符号 (現実)
俺は驚きで目を見開いた。
「優美……どうしたんだ、こんな時間に……」
「あの……眠れなくて……それに、少し、お話がしたくて……でも、起きてるとは思わなかったです……」
彼女の服装は、上はTシャツ、下はデニムスカートという動きやすいもので、サンダルを履いていた。
コテージと言うことで、キャンプ気分で、おそらくパジャマ代わりにそれを選んでいたのだろう。
「話? ……それって……」
と、そこまで言って、それ以上は躊躇した。
『今日でないとダメなのか?』
そう言ってしまうと、否定の意味になってしまうと思ったからだ。
「……俺は構わないよ。えっと……中で話した方がいいのかな……」
そうは言ったものの、コテージの室内で二人っきり、というのは、少しまずい気がした。
「……あ、今、外に出ると、さっきよりすっごく星が綺麗に見えるんですよ。一緒に見ませんか?」
彼女にそう言われて、まあ、それならまだ、部屋の中で何かあったと思われるよりマシかな、と思い、俺もジーンズにTシャツという格好だったので、その提案に乗ることにした。
皆を起こさないように、二人とも忍び足でコテージを出る。
そして上空を見上げると、都市部では見ることができない、満天の夜空が広がっていた。
すぐ側に、バーベキューを楽しめるスペースがあり、木製の椅子と机があったので、そこに並んで座った。
「……それで、話って?」
「……えっと、特に決めてないんです」
「……えっ?」
「本当に、ただ、世間話でもなんでも、とにかくお話がしたくて……夜中に、ごめんなさい……」
申し訳なさそうにそう謝る彼女に、俺は、本当に言いたかったことを躊躇しているようにも感じた。
「……いや、全然平気だよ。こうやって綺麗な夜空を見ることもできたし……あのぼんやりとしているの、天の川、かな……」
「本当ですね……奇麗……」
今、俺の隣には、会社一と言っても差し支えないほどの美少女が、肩が触れあうほどの距離に座っている。
そんな彼女と、昨日の午後と夜に混浴までしながら、『心はときめくけど、恋愛感情はないかもしれない』と言ってしまっていたのだ。
そして彼女は、俺と美香が恋人になったこと、おそらく、まだ冗談っぽくだけど、結婚の話まで出ていることも知っているはずだ。
それでも、俺と二人で話をしたがっている……また、それを、戸惑いながらも嬉しく思っている自分がいた。
「……実は、本当は、ちょっと悩み事があって……相談に乗ってくれたらうれしいな、って思ってます」
「相談? 俺なんかで良ければ、答えられることは答えるよ」
「……あの……私って、男の人から好きになってもらえる事はないのかなって思って……どうすればいいのかなって、悩んでいるんです」
「……優美が? 十分、モテると思うけど……告白とか、されたことあるんじゃないのか?」
「……その、冗談っぽくならありますけど、真剣にっていうのはないです。私の方から告白したことはありますけど、うまくいかなくて……」
落ち込んだようにそう話すのを聞いて、意外に思った。
「……冗談っぽくでも、告白されたことがあるんだ……でも、それって実は真剣だったけど、照れていただけとかじゃないかな?」
「えっと、でも……軽く『俺と付き合ってみない?』とか言われても、真剣に思えないです……」
まあ、そんな言い方されたら、確かに本心かどうか分からない。
「その点、美香さんはすごくモテていて……真剣に告白されているの、聞いた事ありますし……」
「え……それっって、誰から?」
ちょっと慌てた俺の言葉に、優美ははっとした様な表情になって口を押さえた。
「……ごめんなさい、今の、聞かなかったことにしてください……あ、でも、美香さん、ちゃんと断っていましたよ。好きな人いるからって」
やっぱり、美香、俺以外の人にも真剣に好かれていたんだ……。
「……いや、でも優美だって、本当に好きだと思っている人、いると思うよ。ただ、『高嶺の花』っていうか、自分なんか相手にされないって思っているだけじゃないかな。なんていうか、好意はもっているけど、可愛すぎて、自分なんか相手にされないっていう感じで」
「……そんなことはないと思いますけど……」
「いや、俺がそうだったし……」
迂闊に言ってしまったその一言に、優美は、
「えっ……」
と反応し、驚いたように右手を口に当てて、俺の方を向いた。
「いや、その……まあ、本音で言えば、恋愛感情も少しは……あったよ……」
俺は、自分がつい言ってしまった一言を、自分自身でうまくフォローできず、顔が熱くなったまま、固まってしまった。
その様子を見た優美も、顔を赤らめ、
「……少しでも、恋愛感情を持っていてくれたなら、嬉しいです……もちろん、美香さんほどでないのは分かってますけど……」
と、嬉しそうな表情をしてくれた。
俺としては本音だったが、だからといって彼女とつきあえる訳でもない。
「……今日、お話できて良かったです。今の一言だけで救われました。……でも、もし、本当に今の日本で、一人の男の人がお嫁さんを二人以上もらう事ができるなら、どんなに良いことかなって思っちゃいました」
「……ああ、それは俺も思ってる。それだったら……」
と、そこまで言ったところで、電撃のようななにかが、俺の背筋に走り、肌が粟だった。
なぜ、優美はこのタイミングで、そんな話を持ち出したのか。
俺が、創作の中で、二人の女性……それも、優美と美香をモデルにして、二人ともと結婚したい、異世界だからそれが可能だと宣言した、その話をアップした直後ではないか。
彼女には、一度、「恋愛感情はないかもしれない」と言ってしまった。
しかし、小説の中では、俺の本音……優美をモデルとした『ユウ』にも、実は好意を持っていると打ち明けている……。
いろんな符号が一致する。
まさか、優美は……いや、ひょっとしたら美香も……俺の書いた異世界ファンタジーを、読んでいる……!?




