異世界混浴 その① (創作)
「レイちゃん……まさか、殺しちゃったの?」
雷撃のあまりの威力に、ミキが少し慌てたようにそう尋ねた。
「いいえ、もちろん手加減はしました。水辺だったので少々効果は大きかったようですが……まあ、半日ほどで動けるようになるでしょう」
さすがに殺したりはしていないようで、安心した。
聖治癒術師であるユウは、急いでワニ化したフトシ課長代理の元へと駆け寄った。
「……たしかに、気を失っているだけみたいです。それに……これ、毒というよりは、『呪い』の類ですね……解呪で元に戻せそうです」
「え、戻せるのか? ……さすが聖治癒術師。ほかのワニたちも戻してやった方がいいのかな……」
先程の雷撃の音を聞いて、従業員達が慌てて集まってきたので、ワニたちは気を失っているだけであること、呪いを解くことで元に戻ることを説明した。
従業員達は、
「ぜひ、元の姿に戻してあげてください! お礼は致しますので!」
と、こちらが恐縮するぐらいに頭を下げてきたので、ユウに解呪してもらう事にした。
まず、倒れていたり、水に浮かんでいるワニたち、約三十体を従業員が回収して、とりあえず休憩スペースに運び込む。
その中にはフトシも含まれている。
そして、一体ずつ『解呪』の魔法をかけていく。
この際、ワニたちは裸だったので、従業員達が下半身にバスタオルをかけて、ユウが気にしなくてもいいように気を使ってくれた。
それにしても、聖治癒術師のユウはすばらしく腕を上げていた。
一瞬でもとのオジサンの姿に戻っていく……そんな『解呪』を、休憩無しで三十人全てにかけて、なお魔力に余裕があると言うのだ。
ただ、無理に『気付け』で目をさまさせると、雷撃の衝撃が残っていて苦痛を感じるかもしれないので、自然に目を覚すのを待った方がいい、ということになった。
ワニ達が全員人間の姿に戻ったことに感激した従業員は、まるで神様を崇めるようにユウを、そして俺達にお礼を言い、さらに、大露天風呂を貸し切りにしてくれるというではないか。
これは俺たちにとって、願ったりかなったりだったので、その言葉に甘えることにした。
……とはいうものの、フトシ課長代理が気絶している今、ミキ、ユウ、レイ、アイさんの女性四人に対して、男は俺ただ一人。
ただっぴろく、高台にある混浴露天風呂だ。
わずかに湯煙漂い、50メートルのプールほどもの広さがある、やや乳白色の湯をたたえた神秘的な岩風呂。
高台にあるため、その奥には絶景が広がっている。
俺は腰にタオルを、女性陣はバスタオルを巻いて、あらためてその素晴らしさに驚嘆する。
アイさんは
「理想通の展開ね。ヒロ君、ハーレムじゃない!」
と、勢いよくバスタオルを取ろうとしたので、俺は思わず奥の景色の方に顔を向けた。
「あら、照れちゃって、かわいい!」
アイさんって、こんなキャラだったかな……と思っていたら、更衣室に入る前に、こっそりお酒を飲んでいたらしい。
さすがに他の三人は、俺がいるのに裸になる事には抵抗があるようで……というか、俺が一番抵抗を感じてしまう。
すると、やはりここでもユウが一歩前に出た。
「私、属性は『水』なので、水に関する魔法も使えるんですよ……『濃霧展開』!」
彼女が呪文を唱えると、岩風呂の範囲だけ、濃い霧が立ちこめた。
これで十メートルほど離れると、ほんのりと人影が見えるだけとなる。
「……なるほど、これなら俺も、それほど照れることもないかな……」
俺は安心して、岩風呂の中へと入っていった。
少し進んで振り返ると、女性達が、キャッキャ騒ぎながらバスタオルを取っている様子が見えた……ただし、曇りガラスの向こうのような感じで、うっすらと肌色が見える程度。誰が誰なのかも判断できない。
それでも、かなりドキドキするわけで……そう言う意味では、この特別な効能の湯に浸かりながらであれば、『魅惑』耐性が身についている……ような気がする。
岩風呂から向こうは霧がないので、端まで行けば絶景は堪能できる。
まだ夕方と呼ぶには早い時間帯で、遠くの山々まではっきりと見渡せ、心が洗われるような感覚だった。
ふと、岩風呂の入り口……つまり女性達が騒いでいる方向に目をやると、一つの人影がこちらに近寄ってくるのが見えた。
「……!?」
思いも寄らぬ事態に固まってしまう。
その人影は、下半身は乳白色の湯に浸かっているが、腰から上は何も身に纏っていない状態で……ただ、両手を交差させて胸を隠しており、なお近寄ってきた。
どういうわけか、目を逸らすことができない。
俺は息を飲んで、その人影を注視していた……そして、すぐ近くまで来て、それが誰なのか分かった。
「ヒロ……来ちゃった……」
頬を桜色に染め、目をわずかに潤ませて、恥ずかしそうに両手で胸を隠して立っているその女性……幼馴染みの、ミキだった。




