燕春、震える
多忙を極めた黒瑛だったが、采夏とお茶を喫した後、己の不摂生を自覚したことで無理をしなくなった。
忙しいことには変わりないが、以前と比べると顔色も良く体調も健やかに過ごしている。
そして黒瑛の取り急ぎの仕事が落ち着いた頃、以前より打診のあった北州の族長から、娘が一人後宮に入った。
歳のころは、十四。名は呂燕春。北州を治める呂家の末の娘である。
艶やかな黒檀のような真っ直ぐな髪が印象的な、まだ幼さを残した顔立ちをした少女だった。
真っ直ぐに切られた前髪の下に見える瞳は、どこか所在なさげにそわそわと周りを窺っている。
皇后である采夏と皇太后の元に挨拶に来ているはずなのだが、終始おどおどしているだけで一向に名乗ってすらこない。
そんな燕春を見て采夏は首を傾げながら、口を開いた。
「えっと、北州の黄家から来てくれた呂燕春様であっているかしら?」
采夏がそう語りかけると、燕春はびくりと背筋をのばした。
「は、はい……。呂燕春、です。……よ、よろしくお願いします」
ぼそぼそと独り言のように挨拶を述べると、燕春は視線を逸らして再び背を丸めた。
どこか怯えるような様子に、というか皇后と皇太后を前にするには少々不作法な彼女の振る舞いに、皇太后は目を丸くする。
「なんだか、思っていたのと違う雰囲気の娘がきたわね……」
思わず小さくそうこぼしてしまうぐらいには、皇太后も戸惑っていた。
北州は青国の四大州の一つ。その地を収める呂家は采夏の実家である茶家と同じ名家だ。
茶道楽過ぎてちょっとよくわらないことを言いがちな采夏ですら、名家出身ということで一通りの教育は受けており、一つ一つの動きや話し方等は洗練されている。
しかし皇太后の目の前で終始ビクビクしている娘は、可愛らしくはあるがどこかの農村から攫ってきたと言われても納得してしまいそうな雰囲気でめんくらってしまう。
皇太后が戸惑っている中、采夏は楽しそうに燕春を見やった。
「お茶は好きかしら?」
「お、お茶は、それなりに……好き……です」
やはりボソボソとした話し方は変わらない。
だが、采夏はそれなりに好きと答えた燕春の言葉に満足そうに頷いた。
「それは良かったです。それなら燕春妃もここの生活が気に入いるわ。だって、後宮は燕春妃も大好きなお茶が飲み放題なのだもの」
燕春がボソボソと答えた『それなりに好き』は采夏の中で『大好き』に変換されていた。
後宮の良いところがお茶が飲み放題なところだと紹介する采夏に、皇太后はわずかに頭痛を感じてこめかみを抑える。
燕春は、采夏の言葉に目を瞬いた。先ほどまで怯えの色しかなかった瞳に、わずかに驚愕を滲ませながら。
◇
黄燕春は、とても気の弱い娘だった。
青国の北方にある広大な地、北州。そこを治める呂家の末娘である燕春は、箱入りに育てられた。
加えて気の強い姉達が側にいたこともあって、自分の意見を主張する機会もなく、燕春はいつも誰かの影に隠れているような立派な人見知りに成長した。
とはいえ、燕春は北州長の娘。極度の人見知りでも、それほど教養がなくとも、良い縁談は山ほどある。
少々不作法であろうとも、燕春の後ろ盾を考えれば誰も燕春を邪険に扱えないのだ。
だから、いつか誰かの家に嫁いで今までと一緒で家の中で引きこもって暮らしていくのだろうと、ただ漠然と燕春は思っていた。
思っていたのだが……宮中で政変が起きた。
朝廷を牛耳っていた宦官が倒され、名実ともに皇帝の親政が始まった。
当初はこの出来事を、物語のように書かれた書物で知った燕春は、強く若い皇帝に胸をときめかせ、彼を支えたという皇后采夏に憧れを抱いた。
燕春の唯一の趣味と言えるのは読書だ。
年相応に恋物語などが好きで良く読んでいた。
今回の政変劇は、小説家の格好のネタだったようで、こぞってそれを元にした恋物語が世に出ているのだが、燕春はそれらの物語を全て読破するぐらいには新皇帝の恋物語を愛好していた。
日夜、皇帝と皇后の物語を読み耽っては、私もこんな恋がしたい、なんて呟いて悦に浸っている毎日。燕春にとって、皇后も皇帝も遠い世界の物語の登場人物であり、雲の上の存在。
