4(完結)
やがて、4年が過ぎようとし、アランの大統領再選はほぼ確実視されていた。
反対者は若き大学教授を対立候補に擁立し、対抗しようとしたが、アランには及ぶまいと予想されていた。そう、あの日までは……
◇◇◇
カミラは、個室のドアをノックもなしに勢いよく開け、大きな声を室内に響かせた。
「所長っ! お兄さんがっ! お兄さんがっ!」
あの日と同じだ。アランが大統領になった……あの日と……
だが、今日、カミラが持ってきたタブレットにはこのように表示されていた。
「合衆国大統領アラン・フナツ氏暗殺さる」
◇◇◇
「その日、大統領選に向け、演説中の現職の合衆国大統領アラン・フナツ氏は遠距離より狙撃され、一命を落とした」
「急遽、実直さが売りの副大統領が後任につき、次期大統領選候補ともされたが、明らかに準備不足で、対立候補の若き大学教授に対して、勝ち目は薄いと言わざるを得ない」
出てくる情報は芳しくないものばかりだった。僕は全所員を集め、話をした。
「聞いてのとおり、僕の実兄である合衆国大統領アラン・フナツは暗殺された。はっきり言おう。このことにより、今まで厚遇されていた予算措置はなくなるものと思ってほしい。今まで通りの勤務条件はとても保証できない。給料の大幅削減、遅配は避けられない」
場は大きくざわめく。今までだったら静まるまで放置しておいたところだが、今日はそうはいかない。
「静粛に。退職の要望は全て受け付ける。今ならギリギリ退職金も何とかなると思う」
ざわめきは止まらない。僕はそれにかまわず、言葉を続ける。
「私はこのまま農産物開発研究所を続ける。倒産の可能性は高いが、出来るだけ続けたい。いや、倒産しても一人でもこの仕事を続けるつもりだ。それでもいいなら残ってほしい。伝えたいことはそれだけだ」
多くの者が農産物開発研究所から去った。当然だ。人は生活していかねばならない。家族のある者はなおさらだ。
それでも何人かの者は残ってくれた。カミラもいた。僕は彼女に声をかけた。
「いいのかい。もう、大企業の秘書ではいられない。力仕事もやってもらわなければならなくなるよ」
彼女は微笑んだ。
「あら、ご存じなかったですか? 私はノースダコタの農民の娘ですのよ。鍬を振ったことだって何度もありますわ」
◇◇◇
これからやらねばならないことは山積だ。しかし、ちょっと疲れた。
「すまないが、2時間だけ仮眠をとりたい。2時間たったら起こしてくれ」
僕はカミラにそう伝えると個室に向かった。カミラは心配そうな顔をしていたが、あえてスルーさせてもらった。
個室に入ると、すぐにベッドに倒れこんだ。押し込めていた感情と涙が一気に溢れ出た。
「兄ちゃん。ずるいじゃないか。一人だけ先にじいちゃんのところに行っちゃうなんて……」
わずかに開いていたカーテンからは、じいちゃんの言っていた太陽の……本当の光が差し込んでいた。
強い光だった。夏の光というやつだろう……
読了ありがとうございます。




