プロローグ
じゃじゃーん!!(お久しぶりです)
後宮茶妃伝、第三巻出ます!!
2023年1月14日に発売予定です!
まさか、三巻まで出していただけるとは思わず、とてもうれしい…!(なにせ小説家になろうさんではあまり読まれてなくて…)
ということで、読んでくださる方がいると嬉しいなあという気持ちで感謝を込めて、小説家になろうさんでも連載再開!
1月14日に発売する書籍版と内容は異なりますが、プロトタイプ的なお話を掲載します!!
面白いなぁと思いましたら、是非とも書籍版後宮茶妃伝もよろしくお願いします!
青国の第九代皇帝黒瑛は、腐敗しきった宦官による専横政治を終わらせた。
皇帝黒瑛による新政が始まり、国の財政を危惧した皇帝がまず行ったのは後宮の整理。
後宮を一度解散させ、南州の族長の娘、茶采夏を皇后に据えた。
次いで南州のみに権力を集中させないために、北州の族長一族からも末の娘・呂燕春が入内する。
そして、また新たな妃が二人、青国の後宮に入ってきた。
後宮の南、外邸に繋がる大門の近くには、後宮の妃達で朝議を行う「曙の間」という大きな広間を有する建物がある。
内壁や柱は鮮やかな朱色で塗られ、そこに金箔で描かれた鳳凰が舞っている。とても華やかな場所だ。
その曙の間には、新しい妃を迎えるために、後宮の住人達が集っていた。
最も高い壇上の上で豪奢な椅子に座るのは、後宮の頂点である永皇太后。現皇帝黒瑛の母である。
そしてその一段下、皇太后の左斜め下には皇后采夏と皇帝黒瑛が並んで座し、その下に四大妃の一人、北州の族長の娘呂燕春が並ぶ。
他に立ち並ぶのは、彼らに仕える侍女や宦官達だ。
今日は、新しく入内した妃達との初顔合わせ。
皇后の采夏は、この日を楽しみにしていた。なにせ新しく妃がやってくる、ということはつまり……。
「新しい茶飲み友達ができるの、楽しみですね」
弾むような調子でそう言うと、隣で聞いていた皇帝の黒瑛が苦笑いを浮かべる。
「いや、茶飲み友達ではなく、新しい妃……まあ、茶飲み友達で良いが……」
黒瑛は呆れた様子で言うが、その表情は柔らかい。
皇帝と皇后が仲睦まじいことは後宮では有名だ。なにせ皇帝は、茶道楽で有名な皇后を射止めるために後宮内に茶畑まで作ったほどだった。
二人のやりとりを一段下に下がった脇の方でニヤニヤしながら見つめていた四大妃の一人燕春が口を開く。
「新しい妃が来られることに嫌な顔せず、わくわくされている皇后様、尊い……。そしてそのことに、陛下は少しばかり複雑な思いを抱くのですよね、分かります。ちょっとは嫉妬して欲しいとかそんなことを想ったりして……きゃーなんて尊いお二人なのでしょうか! ご飯が進みます!」
綺麗に切り揃えられた長い前髪を揺らしながら、燕春は身をくねらせた。
「おい、燕春月妃。俺の心の中を勝手に解釈するのはやめてくれ」
間違ってはいないが、と思いつつも疲れた様子で黒瑛が言うと、燕春はハッと目を見開いて口元を手で覆った。
「あら、嫌ですわ! 声に出ていましたか!?」
「ああ、出ていた……」
げっそり、と言った感じの黒瑛に隣の采夏が微笑みかける。
「まあ、陛下、燕春月妃もあたらしい茶飲み友達が入ってくるのが嬉しくて少しばかりはしゃいでいるだけですわ。私も、楽しみで浮き足立っていますもの」
皇后の言葉に黒瑛は遠い目を向けた。
「……あの日、『私だって普通の女性のように嫉妬することもあります』と言った皇后は幻だったのだろうか……」
新しい妃を入れると言う話をした時、本当は嫉妬したのだと采夏は確かに黒瑛に言ったのだ。
だが、今は、嫉妬というよりも、新しい妃という名の茶飲み友達の登場に完全に浮かれている。嫉妬とは一体何だったのか。
黒瑛の嘆きに、ぎょっとして目を見開いたのは燕春だ。
「……え!? 陛下、そのお話は本当ですか!? ちょ、ちょっと、私、聞いてないのですが! え!? そんな尊すぎる会話を!? 本当に、采夏皇后と!? あー、それは流石に、尊さが過ぎます! 突然の尊みの供給に私の身が! 持たない!」
と言って左胸を押さえて苦しみ出した。