そうやって燕春なりに日々を楽しんでいたというのに、まさかこの物語に自分が関わることになろうとは、思ってもみなかった。
皇后である采夏は南州長の娘。
今回の政変劇に、南州は多大な力添えをし、その娘が皇后として立った。
そのことで、他の西州、北州、東州の長は焦った。
東西南北の州長は今までその力が拮抗していた。だが、このままでは南州にばかり力がついてしまう。
慌てた南州以外の州長たちは、自分たちの一族から年頃の娘を後宮に入れることに決めた。
そうして北州を代表して選ばれたのが、燕春だった。上の姉達はすでに嫁いでおり、嫁入り前の年頃の娘が燕春しかいなかったのだ。
まさに晴天の霹靂。
嫌だと言いたかったが、親にすら人見知りをする燕春に言えるはずもなく。
別の世界の出来事だと思っていた場所に、燕春は放り込まれることになったのだ。
燕春は少々脚色された政変劇の書物を読み漁り、そして時には脳内の妄想を働かせて、皇后と皇帝が相思相愛であることを知っている。そんな二人の間に割って入るのが、自分だということに目眩がした。
加えて、後宮は魔窟だと聞いてる。
これももちろん書物の知識なのだが、上級妃は新入りの妃をいびり、時には皇帝の寵を得るために他の妃の命を奪う。
皇后と皇帝が相思相愛であること、己がそのお邪魔虫であること、そして後宮とは恐ろしい戦場であるということ、それらの考えがぐるぐると燕春の中で反芻されて、彼女が導き出した答えは……。
(殺される……)
燕春は注がれたお茶を見つめながらそう悟った。
皇后に誘われて、皇后と二人で茶会を開いているところだった。
手ずから皇后が茶を淹れてくれたのだが……。
(きっと、このお茶には、毒が入っているんだ……)
皇帝との愛の邪魔者である燕春を、早速皇后は排除しようとしている。
さすが後宮。入って数日で毒殺されることになるなんて、と燕春は恐れ慄きながらも毒の入っているであろう蓋碗を手に取った。
毒があると思うのなら、飲みたくないと突っぱねられたらいいのだが、燕春にそんな勇気があるはずもなく、静かに心の中で毒茶をあおる覚悟を決めていた。
(うう、思えば、特に楽しいことなんてなにもない人生だった。気になることといえば、愛読してる恋物語の続きが読めなくなることぐらいで……)
そう考えながら、無意識に燕春は胸元へと手が伸びる。ここには、お守りを忍ばせていた。
お守りの中身は……毒。
燕春は、皇后にいびられて拷問のような責苦の上で殺されるのだけは嫌だった。故にこっそり毒物を後宮に持ち込んでいた。もちろん誰かを毒殺する目的ではなく、服毒自殺するためのものである。
(そうだ。前向きに考えたら……変に拷問されるよりも毒茶でコロッと死ねるのなら、それはそれで幸運なのかもしれない……)
燕春は必死に変な方向へと自分を励ます。
「どうかしましたか? この龍井茶、明前に摘んだ茶葉で、本当に美味しいですよ」
「ひぃっ!」
唐突に皇后采夏に話しかけられて、思わず悲鳴をあげた。
燕春のみっともない悲鳴に皇后は一瞬目を見開いて驚いたようだが、すぐに笑顔で頷いた。
「分かります。本来、皇帝陛下にしか飲めない明前龍井茶を前にして緊張してしまう気持ち」
うんうんと皇后はそう言ってしたり顔だが、全然違う。
「ですが、そろそろお飲みにならないと、蒸らしすぎてしまうかも。もちろんお好みもあるので蒸らしすぎたほうがお好きというのなら余計なことですが」
と笑顔でお茶を飲むように促された。
もう逃げ場はない。
燕春は恐る恐る蓋碗の蓋をずらす。ほかほかとした湯気が顔にかかった。
この茶を飲めば、死。
燕春の死を意味する濃い黄色の液体を見て、思わず燕春は震え上がった。
手の震えに合わせてカタカタカタと、蓋碗の音がなる。
「まあ、こんなに揺らして……まさか碗を細かく揺らすことで、より茶葉から旨みを引き出そうとしているのですか? なんという発想、そしてその技術……素晴らしいが過ぎますね!」
「いや、そうじゃないと思うけど……」
皇后の感心したような声とその侍女の心配気な声が室内で響くが、それどころじゃない燕春の耳には入らない。
(お父上、お母上、そして兄上達に姉上達、先立つ不幸をお許しください……!)
