうめえ!』って食ってたけど、あれってサラダになるのかな?


 ふと見渡したら、バルトラムイスのシャンテちゃん、ティキータ・ティキータのゼクト、そして憎きアエルノチュッチュのラフォイドルがいたので、軽く今日の打ち合わせをすることに。


 『お前あんな有名な人たちと知り合いだったのかよ!』、『今度パパにも紹介して!』、『無駄な実力はアレらのせいか……』と三人。あいつらをアレ呼ばわりするラフォイドルに、この時ばかりは好感が持てたのでカフェオレをサービスしてやった。


 とりあえず、組長にはヤツらの本性を話しておく。最初はみんな信じなかったけど、俺があまりに必死だったからか、最終的には信じてくれた。いざってときは俺たちがみんなを守ることも伝えておく。


 『あの人たちがねぇ……』ってギルの口にジャガイモを詰めて遊んでいるナターシャとテッドを見てゼクトがつぶやいてたけど、すでにあの光景が異常なことだとなぜ気づかないのか。


 夏季特別講座一回目はテッドだった。意外なことにそれなりにまともに準備してきたらしく、『魔法の効率的な使い方~発動タイミングと運用方法についての考察~』とそれっぽい副題なんかもついている。


 『誰の差し金だ?』って聞いたら、『いや、マデラさんが内容全部考えてくれた』ってテッドは当たり前のようにいいやがった。そりゃそうか。


 で、実際の講義。まず前提だけど、そもそもテッドは魔系じゃない。魔法を使えるってだけのどっちかっていうと暗殺者とか偵察とかそっち系の人間。


 当然、単純な魔法的スペックで言ったら俺よりも劣る。どんなに甘く評価してもフィルラドと張り合えるかどうかってところだろう。純粋な魔法勝負なら、魔系とはいえこんな一年生に負ける程度の実力しかないのだ。


 だけれども、こいつは魔法の発動がすごくうまい。正確に言えば、その使用方法がすごい。


 『火の魔法をつかえるやつは手ぇ上げろ!』とテッド。当然その場にいたみんなが手を挙げる。ステラ先生もちゃんと手を挙げていたのが超かわいかった。


 次に、『じゃあ誰かにこいつを火の魔法で倒してもらおうか』とテッドが言うと、アシスタントを買って出たらしきグレイベル先生が拘束した二体のビートラッパーを連れてきた。


 『じゃあポポル、お前やってみろ』とテッドが直々に指名。あいつらいつの間に仲良くなったんだ……と疑問に思いつつも、ポポルの行動を見る。あいつはいつも通り、連射魔法(火)でビートラッパーを蜂の巣&ローストにした。


 いかにも自慢気なポポルに対し、テッドは『魔系としては合格。冒険者としてはイマイチ。俺ならこうやる』と、もう一体のビートラッパーの目を手でふさいだ。


 次の瞬間に絶叫。みんながビクッと身をすくめた瞬間にはそいつは死んでいた。よく見ると、あいつが手をかざした部分から黒い煙が……っていうか、目玉の向こう側全部が焼け爛れている。


 なんのことはない。顔面から超至近距離で火を放っただけだ。それも拳程度もない大きさの火の玉だろう。


 『こんな風に、使用魔力や規模が小さくとも、相手の弱点に的確に叩き込むことができれば問題ない。むしろ、そうしたほうが効率がいい。派手な魔法をぶっぱなすのと、小さな魔法でサクッとやっちまうの……結果が同じならどっちを選ぶ?』といかにも偉そうにテッドは述べてたけど、ただ単にあいつは小規模の魔法しか使えないだけだ。


 『さすがテッドさん……!』とかやたらみんな尊敬のまなざしで見ていたけど、どうしてそのことに気づかないのだろうか。


 その後、テッドは針やナイフの先端に極点的に魔法を集中させたり、多くの魔物に有効な攻撃方法なんかを教えてくれた。魔系の授業にはない冒険者らしい発想にみんな興奮しまくり。あれくらい俺だって普段やっているっていうのに。


 そんな感じで講義をした後は実習。なるべく魔力を使わずに敵を倒せるか、習ったことを活かしてみる時間になった。


 『──は普段から使ってるから別にやんなくてもいいぜ?』とテッド。よくよく考えてみれば、俺の普段の戦闘スタイルはこいつから取り入れていることが多い。というか、こいつから取り入れざるを得なかったともいう。

 

 俺自身も大してやる気がなかったので、適当に雑談を始める。俺がこの学校に来た後も、連中はあの宿を拠点にしてブラブラしていたらしい。で、せっかく口実ができたからって喜び勇んでこの学校に来たようだ。


 俺が学生をやっているところを見たかったんだってよ。『あのお前がまじめに学生しているのを見てマジでビビった』とかあいつは言いやがった。俺だって年頃の少年だというのに、何をそんなに驚く必要があったのだろうか。


 途中でテッドが『それにしても、あのロザリィちゃんって子……めっちゃでっけぇよなぁ……!』とかふざけたことをぬかしだしたので、言った瞬間に問答無用でアイアンクローをし、そのまま雷魔法を使っておいた。


 が、『あっぶねえ!?』とか言ってあいつは最後の最後で俺にヤクザキックして逃げやがった。ひっかき傷とわずかばかりの焦げ跡しかつけられなかったのが悔しい。


 つーか、仮にも再会したばかりの友人にヤクザキックかますとか、あいつの頭はどうなっているんだろうか?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、テッドが俺たちのカードゲームに交じってきたのでケツの毛までむしりとってやった。あいつが最初にイカサマを仕掛けてきたから別にいいよね。


 『イカサマレベルが上がっている……だと……?』ってパンイチのテッドがつぶやいてたけど、俺はあいつの技術を盗んでイカサマを覚えたうえで、ステラ先生に鍛えられたのだ。負ける道理がない。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。そしてなぜかテッドがソファをもちこんで部屋の中で腹出して寝ている。明日はヴァルヴァレッドのおっさん(ジオルドたちの部屋で寝ている)がここに泊まるらしい。


 こっそりテッドをギルのベッドに移し、俺の耳にカミシノの耳栓を嵌めた。ついでに水の友陣砂をちりばめた結界魔方陣を耳付近に展開する。


 今までの恨みをここで晴らすとしよう。明日が超楽しみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