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本当の光が差す時には......  作者: 水渕成分


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2/4

 「……」


 「先の二つの大戦は明らかに戦況が劣勢にならない限り、陣営の鞍替えというものはなかった。だが、第三次世界大戦は醜悪な裏切りが頻繁に起こった。食糧を確保するためにな……」


 「……」


 「わしのいた国『ニホン』はアメリカ(この国)を同じ陣営の味方だと思っていた。だから、他の国から攻撃を受けた際に、アメリカ(この国)の軍隊が『ニホン』にたくさん来た時、『ニホン』人はみんな喜んだんだ。味方が来たと言ってな」


 「……」


 「アメリカ(この国)の本当の目的。それは『ニホン』を守ることではなかった。真の意図は……」


 「……」


 「『ニホン』の備蓄していた食糧を接収することと、『ニホン』が密かに開発していた多雨にも強い品種の種苗を手に入れること……」


 「!」


 「アメリカ(この国)の軍隊は攻撃してきた国を追い払ったが、『ニホン』の食糧も奪った。多くの『ニホン』人は死に、僅かな者は他国に逃げ延びた」


 「じゃ、じゃあ。じいちゃんは?」


 「わしは『ニホン』が密かに開発していた多雨にも強い品種の種苗の技師だったから、アメリカ(この国)に連行されたのさ」


 「……じいちゃん」


 「ん?」


 「じゃあ、じいちゃんはアメリカ(この国)が嫌いなの?」


 じいちゃんは暫く沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

 「『好き』……ではないな。だが、アメリカ(この国)はわしに品種開発の仕事をくれた。悲しいかな、わしは技術者だ。開発に打ち込むことで他のことが考えられなくなるところがある」


 「でもっ、でもっ、じいちゃんは悔しくないの? 自分のいた国がアメリカ(この国)に滅ぼされて……」


 「アラン……」

 じいちゃんは一言一言ゆっくり噛みしめるように言った。

 「『悔しい』という気持ちは大事だ。それは大きなエネルギーになる。でもな、それを間違った方向に向けてはいけないんだ。『ニホン』人がたくさん死んだ。それ以上に『アメリカ』人を殺す……では、間違った方向なのだよ」


 「じゃ、じゃあ、どうするの?」


 「第三次世界大戦に負けたのは『ニホン』じゃない。『人類』だ。『人類』が『地球温暖化』や『戦争を起こす弱い心』に負けたんだよ。わしも『悔しい』。だから、次は勝つようにするのさ」


 「勝つ?」


 「ああ。気象変動なんぞにビクともしないような品種を作るんだ。そうなれば、乏しい食糧の奪い合いの戦争なんか起こらない。起こさせるものか」


 「……」


 「アラン。それにジェームズ。この雨続きの気候は必ず元に戻る。先の大戦で人口が大きく減って、『地球温暖化』に歯止めがかかったからな。そうなると今の多雨に適応した品種では逆に食糧生産に悪影響が出る」


 「!」


 「今度は戦争を起こさせるな。起きたら、『人類』の負けだ。わしは生きているうちは気象変動に影響を受けない品種開発を続ける。おまえたちはそれを見届けるんだ。そして、出来たら……引き継いでほしい」


 僕と兄ちゃんは、ただただじいちゃんの話に聞き入っていた。


 ◇◇◇


 40年の時が流れた。


 僕は個室で、ひたすらディスプレイに見入っていた。


 その時、個室のドアはノックもなしに勢いよく開けられ、大きな声が室内に響いた。


 「所長っ! やりましたねっ! お兄さん、やりましたねっ!」


 駆け込んできた秘書のカミラの持っているタブレットには以下の表題が踊っている。


 「新大統領にアラン・フナツ氏」

 「今回の大統領選は最後の最後まで勝者が分からない激戦であったが、アラン・フナツ氏50歳が勝利を掴んだ。初のアジア系大統領である」


 「ああ。そうか、勝ったか」

 実は僕は既に見入っていたディスプレイで、情報を得ていたのだが、わざと知らないふりをして、淡々とした態度を見せた。


 それに対し、カミラは喜びを隠さない。

 「これでこの研究所の予算も増えますよね。所長の苦労もようやく報われますよ」


 「なら、いいけどな」

 僕は努めて冷静にそのように答えたが、事態は僕の予想の何倍もの速度で進行した。


 兄ちゃんは就任演説で、いきなり言ってくれた。

 「私の政策は、公約のとおり、合衆国国民はもとより、世界の人々を飢えさせないことだ。老いも若きも男も女も、白い肌も黒い肌も黄色の肌も赤い肌も、一切、飢えさせるつもりはない。そのために軍事予算は抑制し、農業関係予算は金に糸目はつけない」


 更に就任演説が終わるや否や、僕の懐の電話がけたたましく鳴った。相手は……兄ちゃんだ。

 兄ちゃんは僕に「当選おめでとう」の言葉も言わせず、一気に捲し立てた。

 「ジェームズ。僕だ。アランだ。大統領になった。よろしくな。ところで、気象の変動は思ったより早い。降水量は減ってきているし、平均気温は下がってきている。おまえのところには、じいちゃんから引き継いだ『雨よけ』ではない、低温対応の種苗はたくさんあるな?」


 「うん。あるけど」


 「よしっ、お前のところの研究所の予算は昨年の10倍だ。どんどん気象変動対応の種苗の生産を増やせっ! そして、どんどん売れっ! 合衆国以外にも売れっ! 但し、あまり高く売るなっ! 後、予算が不足したら、いつでも俺に言えっ! 金に糸目は付けんっ!」


 


次回更新は8/7(金)21時の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですね! 農業の観点からのSF。おじいちゃんが経験したことから分かる、人類の歴史と業が浮き彫りになって、とても読みやすくて素敵なSFです。 孫たちが大人になって、おじいちゃんの意志を引…
[一言]  人類の負けと言う言葉が深く心に残りました。  おじいちゃんは本当に心が立派な方ですね。  アランの政策は素晴らしいけど、ケネディの二の前にならなきゃいいですけど·····。
[一言] >『悔しい』という気持ちは大事だ。それは大きなエネルギーになる。でもな、それを間違った方向に向けてはいけないんだ。 名言や……( ˘ω˘ )
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