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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ
11章:異世界広告代理店編

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◆128話◆開業準備

「まさか、お屋敷を下賜されるとは思わなかったわねぇ・・・」

ダレッキオ家の別邸から戻った太一は、早速文乃と件の建物を見に来ていた。

多少古いがよく手入れされた外観を見上げて、文乃が溜め息交じりに呟く。

「まったくだよ。賃貸とは言えありがたい話だけどさ、着々と外堀を埋められている気がする。

 こっちの情報も宰相に筒抜けだし、あの狸親父め・・・」

太一も、眉間に皺を寄せながら建物を見上げていた。

「目立っちゃったから仕方ないわよ。それとも断った方が良かった?」

「それは無いけどさぁ・・・。

 まぁ、いいか。タダで1年使えるんだもの、良しとしよう」

「そうよ。それに即日使えるというのは、ありがたいどころの話じゃないと思うわ」

「だよなぁ。これ、前から準備してたよね、絶対。

 こんな短期間で、見つけて、交渉して、準備して、って間に合う訳無いもの」

「そうね。もしくは常に幾つかストックしてあるのかもね」

「あーーー、それもあるか。

 いや、あの狸親父のことだから、そっちの線の方が濃い気がしてきた・・・」

割と失礼なことをボヤキながら建物の中に入る。


屋内も、外観同様多少の古さはあるもののよく手入れされ埃も見当たらない。

「中も綺麗なものねぇ。広告主と話をするのに、最低限の什器類だけは入れる必要があるわね。

 お貴族様にカウンターに座ってもらう訳にもいかないし」

「そうだね。どっかお勧めの家具屋が無いか、ノルベルトさんに相談してみるか」

「あと、商館として使うのは良いんだけど、メンテナンスはどうするの?