覚悟を決めて目を瞑り、ひとと思いにと蓋碗の茶を全て飲み切った。
ゴクゴク、ゴクリ。
お茶は熱いが火傷するほどでもない。
問題なく嚥下すると、舌の上にお茶の苦みと渋みを感じた。そして遅れてとろりとした甘み。
とはいえお茶の美味しさを感じ入る余裕のない燕春はいつ毒が身体中を回るのか、いまか今かと待ち構えるばかり。
しかし、一向に毒の効果は現れない。
「まあ、素敵な飲みっぷりですね! それに碗を揺らすことでより茶葉から旨みを引き出すという試みには感動しました。もう一服どうですか?」
明るい皇后の声に、燕春は恐る恐る目を開ける。
「え? あの、このお茶は……? えっと、私、いつ死ぬんですか?」
遅効性ですか? 疑問が思わず口から出る。死ぬつもりで飲んだのに死んでいない。
燕春は混乱を極めていた。
「死ぬ……? ああ、分かりますよ! 美味しいお茶を飲むと、このまま昇天しそうになりますよね! 分かります分かります。私は美味しいお茶を飲んで昇天しそうになることを尊死と呼んでいるのですが、お仲間がいて嬉しいです!」
本当に嬉しそうな声ではしゃぐ皇后に燕春はますます混乱した。
(尊死って何? 服毒死では……?)
「皇后様、落ち着いてください。なんだか誤解がありそうなんですけど。ちゃんと話あった方がいいのでは?」
という落ち着いた声色を捉えて燕春がそちらを見れば、皇后の侍女が呆れたように皇后を見ていた。
そしてすぐに燕春にちらりと視線を送ると同情するように視線を和らげる。
「あの、燕春妃様、少し誤解があるようなのですが……別にお茶に毒なんて入ってませんよ?」
「へ!?」
侍女から冷静に告げられた言葉に燕春は再び情けない声をあげる。
侍女はその反応を見て、「やっぱりそう思ってたのですね」と疲れたように首を振った。
「お茶に毒、ですか? ああ、分かりますよ。お茶の美味しさと言ったら毒と言って差し支えないかも知れません。本当に、甘美という名の毒。一口飲めば思わず虜になってしまうのですからこれほど恐ろしい毒がありましょうか」
「皇后様、ちょっと黙っててもらえますか? 場が混乱するんで」
恍惚の表情で皇后が口を挟むとすかさず侍女が睨みつけた。
二人の会話を見ながら、もしかして本当に毒なんて入っていないのでは? と思い始めた燕春だが、しかしまだ信じきれない。
戸惑う燕春を見て、皇后は訝し気に首を傾ける。
「どうされたのですか? 顔がこわばっていらっしゃいますね……」
皇后は心配そうにそういうと、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
そしてハッとしたように顔をあげる。
「私としたことが、後宮に来たばかりの燕春妃様に初手で明前の龍井茶をお出ししてしまうなんて……! 明前の龍井茶はおいしいですが、こう、皇族の権威! みたいな格式の高さを感じますよね、すみません。少々考えが足りませんでしたね」
「え、あっ……そういう、そういうのではなく……」
皇后のしゅんと落ち込んでる様子に思わず何か言おうとしたが、うまく口に出ない。
(何故かよくわからないけれど、私のせいで落ち込んでいらっしゃる?)
