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CURSE+HOLIC 〜呪われフェチ子とおせっかい聖女〜  作者: 紙月三角
第三章 Out of the same mouth proceedeth blessing, cursing and ...
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第二話

 教会前の広場。

 ニワトリの頭をかぶった数十人の人間たちに囲まれて、マウシィがいる。

 今日の彼女は、これまで着ていた穴だらけのボロ服ではなく、カラフルな鳥の羽を表面に積み重ねて作られた、ゴージャスなフェザーコートのような格好。さらに、コカトリスかグリフィンのものと思われる大きな羽を、後光が差すように背中から放射状に伸ばしている。

 それは太陽神を信仰し、太陽を呼ぶ動物である「ニワトリ」を聖獣と考えている宗教団体「鳳凰の眼」の、祭服だった。


「マウシィ!」

 その広場に、アンジュがやってくる。

 山の展望台からは全速力で駆けてきたらしく、かなり息も切れている。しかし、今の彼女にはそんなことはどうでもいいようだ。

「ア、アンタ、そんなところで何をしているのよっ⁉ さあ、ワタシと帰るわよっ⁉」

 すぐにでもマウシィのところまで行こうとするが、周囲の教徒たちに妨害され、なかなか前に進めない。


「あうぅ?」

 自分を呼ぶ声を聞いて、たったいま目を覚ましたかのような気だるさで、マウシィが振り返る。

「あ、ああ、アンジュさぁん……」

 その表情はいつもの不気味な笑顔……に比べると、どこか虚ろで、焦点が定まっていない。しかし、ラブリのときのように意識がないというわけでは無さそうだった。


「マウシィ! いつまでも呪い呪いってバカみたいなことを言ってないで、ワタシと一緒に…………って、ああもう! アンタたち、邪魔よっ!」

 そう叫ぶと、アンジュは聖女の母譲りの神聖魔法を使った。

 次の瞬間、彼女の左手の(ステッキ)が激しく発光。周囲の教徒たちは、その光に眼をくらませてしまった。

 そのスキをついて、ようやくアンジュはマウシィのところまで到着する。

 そして、

「さあ! とにかく今は、ここを……」

 と、マウシィの手を引いてこの場から逃げようとした。

 しかし。

 ……パァン。

 彼女のその手は、他の誰でもないマウシィによって、弾かれてしまうのだった。



「な⁉」

「アンジュさん……あなた……」

 戸惑っているアンジュを、からかうような表情のマウシィ。

「いまさら……何しに来たんデスかぁ?」

「な、何しに、って……。だ、だからワタシは、アンタをここから連れ戻そうと……」

 反論しようとするアンジュだが、その先の言葉は、言いよどんでしまう。


「あなたなんて、もう、お呼びじゃないんデスよねぇ……。あれぇ……? 言いませんでしたっけぇぇ……? 私は呪いが大好きで、呪いさえあればいい……。だから、呪いをくれる人のことが大好きで……。逆に、呪いを解いてしまう聖女様なんて……必要ないんデスよぉ……」

 そこでおもむろにマウシィは、いつものように右腕にまとわりついていた呪いの人形を、天に振りかぶる。そして……、

「ちょっとっ⁉」

 アンジュに向かって、思いっきり振り下ろした。

「……うぅっ!」

 左の肩に、えぐるような痛み。持っていた杖が、手から離れて地面を転がっていく。

「マ、マウシィ……アンタ……」

 腕がだらりと垂れ下がり、自由に動かない。肩を脱臼したのかもしれない。無理に動かそうとすると、さらに激痛が走る。そのせいで表情筋が力んで、マウシィをにらみつけるような顔になってしまう。

 しかし、そんな物理的苦痛よりも今のアンジュにとって辛かったのは……少し前まで一緒に旅をしていた少女に拒絶されてしまったという、精神的なショックの方だった。


「でゅふ……でゅふふふふ……」

 一方のマウシィは、もうとっくにアンジュには興味なくしたかのように、元の方向に向き直っている。

 その方向にいるのは、頬のこけた糸目の男……血異人のハルマだ。

「何者だ、この女は……? 神聖なる儀式を邪魔しおって……」

 心底不快そうに、アンジュを睨みつけている。

「マウシィ・オズボーン……貴様の知り合いか……? この、不埒(ふらち)な無礼者は……」

「え、ええぇぇ? し、知りませぇぇん、こ、こんな人ぉぉぉ」

「……くっ」

 アンジュの方を見ずにそんなことを言うマウシィの態度に、さらに落ち込むアンジュだった。



「そ、そんなことより……は、早く私に……の、呪いをぉぉーっ! ハルマ様の、と、と、と、とびっきりの……呪いをくださぁぁーいっ!」

「ふむ……。先刻まで、その予定であったのが……」

 ハルマはアンジュのほうを見て、眉をひそめる。

「これ以上、こやつに神聖なる儀式を邪魔されるのは、耐えられんな……。このままでは、教徒どもにも示しがつかんし……。今日のところは、先にこやつを呪っておくのがよかろう……」

「そ、そんなぁぁっ⁉」

「だから……急くな、と言ったであろうが……。ソリエフの輝きは、決して消えることはない……。一時(ひととき)山際に沈むことがあっても、明朝になればまた再び天に昇り、我らを聖なる光で照らす……。それこそが、永遠の象徴たる太陽神なのだ……。だからマウシィ・オズボーンよ……貴様に宿命付けられた未来も、もはや変わることはない……。ソリエフが決めた『呪い』からは、誰も逃れられないのだから……」

「は、はいぃぃ……」


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