皇后采夏だけが、「まあ、大丈夫ですか? お茶飲みます? 龍井ですか? それとも碧螺春ですか?」と優しく声をかけたが、黒瑛と永皇太后はそんな二人に生暖かい視線を向ける。
思わず永皇太后が「新しくやってくる妃は、できればもっと普通の感じの妃がいいわ……」と力なくつぶやいたところで、広間正面入り口の扉が開いた。
どうやらやっと、新しい妃達がやってくるらしい。
外の陽の光を背にして、しゃなりしゃなりとこちらに向かって歩いてきた女性の姿に、侍女や宦官も含めその場にいた誰もが一瞬息を呑んだ。
シャラン、シャラン。
髪に刺した銀の飾り物から、鈴のような音が鳴る。
少し赤みがかった髪を丁寧にまとめ上げ、赤や緑の玉を惜しげもなく使った髪飾りがその美しい髪を飾り立てる。そしてその下には、まるで天から舞い降りた仙女と見紛うような微笑みがあった。
猫のような魅惑的な瞳、色っぽい左側の涙ぼくろ、シルクのように肌理細かい肌にほんのりと色づいた桃色の頬と、赤い紅の塗られた艶やかな唇。
完璧といっても差し支えのない体型には、白百合が刺された菫色の襦裙が合わせられ、肩にかけた薄桃色の帔帛が、彼女の動きに合わせてひらひらと舞う。
ここにいる誰もが息を呑んで見入るほどに、現れた妃は美しかった。
この場にいる者の視線を独り占めしたその女性は、歩みを進めて皇太后たちの前へとやってきて立ち止まる。
「ご挨拶申し上げます。西州の州長・劉芳泉が娘、劉秋麗と申します」
その声までもが、見た目の通りの涼やかさだった。
にこりと誰もが見惚れる笑みを浮かべると、皇太后は思わず感嘆のため息を漏らした。
「西州にこれほどの美姫がいたなんて……」
皇太后から漏れた素直な賛辞の言葉に、秋麗は満足そうに笑みを深める。
「まあ、美姫だなんて……。皇太后様のお美しさに比べたら私なんて足元にも及びませんわ」
「ふふ、まあ、うまいことを言うのね。歓迎するわ」
「感謝申し上げます。皇太后様に孝行いたしますわ。……ところで、私の位はいかがなものになるのでしょう?」
たおやかな笑みを浮かべながら、微かに首を傾げて尋ねると、皇太后が口を開いた。
「西州の妃には、四大妃の一つ、風妃の位を空けていますよ。他の妃と力を合わせて、私や皇后を支えてくださいね」
皇太后の答えに、秋麗の顔がこわばった。
「まあ……風妃? 風妃と言えば、四大妃の花妃、鳥妃、風妃、月妃の中で三番目の位。ご冗談ですわよね? この私が三番目?」
先ほどまで浮かべていた完璧な笑みが少し歪み、どこか人を小馬鹿にするような顔をして秋麗が答える。
皇太后はわずかに戸惑いながら曖昧な笑みを返した。
「色々な力関係を考えてのことなのだけど、不満かしら?」
「……まさか。不満だなんて。ただ少し、不思議に想っただけなのです。でも、そうですわね。仕方ありませんわ。先の政変で、西州はあまり活躍できなかった。実家の力だけで上り詰めた方々が上にいらっしゃいますものね」
そう言って、秋麗は皇后の采夏に視線を向けた。
上から下まで采夏を見て、そしてクッと片側の口角を上げて笑う。その様はあきらかに皇后を下に見たような態度だった。
流石にその態度を間近に見て、新しい妃の登場にワクワクしていた燕春は不機嫌そうに片眉を上げる。
「あら、それは聞き捨てならないですわ、秋麗風妃。まるで、皇后様が、実家の力だけで皇后の座を射止めたとでも言いたげではないですか」
燕春の言葉に、秋麗はチラリと燕春を見る。
燕春に対しても、自分より劣るものを見るような視線をよこすと口を開いた。
「あら、違うのですか?」
すでに勝ち誇った顔だった。采夏は、家の力で皇后になっただけ。それ以外の魅力はない。そう暗に言っている。
「違います! 皇后様は尊い方なのです! 貴方など足元にも及びませんよ! 貴方は所詮、あれです! 当て馬です!」
拳を握って抗議の声をあげる燕春に、秋麗は不機嫌そうに眉を顰めた。
「まあ、馬だなんて! 陛下、馬に例えられるなんて、こんな侮辱初めてですわ。私が馬に見えますか?」
