第九話【奥多摩ダンジョン防衛戦①】
間に合った~
いよいよ防衛戦開始です。
――奥多摩ダンジョン防衛戦、当日。
ついにこの日がやってきた。
七瀬さんと奥多摩ダンジョンに潜り、できる限り防衛戦に向けて準備を整えてきたが、初めての経験はいつだって緊張するものだ。
歪みから魔物が出現する位置がある程度特定できるといっても、万が一にも逃してしまえば一般人を巻き込んで大惨事になる。
仮にそうなった場合でも、責任を問われることはなく、後始末は処理班に任せておけば問題ないと滝本さんは言っていた。
だからといって「じゃあ好きにやらせてもらいますね!」と言えるほど、ぼくの肝は太くないのだ。
正直ドキドキである。
「今回の防衛戦は私のチーム単独ではなく、日下部チームと協力してもらうことになります。歪みの発生が予想されるポイントは数箇所あり、深層に生息する強力な魔物が出現するであろうことも予波の形状から推測されています」
防衛戦の前、今はブリーフィングに出席している最中である。
奥多摩近辺の地図が立体映像で映し出され、滝本さんが歪みの発生ポイントをわかりやすく示してくれていた。
「七瀬さんも上月君もクラスレベル1ですから、奥多摩ダンジョンの深層に生息する魔物を相手にするのは少々危険と判断します。そのため、君たちにはこのポイントを防衛してもらうことになりました」
なるほど……歪みが発生する位置は予波を観測することで予測可能という話だったが、波の形状などで出現する魔物の強さもある程度は予測できるわけだ。
波の振幅が大きいほど、深層に生息する魔物が溢れ出してくる……みたいな感じかな?
昨日まで奥多摩ダンジョンを探索していたけども、まだ地下六階までしか潜れていない。
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名前:コウヅキ・アキラ(クラス:剣士)
クラスレベル:1
適合率:EX
【筋力】C(37/100)→C(69/100)
【敏捷】C(11/100)→C(42/100)
【耐久】D(2/100)→D(20/100)
【器用】C(15/100)→C(46/100)
【魔力】F(0/100)→E(11/100)
スキル:〈拡張現実〉
魔法:〈ロックアーマー〉
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ダンジョン内では常に〈ロックアーマー〉をかけていたから、魔力値の伸びはかなりのものだが、総合的な戦闘力はCランク程度のままだ。
奥多摩ダンジョンの最深部にいるような魔物が相手だと、かなり危険である。
多くのパラメータがAランクに達している七瀬さんならば、そいつらに勝てなくもない……かもしれないが、ダンジョンの外で無茶は禁物だ。
もう一方のチームが対処してくれるというのなら、謹んでお譲りしたい。
「――さて、作戦については以上となります。質問がないようなら、日下部チームと顔合わせをしておきましょうか。ああ……上月君は、私が前に言ったことを忘れないようにしてくださいね」
ブリーフィングを終えたぼくたちは、さっそく協力する他チームに挨拶をしておくことになった。
日下部チームかぁ……どんな人たちだろう?
今後も一緒に防衛戦に参加することがあるかもしれないから、付き合いやすそうな人たちだったらいいのに。
「――……七瀬ぇ! またお前と防衛戦に参加することになるとはな。こうして会える日を楽しみにしてたぜ!!」
……まあなんということでしょう。
笑顔で挨拶するつもりだったのに、いきなり七瀬さんが絡まれた。
髪を茶色に染め、耳にはピアスという典型的なイキってる不良スタイルの男である。
年齢はぼくたちと一緒ぐらいかな?
「えっと……知ってる人?」
「ううん、知らない人」
嘘だ! これ絶対知り合いのパターンだろ。
人の顔と名前はできるだけ覚えてあげて! わりとショックを受けるから。
「知らない人、だと?」
……ほらぁ。
不良君、地味に落ち込んじゃってるじゃないか。
「く……くっそぉ。俺のことなんか眼中にないってわけかよ。はは、だけど俺はクラスレベル2に上がったんだぜ? 七瀬はまだレベル1のままだって言うじゃねえか。適合率が少々高いからって、調子に乗ってると魔物にやられちまうぞ」
「――こらっ! どうしてあんたはそうやっていつも相手に噛みつくの! 大方、前の防衛戦で七瀬ちゃんに活躍の機会を奪われたから、逆恨みでもしてるんでしょ? はぁ~、情けない情けない。男っていうのは器が小さいやつほど外見を飾ろうとするのよね~。言っとくけど、そのピアスもぜんっぜん似合ってないから」
「う、うっせーよ。今はそんなの関係ねえだろ、ブース」
「……あ? 殺すぞボケ」
なんとも、騒がしい二人組だ。
不良君を諌めようとした見知らぬ女の子も、不良君に暴言を吐かれたことで額にビキビキと青筋を立てんばかりに声を荒げ始めた。
