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会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった  作者: エール


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混浴 その③ (現実)

 緊急事態だ。


 温泉旅行に出発当日の朝、風見から、夏風邪で熱を出し、寝込んでしまったと連絡が入ったのだ。


 彼の車での移動を目論んでいた自分達にとっては、ダメージが大きい。

 目的の温泉地は、秘境と言うほどではないが、少しひなびた場所にあるため、最寄りの駅から相当離れているし、所々、途中で観光名所を回っていこうという目的が果たせなくなってしまう。RPGでいうならば、まさに移動手段を奪われて途方に暮れるパーティー一行、という感じだ。


 ……と思っていたら、サポートセンターの瞳も参加する上に、彼女が車を出してくれることになった。移動手段、あっさり復活。


 そうすると、美香、優美、瞳という女性三人に、男は俺一人だけというハーレム状態。

 いや、これはこれで、居心地が悪いというか……なんか俺一人、邪魔者なんじゃないかと思ってしまったのだが。


 しかし、どういうわけか俺がどこに座るかで女性陣がくじ引きをしている状態。しかも、『当たり』を引いた人が俺の隣なのだという。


 あと、あくまでくじ引きは最初に隣に座る人を決めるだけであって、その後は一定時間ごとにローテーションされるのだという。

 俺って、こんなに人気があったっけ? 

 いや、単に珍しい生き物扱いの気もするが……。


 男女比が三対一である以上、俺自身が隣に座る女性の名前を指定できる雰囲気でもなく、もうなすがままだった。


 くじ引きの結果、まず俺は瞳の隣、つまり助手席に座ることとなった。

 ちなみに彼女の車、コンパクトカーなので、実は助手席が一番乗り心地がよかったりする……っていうか、後ろの席は男にとっては若干狭い感じなので、ちょうど良かった。


 天気はやや薄曇りだが、まだまだ暑い日が続いていたので、このぐらいがちょうどいいのかもしれない。


 さすが盆休みだけあって、どこも混んでいるのだが、急ぐ旅でもないのでそれほど苦ではない……っていうか、想像しているよりずっと楽しい。


 俺も、最初の方こそ、瞳や優美に


「美香ちゃんとどこまで進展したの?」


 とか、


「結婚、近いんじゃないの」


 とかいじられていたが、美香の


「まだ、友達の延長っていう感じでしかないから……」


 という発言をきっかけに、優美も冗談っぽく


「じゃあ、まだ私にもチャンス、ありますねっ!」


 とか、瞳も


「年上で良ければ、私も土屋君の争奪戦に参加するから!」


 と乗り気で、うん、まあ、それはそれで嬉しかったのだが……デレデレしすぎ、と、美香に背後からつねられ、それをまた他の二人に冷やかされる、という繰り返しだった。


 しかし、女性陣はそれにも飽きたようで、一時間ほどで俺の事はほったらかし。


 どこそこのSAで美味しいソフトクリームが売っているから寄ろうとか、お土産何にしようとか、そんなガールズトークが九割を占めるようになってしまった。


 やっぱり、邪魔者かな……。


 そんなこんなで、SAでは目的のソフトクリームを食べて(俺は強制的に抹茶プレミアムにさせられたが、意外と美味しかった)、高速道路を降りて、目的地の近くで地元の和牛スペシャルランチを堪能。


 ここからいよいよ冒険は、秘湯・美川谷温泉に近づいていった。


 さすがに道が細くなってくるが、まあまあ、まだ田舎の県道といった感じで、運転に支障をきたすほどではない。


 しかし、観光名所の『美川の滝』(落差約60メートルで、水量も多く、結構な迫力だった。マイナスイオンをたっぷり浴びた、と女性陣はご満悦)を過ぎたあたりから、道がさらに細くなっていき、右側は急な山肌、左側は崖という、サスペンスドラマに出て来そうな山道を進んでいく。


『居眠り運転=死』という物騒な看板も掲げられており、さすがに瞳も緊張の面持ちでハンドルを握っている。


 これはリアルに命をかけた冒険になってきた。

 しかしこんな道路でも、俺達以外の車は結構スピードを出しているので、彼女はプレッシャーを感じているようだ。


 地元の人間からすれば大したことのない道路なのだろうが、都市部の生活しか経験していない俺達からすれば十分に秘境という雰囲気になってきてしまっている。


「運転、変わろうか?」


 と、一応提案したのだが、ペーパードライバーであることを理由に、とんでもないと全員から反対されてしまった。


 そんな山道を三十分ほど走ると、ようやく目的地の美川谷温泉に到着。

 ロールプレイングゲームで例えるならば、いくつもの難所をくぐり抜けて、やっと天空人が暮らす聖なる土地に辿り着いた気分だ……まあこれはこれで、小説に使える。


 これが本当にゲームならば次回からは移動魔法一発で辿り着けるのだが、現実では帰りも運転しないといけないということで、瞳はややげっそりしていた。


 しかし、この温泉郷の美しさに気付くと、瞳を含む女性陣も、そして俺自身もテンションが上がるのを感じた。


 山々がどこまでも連なり、目の前には深い渓谷が刻まれている。

 あちこちから、セミや鳥の鳴き声が聞こえてくる、自然豊かな環境だ。


 意外と新しく、綺麗な建物が建ち並んでおり、湯煙も立ち上っていて、まさに温泉郷といった雰囲気だ。


 とりあえず、俺達は今日の宿に荷物を置くことにした。


 宿、といっても、正確に言えばコテージだ。

 最大六人まで泊まれるおしゃれなコテージを、風見は予約してくれていた。


 その綺麗な外観と、シンプルながら木の香り漂う整った内装。

 非日常を思い起こさせる雰囲気に、女性陣は歓声を上げた――さすがは風見、GJだ。俺達はおまえのおかげで楽しんでいるから、安心してゆっくり養生してくれ。


 寝室は二つあって、それぞれベッドが三つずつ用意されており、個々にカーテンで仕切れるようになっている。

 ここでまた女性陣が、俺と誰が同じ部屋になるのかはしゃいでいたが、


「俺一人と、女性三人で一室使えば良いんじゃないか?」


 と提案すると、


「一人で一室は贅沢すぎる」


 とブーイングが出ていた……俺としては、至極まともな提案をしたつもりだったのだが。


 このコテージ、庭でバーベキューができるので、近くの店舗にその食材を買いに行ったときだった。


「……あれ、土屋さん、皆さん……奇遇ですね」


 聞き覚えのある声と、クールビューティーな顔立ちの、二十代後半ぐらいの綺麗な女性。

 眼鏡をかけていなかったし、肩のスリットがややセクシーなトップスを着こなしていたので、すぐには誰か分からなかったのだが……。


「……虹山さん、どうしてここに!?」


 社長秘書だと気付いた瞬間、俺は大きな声を出してしまった。

 美香、優美、瞳の三人も、目を丸くして驚いていた。


「私、温泉巡りが好きで、一人でよく旅行するんですよ」


 と、ニッコリ微笑んでくれたのだが……このとき、なにか波乱が起こりそうな予感がしていた。

※虹山秘書がこの温泉地にいたのは、単なる偶然ではなさそうです。


※次回、女性四人と土屋で混浴? となりそうです。

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