そう言って秋麗は、唇を尖らせ、目を潤ませた。そして、細い肩を震わせてか弱いふりをしながら、その潤んだ瞳を皇帝黒瑛に向ける。
渾身の媚び顔だ。
男なんて、ちょっと弱いふりして媚びて見せればイチコロ。
その完璧な可愛らしい顔にそう書かれているかのようだった。
皇太后である永は、その女の武器を総動員させたかのような笑みに、ひっそりと震えた。
黒瑛の父親である第六代皇帝時代の後宮の妃達がよく浮かべていた強かな笑顔。
当時の皇后に仕えるただの女官に過ぎなかった永が、彼女達の熾烈な争いを掻い潜って生きて来られたのはただ運が良かっただけだ。
皇太后が思わずぶるりと身を震わせ、息子である現皇帝黒瑛を見る。
彼の父であり、かつての皇帝は、女の強かさを巧みに隠した魅惑的な笑顔に弱かった。果たして息子はどう思うのか。
永がチラリと黒瑛の様子を見ると、黒瑛は大きく頷いた。
「馬には見えない。だが、風妃の位を変える予定はない。先の政変で力を貸してくれた東州の娘を四大妃の頂点、花妃に据える。鳥妃は、四大州以外のところから嫁いでくる名門の貴族に据える予定だ。そして皇后はこれからも采夏だ。……これらは現在の情勢等を加味した結果だ。覆す予定はない。そなたは四大妃、風妃として皇太后と皇后を支えてほしい」
黒瑛は爽やかに答えた。
黒瑛とて秋麗の美しさには確かに驚いたが、でもそれだけとでも言いたげだった。
黒瑛はかつて出涸らし皇子とばれ、皇族の中でも素行が悪い男だったが、それでも皇族の人間だ。幼い頃は母と共に父の後宮に住んでいた。その時に美しい人なら何人も見たことがある。そして美しいものには、棘があることも知っている。
秋麗は確かに美しいが、それだけなのだ。
だが、秋麗はその皇帝の対応に思わず目を見張った。
自分の主張がこれほどあっさりいなされたのが初めてだったのか、動揺に軽く目を見張ると……。
「発情期の犬の声が聞こえるな。陛下の後宮にはうるさい犬がおられるようだ」
張りのあるよく響く声が聞こえてきた。気づけば、扉の前に誰か立っている。
蓬色に金糸で蔦模様が施された袍を身に纏った若者がいた。
すらりと背が高く、青みがかった黒髪を引っ詰めて高いところで縛り後ろに流している。
切長の瞳は凛々しく、整った顔に浮かぶ笑みも麗しい。思わず目を見張るほどの凄まじい美青年だった。
その美青年は、長い足を動かしてさっと秋麗がいるところまでやってくる。
突然の美青年の登場に、一同は目を見張った。
何もその美しさだけに驚いているわけではない。ここは後宮だ。男子禁制である。
「お前、何者だ」
黒瑛が思わず采夏を庇うように前に出ると、突然の訪問者を睨見据える。
突然のことに戸惑うばかりだった侍衛や宦官達は、皇帝の声にハッとしてようやく動き出した。
槍を持った男達が、突然現れた美青年を取り囲む。
とりかこまれた青年は、困ったように笑みを浮かべた。
「おや? 呼ばれて参じたというのに、これはひどい歓待だな」
その言葉に、黒瑛が片眉を上げた。
「呼ばれただと?」
「ああ、私は江冬梅。東州長の、姪だが」
なんてことない、と言った様子で江冬梅と名乗った者が答える。
「それって……新しい花妃の?」
ぱちぱちと目を瞬かせながら燕春がそう言うと、戸惑う燕春にばちんと片目を瞑って見せた冬梅が口を開いた。
「その通りですよ、愛らしい方。私が、この度、新しく陛下の妃として使える東州長の姪、江冬梅だ」
快活に答える青年に、いや、新しく入内した妃、冬梅の言葉に一同固まった。
「江冬梅……? つまりお前は、いや、そなたは後宮に侵入した不審者ではなく、新しい花妃、ということか?」
男物の袍を着ているので誰もが男性と思っていたが、よく見れば胸元はわずかに膨らみ、喉仏もない。
女性である。
そもそも、こんなところまで堂々と男が入れるわけがなかった。
「ああ、先ほどからそう申し上げておりますよ、陛下。どうぞよしなに」
にかっと白い歯を光らせた顔は男前だった。
そしてその麗しい顔に柔らかな笑みを浮かべて視線を移す。移した先にいた皇太后と皇后に対して両手を組んで叩頭した。
「皇太后様に皇后様。妃の一人として、お二人に忠誠を」
