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CURSE+HOLIC 〜呪われフェチ子とおせっかい聖女〜  作者: 紙月三角
第三章 Out of the same mouth proceedeth blessing, cursing and ...
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エピローグ

 ハルマが気を失ったことで、エリーデ・ネルアの人たちにかけられていた『呪い』……いや、呪いもどきの病状は、完全になくなったようだ。

 人々は、空が何色になっても体調を崩すことはなくなり、自由に外を出歩けるようになった。彼のスキルの弱点もすでに周知されていたので、あとのことは町の人間たちが法に基づいて適切に処理するだろう。




 それから、数時間後。


「はあ……はあ……はあ……」

 町を見渡せる近くの山の中腹には、息を切らしながら登山道を進む、アンジュとマウシィの姿があった。


「本当に、よかったのね? せっかく町の人たちが、お祝いのパーティを開いてくれるって言ってたのに」

「ええぇ。構いませぇん」

「でも……ワタシたちのことを、『町を救った英雄』扱いするなんて言ってくれたのよ? せめて、パーティのごちそうだけでもいただいてから……」

「そんなに言うならぁ……アンジュさんだけ残ってくれても、良かったんデスよぉ? どうせ、みんなからチヤホヤされるのが好きなんでしょうしぃ……」

「な、なによその言い方わぁっ⁉」


 あのあと二人は、宿屋の主人をはじめとした町の人たちが「ハルマを倒してくれた二人をもてなしたい」と言ってくれたのから逃げるように、すぐにエリーデ・ネルアを出発したのだった。


「きゅふ……」

 そこでマウシィはふと、手元の毛糸の人形に寂しそうな表情を送る。

「私がもともと持っていた呪いは、全部『私が死ぬまで……』っていう想いが具現化したものだったので……。私が一度死んじゃったせいで、そういう想いが果たされて……全部消えちゃったんデスよねぇぇ……」

 その言葉通り、これまでマウシィの首を絞めたりしていたその人形は、いまはピクリともしない。完全に、ただの人形に戻ったようだ。


「だ、だから……私はまだ、呪いを集める旅を続けなくちゃデスぅ……。私にとっては、今でもやっぱりただの他人からの好意よりも、呪いのほうが確かで信頼できるのものデスからぁ……。呪いは、自分に向けられた強い想い……自分の存在をこの世界に繋ぎ止めてくれる大事な存在であることは、変わってませんのでぇ……。呪いがない状態は、不安なんデスよねぇぇ……」

「……」

 何かを言いたそうな顔のアンジュ。しかし、やがて彼女は、

「……まったく」

 呆れたような笑顔で、大きくため息をついた。


「ま、仕方ないわねっ! 一つや二つくらいなら、別にいいんじゃない?」

「え……」

「マウシィのそういう性格は、とっくにワタシも知ってるわよ! アナタが意外と頑固で、どれだけワタシが言っても、その考えを変えそうもないってこともね!」

「アンジュさぁん……」

「だ、だけど……あんまり危ないやつは、ダメだからね⁉ もう『死なない呪い』も消えて、アナタは不死身じゃなくなっちゃってるんでしょう⁉ アナタって、本当に呪いのことになると目がないっていうか……どんどん危険なことに踏み込んでいっちゃうんだものっ! 聖女の卵として、放っておけないわっ! し、仕方ないからワタシがついて行って、これからもアナタのことを守ってあげるから……か、感謝しなさいっ⁉」


 呪いを集めるマウシィを止めない。

 それは、聖女を目指す者としてはありえないセリフだ。しかし、呪われフェチで変態のマウシィと行動を共にして、彼女に「強い想い」を向ける一人のおせっかいな少女としては、とても自然な言葉だった。


「ぎゅふ……ぎゅふふふ……」

 そして、マウシィのほうでも、

(アンジュさんなら……そう言ってくれるって思ってましたよぉぉ……。私を見つけてくれて……私に光を与えてくれた……アンジュさんならぁ……。

きゅふ……ほ、本当は私……証明したいだけ、なのかもしれません……。あんなに強く、深く、重く、情熱的だった「想い」の力を……。今日、アンジュさんが私にかけてくれた「想い」より強い呪いなんて、この世界に存在しないってことを……。きゅふ……きゅふふふふ……)

 なんて考えながら、ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。



「……じゃ、行きましょうか?」

「えぇ……」

 そして、二人はまた進んでいく。


 彼女たちの前には、これからも、様々な障害が立ちふさがるのだろう。しかし、今の二人はもう、その歩みを止めることはない。

 彼女たちはすでに、どんな呪いにも負けない強い「想い」を持っていたから。決して切れることのない、固い絆で結ばれていたのだから……。





「これから先……私たちの前には、どんにゃ呪いが現れるんでしょぉかぁ……。ぎゅ、ぎゅふふふ……ワクワクしますにゃぁ……?」

「珍しいタイプのワクワクの仕方を、するんじゃないわよ!」

「で、でも……私が今まで持っていた呪いを超えるようにゃなものには……そうそうめぐり会えにゃいでしょぉけどぉ……にゃひ」

「ま、そのほうがいいんだけどね。……て、いうか」

「にゃひ……にゃひひひひひ……」

「マ、マウシィ……ア、アナタ……ちょっと言葉、っていうか……キャラが、変わってない?」

「にゃ? そんにゃことにゃいにゃ…………あ、美味しそうなネズミにゃっ!」

「ちょ、ちょっと⁉ 何を捕まえてるのっ⁉ あ、あーっ! そんな汚い生き物に、直で噛み付くんじゃないわよっ⁉ っていうか、ちょ、ちょっと待って……ま、まさかこれって……!」

「にゃにゃにゃにゃっ!」

「な、何が『呪いが全部消えちゃった』よっ⁉ 普通にまだ、呪われてるでしょーがっ⁉ 化け猫かなにかの呪いにかかって、取り憑かれちゃってるんじゃないのーっ⁉」

「クンクン……あっちにも、獲物の匂いがするにゃー!」

「あ、コラっ! マウシィ⁉ ちょっと⁉ ま、待ちなさーいっ! コラーっ!」



 ……この二人の絆はまだまだイビツで、相変わらずのデコボココンビのようだった。


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