「えっと……知ってる人?」
「槍の人」
なるほどね。
そろそろ誰か出てきて紹介してください。お願いします。
「ちょ、ちょっと二人とも。先に行かないで」
遅れて小走りでこちらへ駆けてきたのは、二十代半ばくらいの女性だった。
「あ、滝本さん。今日はよろしくお願いします。七瀬ちゃんとは前にも顔を合わせたことがあったよね。えっと、それでそっちの男の子が――」
「ええ、彼がうちのチームに入ってくれた新人です。日下部さんとは初対面になりますね」
「上月晶です。よろしくお願いします」
ぼくは、軽く頭をさげて自己紹介をしておいた。
この人が日下部さん……ということは、チームの指揮官か。
今も言い争いをしている横の二人と比べると、ずいぶんと大人しそうな印象を受ける。
「日下部 弥生です。新人さんだと色々とわからないことも多いだろうけど、頑張ってくださいね。滝本さんは腹黒メガネだけど綺麗な部分もあるから、頼れるところは頼っちゃえ」
「日下部さん。チーム内の関係を崩すような不用意な発言は控えてもらえますか?」
とても爽やかな笑顔でにこりと微笑む滝本さん。
「あ、すみません。綺麗な部分なかったですか?」
……やだ怖い。
と、ぼくがそんなアドバイスを受けている間も、隣からは荒々しい声で暴言の応酬が続いていた。
たぶん、この二人が適性者なんだろう。
やれやれ。これじゃあ、自己紹介どころじゃないな。
――ドンッ。
突然の銃声。
思わず七瀬さんをガン見したが、彼女はくいっと顎を日下部さんのほうに向けた。
砲身から硝煙を吐き出す銃を手に持っていたのは、なんと日下部さんである。
「ちょっ!? 日下部さん、それ当たるとマジでやばいっすから」
さすがの不良君も焦ったようで、喧嘩を止めてこちらを見た。
「大丈夫。今のあなたたちなら、通常の銃弾が当たったぐらいで致命傷にはならないでしょ? そんなことよりこっちに来て挨拶しなさい。次は頭を狙うわよ」
「弥生姐さん……目が笑ってないよ」
うひぃ。
誰だ、この人が大人しそうだとか言ったやつは。
ぼくか。
「……一ノ瀬 蓮だ。こっちの足を引っ張んなよ」
「一ノ瀬 朱里です。さっきはうちの弟が失礼なこと言っちゃってごめんなさい」
「はん、姉貴ぶってんじゃねえよ。生まれた日は一緒のくせに」
「うっさいわね。こういうのは先に出たもん勝ちなの」
ああ、なるほど。この二人は双子の姉弟ってわけか。
どうりで顔立ちが似ているわけだ。
「それで、そっちの新人君はどれぐらいの強さなんだよ?」
「ちょっとあんた、やめなさいよ。いきなり相手のステータスを聞くなんて失礼じゃない」
「仮想体を手に入れたばかりだから、まだクラスレベル1で、パラメータは概ねCランクといったところかな」
軽々しくステータスボードを見せようとは思わないが、防衛戦で一緒に戦うわけだから、これぐらいは教えておくべきだろう。
「ほ~ん。適合率は? 俺はちなみにAランク。羨ましがる必要はないんだぜ? BやCだとしても将来的に十分な戦力になるからな」
「そうですか。ぼくの適合率はSランクです」
「はあ!?」
……ああ、こんなことで少しスカッとしてしまった自分が恥ずかしい。
まあ実際はEXなのだが、滝本さんに黙っておいたほうがいいと釘を刺されていたため、Sランクということにしておいた。
「くっそぉぉ……七瀬に続いて新人までSランクだと?」
「滝本さん。内密な話で申し訳ないんですけど、チームメンバーをトレードする気はありませんか?」
「……おい朱里、目の前で不穏なこと言ってるやつがいるぞ」
「弥生姐さんの目が本気だわ。あんたと離れるのはせいせいするけど、どっちがトレードに出されるのかは気になるところね」
「一ノ瀬姉弟はそろってAランクですし、今なら大粒の属性魔石も付けちゃいます!」
「「総入れ替えかよ!!」」
うーむ。
さすがに冗談なのだろうが、こういったやり取りを見ていると、黙っておいたほうがいいという滝本さんの考えも理解できる。
もし適合率EXという噂が広まれば、本気で勧誘しようとするチームも出てくるだろうし、ちょっと面倒くさい。
「日下部さん。チームメンバーと仲が良いのは結構ですが、あまり度が過ぎた冗談はよくないと思いますよ。さて……顔合わせはこれぐらいでいいでしょう。時間も頃合いですし、皆さんそろそろ配置につきましょう」
滝本さんはトレードの話を笑顔でスルーし、自分の腕時計を見た。
日下部さんもそれ以上は粘ることなく、一ノ瀬姉弟のほうへ向き直った。
「ええ、そうですね。蓮君、朱里ちゃん。わたしたちのチームワークを見せつけてやりましょうか!」
「うわ、さっきあんなこと言ってたのに、よくまあ屈託のない笑顔でそんなこと言えるよな」
「まあ、弥生姐さんはこういう人だからね」
……なんだかんだ、日下部チームもあれはあれでまとまっているようだ。
――それでは、いざ防衛戦といきますか。
読んでいただき感謝^^