そういって頭を下げる様はまるて大将軍が皇帝に忠誠を捧げるが如く、凛々しく様になっている。
突如乱入したかに見えた者が、新しい妃。にわかにそのことを受け入れた黒瑛がどさりと脱力したかのように椅子に座り直す。
「また、なんか、すごいのがきたな……」
思わず心の声も漏れた。
「貴方が、江冬梅? しかも、私を差し置いて、花妃ですって?」
最初こそ怯えたような表情を見せた秋麗だったが、相手が自分と同じく入宮した妃と知って、不機嫌そうに眉を釣り上げた。
「ああ、東州は先の政変で力をお貸ししたからそれゆえだろう」
「というか、なんで、よりにもよって男物の衣なんてきているのよ! 信じられないわ!」
「装いは自由と聞いていたが?」
「自由にも限度があるということをご存知ないのかしら」
「一番自分に似合う服を着てきただけだが。というか、そなたこそ、先ほどの皇后様に対する態度はなんだ。不敬にも程がある」
「貴方に言われたくないわよ! 貴方の服装自体が不敬じゃないの!」
どうやら相性が悪かったらしい。
冬梅と秋麗は出会うなり口論を始めた。
それらをあっけに取られて眺めていた黒瑛は思わず額を片手で抑えた。
そして黒瑛はちらりと隣の采夏の様子を見る。
アクの強過ぎる新しい妃を見て何を思うのか気になったのだ。なにせ、采夏は皇后だ。彼女らをまとめ上げていかねばならない。
采夏は大丈夫だろうかと心配してみてみたが……その心配は完全に杞憂だった。采夏の目は輝いていた。きらきらした楽しげな瞳で、冬梅と秋麗を見ている。
「本当になんて美しい方々なのでしょう」
どうやら秋麗の嫌味も、冬梅の奇抜さも皇后は気にならないらしい。
さすが采夏だなと思っていると黒瑛の視線に気づいたからか、采夏が黒瑛の方を向いた。
「これから、楽しみですね、陛下。私、お茶を飲む時に、周りの景色などによってもお茶の風味が変わるような気がしまして、実家にいた頃はお抱えの絵師に美しい風景画を描かせてそれを眺めながら茶を嗜んでいたのです。秋麗様は美しいですし、冬梅様は凛々しくていらっしゃいますし、お二人を眺めながら飲むお茶は、とても雅な風味がしそうです。陛下もそう思いませんか?」
楽しそうに語る采夏に曖昧な笑みを浮かべて「そうだな……」と力なく同意した。
そんな黒瑛の耳に、ぶつぶつと何か言っている声が聞こえてそちらを見てみると、口論を続ける二人の妃を見ながら燕春がにたりと笑って何やら呟いていた。
「ふふ、いい、いいですわ。皇后様を小馬鹿にした秋麗様は気に食わないと思いましたけれど、でも、それもある意味良い味になるやもしれません。それに、冬梅様のあの凛々しさときたら、陛下にも負けない美青年ぶり! 皇后様の三角関係が? 当て馬秋麗の動向も目が離せませんわ! ああ、どうしましょう! 妄想がとまらないです!」
黒瑛はめまいがしそうなのを堪えて皇太后を見ると、疲れた顔にかろうじて笑みを浮かべて固まっている。
普通の感じの妃がきてほしい、そう言っていた皇太后の願いは叶わなかった。
黒瑛ははあとため息を落とす。
「四大州長の血縁者というのは、変わり者しかいないのか?」
黒瑛の小さい嘆きは、二人の妃の口論の喧騒に押し流されて消えていったのだった。
【大事なお知らせ】
『後宮茶妃伝 三 寵妃の愛で茶が育つ』が、今月1月14日(土)発売します!!パフパフ
お茶で後宮と国を救って陰謀も解決する系の妃様が無双するお話です!
どうぞよろしくお願いします!
あらすじ
青国の茶道楽妃・采夏の機転により皇帝・黒瑛への帝位簒奪を未然に防ぎ、後宮が落ち着いたころ。新たな妃が二名入内した。絶世の美妃・秋麗と男装の麗人・冬梅だ。出会い頭から折り合いの悪い二人に頭を抱える黒瑛だったが、采夏は茶飲み仲間が増えたと喜ぶ。
そんな折、青国に西方の大使が来訪する。お茶でもてなそうとする采夏だが、希望されたのは今は存在しない“幻の白茶”で……!?
さらに、水害が采夏のせいと噂されたり、新たな妃が原因で黒瑛とすれ違ったり。采夏は数々の困難をお茶の力で乗り越えられるのか!?