そんなことを考えて縮こまっていると、唐突に皇后は良いことを思いついたとばかりに顔を綻ばせて両手を打った。
「私に挽回の機会をくださいませ。燕春妃様が楽しく飲めるようなお茶をお淹れしてみせます」
「え……? お茶……?」
またお茶の話だ。先ほどから何故お茶の話ばかりなのだろうか。
毒はもういいのだろうか。燕春はよくわかっていない。
戸惑う燕春に気づかず、皇后はお任せください! とばかりに笑みを浮かべて力強く頷いた。そして隣の侍女は疲れたような顔をして首を振っていた。
「燕春妃様、お待たせしました。こちらのお茶をどうぞ」
そう言って、新たに別の茶葉を入れた蓋碗が卓に載る。
「は、はい……」
燕春はあいまいに返事を返してその蓋碗の蓋をずらした。
先ほど飲んだ龍井茶と言われたものよりも少し黄色みが濃い。
湯気とともにふっくらとしたお茶の香りが漂ってくるが、それほどお茶に精通していない燕春には龍井茶との香の違いはよくわからなかった。
ふと視線を感じて顔を上げれば、皇后と目があう。
何も言ってきてはいないが、キラキラと輝くような瞳から、お茶飲まないんですか?飲まないですかー? という無言の圧力を感じる。
燕春はゴクリと唾を飲み込んだ。
(もしかしたらこのお茶にこそ毒が入っているのかも……。さっきのお茶は私を油断させるための罠)
一体何のための罠なのか。冷静であれば自分が思い違いをしていることに気づいたかもしれないが、残念ながら今の燕春は冷静ではない。
一度固めた死の覚悟を再び引っ張り出して、燕春は蓋碗に口をつけた。
(あ……この、味、知ってる……)
死を覚悟して口に含んだところで感じたのは、懐かしさ。
ふうわりと舌の上に広がる渋みはどこかまろやかで、微かに果物のような味わいを感じる。
よく舌に慣れ親しんだ味だった。
それとともに、今まで燕春が読んできた物語が思い起こされる。
(そうだ、この味。実家でよく飲んでいたお茶の味だ。このお茶を飲みながら、書物を読んでいて……)
昼下がり、窓辺に座って書物を広げる。そばに置いた小さな卓には、お茶の入った碗と甘いお菓子。
暖かな太陽に照らされ、時には爽やかな風を感じながら、書物を読み耽る。
口寂しくなったら甘い菓子を頬張り、甘くなりすぎた口を整えるためにお茶を飲む。
そこには確かに、幸せがあった。
先ほど、人生にいいことなんて一つもなかったなどと悲観していたのに、こうやって思い返せばどれほど満ち足りた日々を過ごしていたのかが身に染みてくる。
「こちらは燕春妃様の出身地、北州の道湖省で育てられている碧螺春です」
「碧螺春……」
北州の碧螺春と言えば、青国内でも有名な名茶である。
北州原産のそのお茶は、同じく北州出身の燕春にとって馴染み深い味だった。
二口、三口、燕春はそのお茶を味わって、ほ、と息を吐き出した。
思わず漏れ出たその息ともに、身体中から緊張が抜けていく心地がする。
「落ち着きます……」
自然と言葉が漏れた。
今までずっと、慣れない後宮での生活に気持ちが張り詰めていたのだと改めて気付かされた。
今まで毒やら殺されるやらと悪い想像ばかりをしてどんどん心に余裕を無くしていた燕春に、故郷を思い出させる碧螺春の味は心のゆとりを与えてくれた。
「ただ今年は虫害が酷かったみたいで、碧螺春の新茶は後宮にも回ってこなくて……本当に残念です」
と本当に悲しそうに呟く皇后の言葉に燕春は顔を上げた。
「虫害? あ、そういえば、父上がそのようにぼやいていたかもしれません……」
碧螺春の産地、道湖省の管理は、燕春の叔父が任されている。
以前その叔父が、申し訳なさそうに謝罪に来ていた。
あれはきっと碧螺春を虫に害されたことへの謝罪だったのだろう。
