表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった  作者: エール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/110

混浴 その⑨ エージェント(現実)

 虹山さんはもう一度、


「失礼します……」


 と言って、湯船の中に入ってきた。


 俺はぎりぎりまで端に寄った。

 こうすることで、直接肩が触れあうことはない。


 それを見た虹山さんは、


「かわいいですね……」


 と、照れる俺を少しからかうように微笑みながらそう言った。


「ちょ、ちょっと待ってください……本当に、なんで虹山さんが?」


「それをこれからご説明します……理由は二つ。まず一つ目、ちょうど二人だけで話ができる機会を捜していたところです。あちらはかなり騒々しいですし、小声で話すれば聞こえないでしょう」


「それはそうかもしれませんが……湯浴み着を着てはいますが、一種の混浴ですよ?」


「ええ、そうですね。でも、プールにでも入っていると思えば、どうということはないです。そう言いながら、私も少しは緊張していますが……」


 冷静そうな彼女だったが、よく見ると確かに少し、赤くなっていた。


「それに、より親密になる事が……正確には、そう見られることが必要だと判断したからです。それが二つ目の理由です」


「……よく分かりません」


「そうですね、順を追って説明します。まず、一つ目の話というのは……単刀直入に言います。社長から伝言……というか、指令を預かってきているのです。あなたを、社内エージェントとして抜擢したい、と」


「……エージェント?」


 聞き慣れない言葉に困惑する。


「そうです。分かりやすく例えるならば、映画なんかで良く出てくる、FBIとかの秘密捜査官、のようなものです。そこまで大げさではありませんが、ようするに、社内で不正を働いたりするような者がいないか、社長直属の監視員として秘密裏に調査して欲しい、ということです。通常のSEとしての給与以外に、活躍に応じて社長から直接報奨金が支払われます」


「……なんですか、そのスパイみたいなものは?」


「自分が働いている社内の情報を社長に伝えるのですから、スパイではないです。特命を受けた特殊な社員、というふうに考えてください」


「……そんな社員が、いるのですか?」


「いますよ……人数は教えられませんが。私もその一人です」


「……そんなラノベのぶっ飛んだストーリーみたいな話、信じられると思いますか?」


「信じられるもなにも、土屋さん、あなたも……いえ、後ろで騒いでいる美香さんも優美さんも、自主的にそんな活動、していたではありませんか」


「あっ……」


 そうだった。

 俺達は、備前専務との戦いにおいて、その悪行をこっそり社長に報告していたのだ……美香達がどうやって直接連絡したのかは、未だに不明だが。


「……それじゃあ、あの二人もその、エージェントやらになっているんですか?」


「いえ、彼女たちにはまだ正式にお話していません。まずは、土屋さんからと思いまして。そのためには親密になる必要がありましたし、また、そう周囲から思い込んでもらう必要がありました」


「親密に……思い込んでもらう?」


「そうです。そうすれば、私達がプライベートで会っていたとしても、不思議に思われなくなるでしょう?」


「あ……」


 虹山秘書の大胆な作戦に、絶句した。


「……やっぱり、虹山さんと俺達がこの温泉旅行で出くわしたのは、単なる偶然じゃなかったんですね……」


「さすが、土屋さん。気付いてらっしゃったんですね……もう私達は、昼間の大露天風呂でも、そしてこの貸し切りの露天風呂でも、混浴した仲なんですよ……美香さん、優美さん……それと瞳さんもそうですが」


「ちょっとまってください……瞳さんも、そのエージェント候補ですか?」


「いえ、彼女は違います。ですが……私達が仲良くなったっていう噂を広めてもらうためには、重要なキーパーソンでしょうね。顔が相当広い人ですし」


「なるほど……どこまで偶然で、どこまで策略か分かりませんが……それがさっきの二つ目の理由に繋がるのですね……虹山さん、あなたが怖い人だなっていうことは分かりました」


「あら、私が単独で行動している訳じゃないですよ。先程も言った通り、社長の指令です」


「……二階堂社長、か……確かに、恐ろしい人ですね……」


 何か、俺の行動を全て把握されているような気がして、風呂に入っているのに鳥肌が立つような思いだった。


「もちろん、すぐにお返事を頂く必要はありません。ただ、このお話は、美香さん、優美さんにもさせていただくつもりです。三人で相談してお決めになっていただいてもいいでしょう。ただし、それ以外の方には秘密ですよ」


「……えっと、風見は……」


「彼は既にエージェントです。そして、その事を貴方達にであれば教えてもらっても構わない、ということでした」


「なっ……」


 俺は絶句してしまった。


「……それじゃあ、まさか……あいつが熱を出したって言うのもウソで……混浴のある温泉街を予約して、あなたが偶然出くわすようにしたのも、全部……」


「さあ、どうでしょう? 私としては、不要な情報はお教えすることはできない、と言うしか無いんですけどね」


 ……なんか相当混乱してきたが、そもそも、今話題に出た四人が、自主的に、虹山秘書の言うとおり、エージェントっぽい活動をしていたことは事実だ。


「……あら、そろそろ、瞳さんと交代しないといけない時間ですね……それじゃあ、よく考えておいてくださいね。あと、後ほど、スマホのメールアドレス、教えてくださいね」


 彼女は、今度は不敵な笑みを浮かべて、洗い場の方へと戻っていった。

 俺は相変わらず、振り向くことすら許されていない。

 と、すぐに別の女性がやってきた……サポートセンターの瞳さんだ。


「お待たせっ、土屋君、虹山さんとずいぶん話し込んでいたじゃない! 美香ちゃん、優美ちゃんだけじゃ飽きたらず、虹山さんまでモノにしようとしているの? 私だけ除け者なんて、許さないからねっ!」


 瞳はそう言って、湯浴み着の上からとはいえ、俺に抱きついて来た。


「なっ……ちょ、ちょっと、瞳さん、酔っているでしょう?」


「ううん、そんなに対して酔ってないよ。生ビールジョッキ大二杯ぐらい?」


「十分酔ってますって! 泥酔しての入浴は危険で……」


「もう、堅いこと言わないの! 大体、なんで君、美女四人と次々混浴してんのよ、その方がよっぽど危険でしょう!?」


「ちょ、ちょっとま……ヒイィーッ!」


 露天風呂の外、夜の谷間に、俺の情けない悲鳴がこだました。

※次回、いろいろな事がありすぎて混乱している土屋の、苦悩と葛藤です。特に、結果的に振ってしまい、同情的になっている優美への思いが、創作の世界に大きな影響を与えそうです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