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CURSE+HOLIC 〜呪われフェチ子とおせっかい聖女〜  作者: 紙月三角
第三章 Out of the same mouth proceedeth blessing, cursing and ...
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第七話

 レディアベルで別れたはずの、血異人のラブリ。彼女も、アンジュたちを追ってこのエリーデ・ネルアにやって来たらしい。

「だってあーしちゃんって、三度のスタバより恋バナが大好物なんだよー⁉ だからだから、友だち同士の恋の行方とか……絶対見逃せないじゃーん⁉」

 という言葉の意味は、アンジュにはほとんど意味不明だったが……。


 とりあえず、この町に来たばかりだった彼女を宿屋まで案内しながら、今日起こったことや、宿屋の主から聞いたことを簡単に説明した。



「えー、マジー……? それ、ヤバいねー? あー……あーしちゃんが手伝ってあげられればいいんだけどさー……。ハルマ君なら、多分あーしちゃんがお願いすれば、話くらいは聞いてくれると思う……けどー」

 奥歯に物が挟まったかのようなラブリ。

「あんまりあーしちゃんが他のチートと敵対するようなことしちゃうと、『チート同士で協力しよう』っていう約束破ることになって、気まずいっていうかさー……。あーしちゃんにも、異世界人として通さなきゃいけない『スジ』があるっていうかー……」

「分かっているわ。アナタの立場なら、当然そうなるでしょう」

「ホントは、アンジュちゃんもマウシィちゃんも、とっくにあーしちゃんの友だちだから、助けてあげたいんだよー? でも、あーしちゃんが裏切ったとか思われて、それキッカケで他のチートもケンカとかし始めたら、いよいよ手に負えないっていうかー……。ごめんねー? あーしちゃんが表舞台に出なくていいようなことなら、全然協力するからねー?」

「ここでアナタに会ったことは、もともと想定外だったのだし。むしろ、アナタが向こうの側につかないでいてくれるだけでも、ありがたいわ。あとは、こっちの問題だから」

 アンジュはすでに、ある程度なら、ラブリのことを信頼していいと思っていた。他の血異人たちと違って、彼女はそこまで悪人ではない。ここまで来て、今さら自分の敵になる可能性は低いだろう。

 だがそれぞれの立場を考えると、やはり彼女が自分にとって完全な味方にはなってくれないということも、分かっていた。

 結局、眼の前に立ちふさがる問題は、自分でなんとかしなければならないのだ。

 しかし……。



 太陽神を崇めるハルマたちの儀式はいつも、太陽が最も高くなる真昼のころに行われているらしい。つまり、また今日のような儀式をしてマウシィに「死の呪い」を掛けようとするのも、明日の日中になる。

 ただ、「白い光の呪い」をかけられている自分は、太陽が出ている間は建物の外に出ることができない。何も考えずに向かって行っても、また昼間のような苦痛で倒れてしまうだけだろう。

 いや、たとえそれがなかったとしても。

 自分はすでに、彼女から拒絶されている。最後の彼女の質問に答えられず、彼女を裏切ってしまっている。

 そんな自分が、もう一度彼女の前に出ていっても……。



「でもさー……」

 そこで、ラブリが首を傾げながらつぶやいたことで、アンジュの考えは中断される。

「話を聞いただけだとー、あーしちゃんには信じらんないなー」

「え?」

「いやー、だってさー。マウシィちゃんって、アンジュちゃんのことすごくよく分かってる子だよねー? テイムで『友だち』になってたあーしちゃんより、ずっとずっとアンジュちゃんのこと、分かってた人だよねー?」

「な、何よそれ……」

 それを「疑う余地のない当たり前のこと」という調子で言うラブリに、アンジュは照れ隠しで睨みつける。ラブリは、とくに気にしていない。

「そんなマウシィちゃんならー……おせっかいなアンジュちゃんが自分を追いかけてここまで来ちゃうことも、分かってたはずじゃね? これまでみたいに、アンジュちゃんの邪魔が入るってことは、充分に予想出来たと思うんだよねー。それなのに、今日の昼間に予想通り邪魔しに来たアンジュちゃんに対して、何の対策もしてなかったのー? うーん……やっぱなーんか、信じられないんだよねー、それ」

「……」

「これじゃまるで、『アンジュちゃんをわざとおびき寄せて』、それを拒絶したかったみたいなー……? アンジュちゃんから、『わざと嫌われようとしてる』みたいなー……?」

「……」


 ラブリの何気ない言葉が、アンジュの心の奥にも届く。

 それは……実はアンジュも感じていた「違和感」だった。


 今日のマウシィは、どこか変だった。

 いつもどおりの気持ちの悪い呪われフェチ子の皮をかぶりつつ、その裏側に、本心を隠していたような気がした。でも、一体何を……?


 それに、マウシィの行動だけじゃない。


 この町に来てからのこと。そこで行われている「呪い」のこと。

 思い返してみれば、アンジュはさまざまなことにずっと「違和感」を感じていた。でも、マウシィを助けるということだけで頭の中が支配されてしまっていたので、それらについて深く考える余裕がなかったのだ。


 ここで起きている出来事は全部、何かがおかしい……。

 その片鱗のようなものが今、部外者のラブリの率直な言葉で、少しだけ姿を表したような気がした。

 だが。


 ……だめだわ。

 その正体を掴むには、まだ、何かが足りない気がする。この「違和感」の正体を……今日のマウシィの行動の、本当の意味を知るには……。

 曖昧な気持ちを抱えたまま。ラブリを連れて、アンジュは宿屋への夜道を歩いていく。


 雲ひとつない夜空には、宝石を散りばめたように輝く無数の星々。そして、それらが霞むほどに一際強烈な存在感を主張している、大きな満月が浮かんでいた。


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