仮釈放? (現実)
『ラ・ミカエル』のプログラムコードを、俺が流出させていた――。
そんな嫌疑をかけられているなど、思ってもいなかった。
てっきり、会社の上司や同僚を無断で登場人物にして小説を書いていたので名誉毀損かなにかで訴えられていると思っていたのだ。
俺がその事を話すと、
「……どうやら、彼女さんもそう思っていたようですね。少なくとも情報流出については、考えてもいなかったようです。あなたはそんなことをするような人ではない、と強く言っておられましたよ」
と伝えてくれた。
まあ、もっと言えば、俺がそんな大それたことなどできるはずもない、と思っていたのだろうが……。
「それで、美香は今……」
「彼女に関しましても、もう事情聴取が終わりましたので、今、待っておられるところですよ」
とのことで、俺からも、今日のところはもう聞くことはないと言われ、そのまま釈放? となった。
取り調べ室を出て、廊下を歩く。
刑事ドラマなんかだと、このシーンでは手錠をかけられていることが多いのだが、もちろん俺はそんなことはされなかった。
しばらく歩くと、すこし広間になって、椅子がいくつも並べられている場所があり、そこに美香が座っているのを見つけた。
「美香、待っててくれたのか?」
俺がそう声をかけると、彼女は立ち上がり、涙目になって駆け寄ってきた。
「ツッチー……大丈夫だった?」
「ああ、特にやましいところなんかなかったからな」
本当は名誉毀損で訴えられたと思っていたので、ちょっとビクビクしていたけど。
ここは婚約者として、毅然としたところを見せねば。
「よかった……名誉毀損で訴えられたのかと思った……」
……やっぱり、そう思ったんだ。
他の人はともかく、山口だけは実名を使っていたからこんな心配をしなければいけなかったのだ……帰ったら登場人物の名前をもうちょっと変えよう。
こうして俺たちは、無事釈放された。
自宅に着いた頃には、もう完全に笑い話になっていた。
「ねえねえ、勇者がまったくの濡れ衣で捕まるって、ネタとして使えないかな?」
「残念ながら、よくあるパターンだ。それで、その疑いを晴らすために脱走して、結局追われる身になるっていうのが王道パターンだな」
「あははっ、やっぱダメか……でも、警察に事情聴取されるって、そんなにある事じゃないよね? 私は初めてだった!」
「当たり前だ、そんなのがしょっちゅうあったら困る……けど、まだ俺の容疑、完全に晴れた訳じゃあないんだ。俺のPCから、誰かが不正にサーバにアクセスしてプログラムコードを盗んだ形跡があるらしいんだ」
「そんな……でも、ツッチーじゃないんでしょう?」
「ああ、もちろん。でも、誰かが俺がいない間にPCを起動して、サーバにアクセスしたっていう可能性もあるしな……」
「あ、そっか。そのこと、警察の人には話したの?」
「話したよ。じゃあ、それができる人はいるかって聞かれたから、いないって答えたんだ。だって、例えば夜中に勝手にPCを起ち上げたとしても、ログインするには、IDとパスワードが必要だからな」
「……そうよね……ところで、ツッチー、パスワードは何にしているの? まさか、自分の名前と誕生日の組み合わせ、とかじゃないよね?」
「もちろん、そんな安易なものじゃないよ」
「そうよね……ちなみに、何にしたかこっそり教えてもらってもいい?」
美香の疑問に、俺は答えようか躊躇したが、嫁になってくれるという彼女に隠し事をするのはよくないと思い、正直にパスワードを話した。
「……ちょっとそれ、私の名前と誕生日の組み合わせじゃない!」
美香が、赤くなりながらそう言った。
「うん、まあ……そうなんだけど、その……それだとPCを起ち上げる度に美香のこと、思い出せるからいいかなって思って……」
「……呆れた……」
美香はそうこぼしながらも、少しだけ嬉しそうだった。
「……でも、それだと私たちが付き合ってるって知っている人なら、ひょっとしたらパスワードを突破できることない? 知らなければ想像もできないと思うけど」
「そうか? でも、そうだとして、それを実践できるのは……」
と、ここで何人かの顔が浮かんだ。
「……まさか……そんなことが……」
俺たちのことを知っているのは、優美、風見、そして虹山秘書……つまり、ずっと仲間として接してきた者しかいなかったのだ。
※第83話「プロポーズ (現実)」を挿入追加しています。お暇がありましたら、見ていただけますと幸いです。