 最初は良いかもしれないけど、自分たちだけで全部やるのは無理よ?」

「あーー、それも考えないと駄目か。

 店舗構えちゃうから、店番もいるし・・・人の募集も急がないといかんなぁ」

思いの外準備することが多いことに焦りながら、二階を見ていると玄関のノッカーが来客を告げる。

「ん?誰だろ?まだ看板も出してないのに・・・」

不思議に思いながら扉を開けると、そこにはノルベルトが笑顔で立っていた。


「あれ?ノルベルトさん。どうしま、した、か・・・?」

急な来訪に戸惑いつつ、何気なくノルベルトの後方に目をやると、ダレッキオ家の馬車の後ろに荷馬車が3台停まっていた。

嫌な予感がして、太一の言葉が辿々しくなる。

「こちらに商館を構えるとお聞きしましたので、主人よりお祝いの品をお持ちいたしました」

「お祝い・・・ありがとうございます・・・」

完全に狸親父ことユリウスと辺境伯はグルだ。今日の今日で間に合うはずがない。

「商談場所に入れるソファなどの調度品一式と、目隠しの為の衝立をいくつか。

 書類を保管するための書棚と、執務室用の調度品一式をお持ちしております。

 搬入、設置までやらせていただきますが、早速作業に取り掛からせてよろしいでしょうか?」

すでに設置業者まで手配されていた。遠慮することは不可能である。

「・・・お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」

「はい。お任せください」

肩を落としながら太一が了承すると、ノルベルトが嬉しそうに恭しく一礼をした。


ノルベルトの指示で、荷馬車から続々と荷物が運び込まれていく様を、太一は半笑いで見ているしかない。

どれもこれも、派手ではないが細部までしっかり作り込まれた良い品ばかりだ。

ダレッキオ家とはこの辺りの趣味が合うので、太一としても非常にありがたい。

「・・・これ、きっと全部でとんでもない金額だよねぇ」

「そうね・・・でも、もうその辺を考えるのは止めましょ。キリが無いもの・・・

 私たちは全力で期待に応える。それで報いていくしか無いのよ」

「達観してるなぁ・・・。でも、それしか無いか。

 あ、そうだせっかくノルベルトさんがいるんだし、ちょっと人について聞いてみるよ」

先程の話で、色々と人を雇う必要があることが判明した。

しかし、ワルター達のように、半分冒険者としてパーティーに入れるのと、商会として雇うのとでは随分勝手が違う。

その辺りに疎いため、人の手配に慣れてそうなノルベルトに聞くことにしたのだ。


「ふむ。確かに最低でも4名雇われる必要がございますね。

 店舗および居住スペース含めた維持要員が一人、お二人が不在時にも店舗を任せられる者が一人。

 馬車と馬の世話をして御者もする厩番が一人、そしてお店や従業員の警備を兼務できる秘書が一人。

 まずはこの4名を雇われることをお勧めいたします」

「4名かぁ・・・」

ハウスキーパーと雇われ店長までは考えていたが、厩番と用心棒は考えていなかった。

「厩番と秘書も必要ですかね?」

その辺りの必要性をあまり感じていない太一がノルベルトに問い掛ける。

「ええ。厩番はもう少し後でも良いかもしれませんが、すぐに商会の馬車が必要になると思いますので、早めに手配された方が良いかと。

 秘書の方は、常にお2人が店舗に居るのであれば不要です。この街で、お二人に勝てるような輩はほとんどいませんから。

 しかし、今後はご不在のことが増えるかと思います。

 ダレッキオ家の武術指南役の商会に喧嘩を売る愚か者は居ないと思いますが、不在時の不測の事態を避けるためにも、腕の立つ者を雇われた方が良いでしょうな」

「なるほど・・・」

そう言われるとその通り過ぎてぐうの音も出ない。ちょっと甘く考えすぎていたかもしれない。


「ありがとうございます。確かに仰る通りですね」

「厩番は馬車を手配される時に一緒に相談できますので、問題は無いかと思います。

 秘書も、当面は警備がメインとなるでしょうから、お知り合いの冒険者を雇われても良いかと。

 それと、維持要員と店番要員については、少々当てがございますので、一度お任せいただけないでしょうか?」

「当て、ですか?」

「ええ。ご紹介してお気に召さなければお断りいただいても結構ですので」

ここまでの手際の良さを考えると、ちょっと不安と言うか嫌な予感がするが、正直自分で募集して面談するにはノウハウが無さすぎる。

それに、ダレッキオ家のお眼鏡にかかる人材であればまず間違いは無いはずだ。

「分かりました。お手数をお掛けしますがお願いしてもよろしいでしょうか?」

「かしこまりました。後日またお連れしますので、よろしくお願いいたします」

太一は大人しくお願いすることにする。

合わなさそうな人だったら断ればよいのだ。まずは任せよう。

そして、荷物の搬入や設置を行い、ちょっとした小物を買い出しに行ったりしている内に夕方となる。

「これで、ひとまず商館として機能するかと思います。遅くまで申し訳ございませんでした」

「いえいえ、こちらこそ何から何までお世話になってすみません・・・」

「問題ございませんよ。主人も“身内の祝いをして何が悪い”と仰ってましたし。

 それでは、また。人選の方も楽しみにしていただければと思います」

そう言って、ノルベルトは帰っていった。


翌日、今度はフローターズの面々を商館へと案内する。

今後は、ここを拠点に活動することになるため、早めに慣れておいて貰った方が良い。

「・・・・・・・・・」

「はぁあ?何でもう商館が出来てんだよ!?ダレッカから戻ってまだ1週間も経ってないだろ!?」

「立派な調度品まで設置済みとは・・・」

「はっはっは、タイチには毎回毎回驚かされるねぇ。退屈しなくていいよ」

案の定、皆驚いている。レイアに至っては完全に放心状態だ。

「俺だって驚いてるからな・・・

 宰相に呼び出されて行って見りゃ商館の鍵を渡されるし、内覧してたら荷物が運び込まれてくるしさぁ。

 近々、店番候補とハウスキーパー候補もやってくるみたい」

「みたい、って、んな他人事みたいに・・・」

「もうここまで来ると実感が無さすぎてさぁ・・・どこか他人事みたいなんだわ、これが」

「はぁぁ、そりゃそうかもしれねぇけど」

半ば諦めモードの太一に対して、ひたすら呆れるワルター。

「でもまぁ、リーダーが出世してくれるのはありがてぇな。

 誘われた時は、こんなことになるなんて思ってもみなかったからなぁ。

 やっぱ持つべきものは頼れるリーダーだぜ。な、レイちゃん?」

「・・・・・・」

「おーーーいっ!!そろそろ戻って来いよ~~~」

「はっ!!!??すす、すいません。あまりに驚きすぎて。ホント凄いですね、リーダー」

「はっはっは!まあその反応が普通だよなぁ」

何だかんだ言いながら、メンバーも全員嬉しそうなので、ホッと胸を撫で下ろす太一だった。


その後、2階の一室をフローターズの控室と決めて、小物類を買いつつお昼を済ませて戻ってくる。

食休みを兼ねて、今後の活動についてあれこれ話をしていると、ノッカーが来客を告げる。

「あれ?ノルベルトさん。何か忘れ物でもありましたか?」

昨日も来ていたノルベルトが、今日も来ていた。

「ああ、タイチ様。連日すみません。

 いえ、昨日お話ししていた店番とハウスキーパーの候補者を連れてまいりましたので、お会い頂けたら、と」

「えっ!??もうですか?昨日の今日ですよ??」

早すぎる。これも仕込まれていたか・・・やはり昨日感じた嫌な予感は当たっていた。

しかし、数秒後、この時感じた予感など序の口だったと思い知らされることになる。

「タイチ様、アヤノ様!お久しぶりですっ!!」

「え?フィオレンティーナ様っ!?」

ノルベルトの後ろから現れたのは、フィオレンティーナだった。

元々大会議が終わったら領地に戻る予定だったのだが、例の災害騒動があり滞在が伸びていたと聞いている。

先日別邸に行ったときは、外出中だったそうだ。

「なぜフィオレンティーナ様が???」

「はい。私も店番としてこの商会で働かせていただけないでしょうか?

 以前より、タイチ様アヤノ様の商会でやられていることが気になっていまして・・・

 聞けば、商館の店番を探しているとのこと。

 是非にと母に相談したところ、ここで働くことは、商売人として勉強になることが多いから是非行ってきなさい、と言われまして。

 こうして押し掛けて来た次第です!!」

「「「「「「ええええ~~~~~~っっ!!!」」」」」

フローターズ一同の絶叫が商館に木霊した。

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「ノウハウを可能な限り盗んでこい」と指示を受けた産業スパイがやって来た。
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