任意出頭 (創作、現実)
(創作世界)
転移門内の魔方陣に乗った俺達は、ミイケ副団長と共に空間移動を開始した。
『転移魔法』と同様、目の前が一瞬暗くなったかと思うと、もうさっきと少し景色が変わっていた。
といっても、同じような地下の施設ではあった。
少し狭くなって、全体的にさっきが青みがかった石造りだったのに対して、こちらは黄色っぽい感じだった。
三人ほどの兵士が待っており、
「副団長、おかえりなさいませっ! それに勇者様、そのお仲間の方々、よくぞいらしてくださいました、感謝申し上げますっ!」
と、かなり歓迎されているようだった。
しかし、だからといって特になにかセレモニーがあるわけではない。
「こちらです、敵は大勢押し寄せてきています! 特に虫が酷いんです!」
少しでも戦力の補強が望まれているようだった。
こうなったら、もう腹をくくるしかない。どんな敵だろうがやっつけてやる!
……地下室から地上に出て、その惨状を見てうんざりした。
味方の兵士達は、全員げっそりとした表情で虫と戦っている。
でかいものは、ツバメほどもの大きさがあり、それが高速飛翔して兵士達に襲いかかってきている。それが何十箇所もで繰り広げられているのだ。
「……シュン、あの空飛んでる奴、射抜けるか?」
俺は、ダメだろうなと思いながら一応確認してみた。
「あー、あれは無理っすね。小さいし、早すぎます」
「……だろうな……ミイケ副団長、魔法は効かないんですよね?」
「そうですね、ほとんど効果ありません。一匹ずつ、武器で潰していくしかないのです。しかも、ただ単に闇雲に武器をふるえばいいというものではなく、高度な技術が必要となります」
俺はうんざりしながらも、戦いに参加せざるを得なかった。
――思った以上に辛い作業だった。
あちこちで虫による被害が発生している。
ある者は戦いの疲れで足元がフラフラになったところで、バグの襲撃により砦の足場から転落して大怪我をした。
またある者は、精神的にやられたようで、もう秋なのに
「セミの鳴き声が聞こえる……」
といい残し、床に倒れてしまった。
俺もいくつかのバグを潰したのだが、一向に終わりが見えない戦いだ。
もう日は大分傾き、このままだと深夜、いや、徹夜作業になりそうだ。
その間、今回は戦いに役に立たないミキやユウ、レイは、俺や兵士達に飲み物を支給したり、軽食を持ってきてあげたりと、支援活動に専念していた。
シュンは、一応小型の剣で戦ってはいるが、いかんせん専門外なので、効率は悪い。
フトシは、まったく戦いでは役に立たないので、何か戦況報告書みたいなものを作っているようだった……あとで国王に、自分達がどれだけ役に立ったか報告して褒美をもらうつもりなのかもしれない。こういうところは、商人として本当に抜け目がない。
うん、まあ……俺達の邪魔にならないのなら、それでいいのだが。
「くっ……まったく減っていかない……すごい数のバグだ……一体、誰がこんなことを……」
いいかげん、俺も苛立ってきていた。
その時、砦から二百メートルほど離れた所に、その男は立っていた。
「あれは……システム部のヤマグチ……なんてことだ、妖魔になっているじゃないか!」
そう、それは元同僚の変わり果てた姿だった。
そしてなにやら奇妙な手つきで何かを操作していたと思ったら、そこに新たなバグが出現した。
「なっ……バグを次々と生み出したのは、奴だったのかっ!」
そう、奴は邪鬼王の手によって異世界召喚され、新たな妖魔、『テヌーキ・ヤマグチ』として、俺達の前に立ちふさがったのだ!
俺はヤマグチの前に猛ダッシュした。
「ククク……バグ、バグ……タノシイナ……」
……もう、完全に目がイッってしまっていた。
元々、わざとバグを生み出すような奴ではなかったが、前々から手抜きが酷く、トラブルになる事も多かった。
それが異世界召喚によって、ここまで極端になってしまっていたのだ。
奴のすぐ目の前まで、俺はやって来た。
これまでの例からして、異世界召喚された者は、何か特殊能力を持っている可能性がある。
注意深く観察していると、また新たなるバグを生み出そうとしているではないかっ!
「くっ、やばい……ホリゾナル・スラッシュ!」
俺はいきなり必殺技を繰り出した!
「ッギャーーーーァァァァー……」
……テヌーキ・ヤマグチは、あっさりと倒れ、そして霧散したのち、一筋の光となって天へ登っていった。
しかし、生み出されたバグ達は、以前大量に存在したままだった。
「……残したバグの方がよっぽど厄介だ……テヌーキ・ヤマグチ、ある意味、恐ろしい奴だった……」
俺は、奴のバグを全て始末するには、二、三週間かかるであろう事を予感し、最悪の気持ちになってしまっていた――。
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(現実世界)
「あははっ、山口君、あっさりと倒されちゃったね。でも、いいの? これって、本名そのままじゃない。それに大量にバグを生み出した、なんて……やばくない? 名誉毀損で訴えられない?」
日曜日のこの日も、家に遊びに来ていた美香に、まず最初に投稿内容を見せたところ、このような反応が返ってきた。
「大丈夫だよ。ヤマグチなんてどこにでもいる名前だし、あいつ、俺が小説書いていることも知らないだろう。万一会社の誰かにばれたって、ちょっと怒られてそれで終わりだよ。それよりも、あいつの手抜きバグのせいで連日遅くまで残業している俺達の方が被害者だ!」
俺は怒りを込めてそう断言した。
「……うん、そうなんだろうけど……まあ、もう山口君、辞めちゃったし、手抜きがばれて社長に怒られるようなこともないし、いいのかな……」
「……なんでそこで社長が出てくるんだ?」
「えっ? ……あ、うん、何でもない!」
美香は慌ててそうごまかしたが……何か引っかかる言い方だった。
それから一週間後、日曜日の午前十時ごろ。
不意に、その時は訪れた。
この日も、美香は俺の部屋に来ていたのだが、それとは別に、予告なく来客があった。
モニターホンの画面に映ったのは、スーツに身を包んだ、ガタイのいい中年の二人組だった。
「……あの、なんのご用でしょうか?」
戸惑いながら話を聞くと、
「突然申し訳ありませんが、土屋勇斗さんですね? 我々は東署から来た者ですが……」
と、警察手帳を見せられた。
思わず目を見開いて、顔を見合わせる俺と美香。
慌てて玄関のドアを開けた。
「……あの、ツッチー……彼が、何かしたのでしょうか?」
美香が、いきなりそう切り出した。
いや、俺は何にも身に覚えがない。
「……こちらは、彼女さんですか?」
厳つい顔の刑事さんがそう尋ねてきたので、そうです、と答えた。
「……いえ、今の段階ではまだ、参考人といったところです。ですが、詳しく事情を聞きたいので,警察署へ来てください」
と言われてしまった。
「えっ、そんな……俺、何にも悪い事、してないですよっ!」
必死にそう弁明するが……。
「……そうですか? 本当に何も心当たりありませんか? 会社で何か、トラブルなどありませんでしたか?」
今度は、丸顔の刑事がそう言ってきた。
それを聞いた美香は、
「……やっぱり、あれ、まずかったのよ! だからやばいって言ったのに!」
と、余計な一言を言ってしまった。
それを聞いた、厳つい方の目が光った。
「……どうやら、彼女さんからも事情を聞いた方がよさそうですね……」
こうして俺達二人は、警察に任意同行を求められてしまったのだった――。
※何か誤解があるようで、土屋は重要参考人となっているようです。
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