「今年の新茶が楽しめないのは残念ですけれど、燕春妃様にとっては昨年摘んだ碧螺春の方が馴染み深いでしょうから、かえってよかったかもしれません」
どうやら先ほど出された碧螺春は、昨年摘んだ茶葉のものらしい。
言われてみれば、昨年読んだ書物のことがやけに鮮明に脳裏に浮かぶ。
このお茶を飲みながら、書を読んでいたからだろうか。
そう、昨年読んでいた書は、今も大流行している皇帝と皇后の政変劇の物語で……。
と思い起こして、燕春はハッと息をのんだ。
(そうだった。私は、皇后様にとって……)
「皇后様、で、でも……わ、私は、皇后様にとって邪魔者ではないですか……?」
それなのに、どうして優しくしてくれるのだろうか。
多少口籠もりながらも、燕春は最後まで言葉を口にした。
本来なら、性格上絶対に口に出せなかった疑問だが、先ほど飲んだ碧螺春が緊張で乾いた燕春の口の中を潤してくれた故に、いつもよりもするりと言葉が出てくる。
「邪魔者? 何故? 私は一緒にお茶を飲める方が来てくれて、本当に嬉しいのに」
優し気な仙女のような声が降ってきた。その声は間違いなく皇后の口から発せられていた。皇后は手に蓋碗を持って微笑んでいる。
(なんて、綺麗な人なのだろう……)
燕春は唐突にそう思い、目の前の人に見惚れた。
そして書物で読んでいた政変劇の物語が再び鮮やかに色づいて脳裏を巡る。
優しく美しい采夏妃が、その献身でもって皇帝を救う。
悪役にその身を捕らえられて人質にされても、一歩も引かず恐れず、皇帝のことを第一に思い続けていたという。
燕春の中で、書物に描かれた物語が実際に見てきたかのように巡ってゆく。
(ああ、そうだわ。私が夢中になった物語の登場人物である皇后様は、私なんかがきたところで何も動じないのだわ。だから私を殺そうとするはずもない。だって、二人は相思相愛。私なんかが間に入り込む余地なんかない。ああ、私はなんて愚かな妄想に取り憑かれていたのだろう。というか、待って……。もしかして、私あの物語の続きをこのまま生で見れるということでは……? 皇后と皇帝の行く末を、生で! 直に!!)
いきなりぱああっと目の前がひらけた気がした。
皇后とともに歩む光の道が見えてくる。
後宮に来てからずっと悲観していた燕春に唐突に照らされた光。
あまりの眩しさに思わず燕春は目を細めながら皇后を見つめて、口を開いた。
「皇后様、私、これからずっと皇后様のお側にいたいです」
ひとつも吃ることなく、燕春はそう告げた。
今までのおどおどした様子が消え去り、皇后の侍女が思わずと言った様子で驚いたように目を見張る。
「まあ、ずっと? もしかしてずっと私とお茶を飲んでくださるということでしょうか? 嬉しい! それでは早速新しいお茶を淹れないと! あ、どのくらい飲めますか? ちまちま蓋碗で淹れるより、いっそ壺で作りますか!?」
異様にテンションの上がった皇后に燕春も嬉しくなってうんうん頷く。
「皇后様が淹れてくださるお茶なら何杯でも飲めます。最後まで皇后様にお付き合いします!」
少し前までのおどおどした様子はまったくなくなり、意気揚々と燕春がそういうと、侍女が険しい顔をして首を振った。
「死ぬつもり!? 皇后に付き合ってお茶飲んでたらお茶の飲み過ぎで死にますよ!?」
必死の形相で訴えてくる侍女の姿はもう燕春の目には入らなかった。
(お茶を前にしてきゃっきゃしてる皇后様、尊い……)
そう言って瞳を潤ませて、そして出されたお茶を飲み干して、飲み干して……。
気づけばお茶を飲みすぎて倒れてしまい、隣で皇后の侍女が「だから言ったじゃん……」と呆れた声が聞こえてきたが、それでも燕春は幸せだった。









