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後宮茶妃伝 ~寵妃は愛より茶が欲しい~  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
寵妃は愛より茶が欲しい

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37/90

陸翔は気づく


「しかし、驚きました。あの桂夕にあそこまで言わせるとは……」

 陸翔が、満足そうに微笑みながらそう言ってお茶を口に含む。


 桂夕は黒瑛に嘆願した後、眠るようにそのまま倒れてしまった。

 病み上がりの体に無理をしたのだろう。

 使用人に言って再び桂夕を寝所に運ばせ、またこの部屋には黒瑛達と陸翔の四人のみとなった。

 こぽこぽとお湯を注ぐ音が聞こえる。

 采夏が新しい茶葉を碗に入れて茶を淹れていた。


「楽しそうだなぁ陸翔」

「ええ、それはもう。教え子の成長を目の当たりにした時ほど、胸に来るものはありませんよ。少々悔しいのは、桂夕を奮い立たせたのが私ではなく、陛下と采夏妃のおかげということでしょうか」

「俺は別に何もしてねぇよ。どちらかといえば采夏妃の茶だろ。出涸らしのことで熱くなった時はどうなることかと思ったが、それがきっかけで桂夕の目が変わった」

「それを言うのなら、おいしい出涸らしのおかげですよ、陛下。おいしいお茶には、力があるのです」

 のんびりと采夏はそう言うと、陸翔は思わず顔をほころばせた。


(陛下が妃を連れてきていると分かった時は、どうしたものかと思いましたが、なるほど。彼女には何とも言えない力がある。皇太后様が連れて行った方がいいと言ったのも頷けますね)

 陸翔が興味深く采夏を見ながらそう考えていると、黒瑛が「陸翔」と名を呼んだ。

 そちらを見るとまっすぐと射抜くように見つめる黒瑛と目が合った。


「お前も、俺のやろうとしてることには反対か?」

 唐突に黒瑛に尋ねられて陸翔は目を丸くする。


「いいえ、私は、そのような……」

 何か言いかけた陸翔に黒瑛が睨みつける。


「俺の前で嘘をつくな。この桂夕って奴が、お前の言いつけを破って他の使者を戻して外に飛び出した時、何かしたか? 俺が桂夕に騙されて龍弦村に行っていたとしたら、俺の計画は失敗に終わってただろう。そうと分かっていて、お前ほどの男が何も手を打たないわけがない」

 黒瑛の言葉に陸翔はぱちぱちと目を瞬かせ、そして笑った。

 どうやら見抜かれていたらしい。


「陛下は、本当に成長なされましたね」

 しみじみと言う陸翔に、ずっと黙って聞いていた坦がガタンと音を立てて立ち上がった。


「まさか、陸翔殿! 陛下を見捨てるおつもりだったのですか!!」

「落ちつけ、坦。どうせ陸翔のことだ。見捨てるっていうか、試したんだろう、俺を」

 黒瑛が呆れるように言うと陸翔はにやりと笑った。


「本当に聡くなられました」

「っは。お前は隠居してる間に性格が悪くなったな。で、試した結果どうだった」

「龍弦村に行かずこの場に辿り着いた天運、そして桂夕に見せた覚悟。お見事、と言う他ありません」

 そう言って額の前に拱手きょうしゅして頭を下げた。


「そして最後に私の愚行を許すという慈悲を見せていただければもう言うことがありませんね」

「まったく、ぬけぬけと……。お前なくして秦漱石は討てないの分かって言ってるだろ?」

「いいえ、そのようなことは。私も、恐ろしいのですよ。……士瑛様を失ったのは、私の無力のせいなのですから」

 陸翔のその言葉に、黒瑛は眉を顰めた。


「陸翔、違う、それは……」

「慰めの言葉は不要です。桂夕の不安は、私の不安でした。しかし、陛下はそれを払ってくださった。この命尽きるまで、心から忠誠を誓い、必ずや望みを叶えて見せます。むざむざと士瑛様を死なせてしまった私が、お側にお仕えすることをお許しいただけますか」

 珍しく陸翔が緊張していることが、黒瑛には分かった。

 拱手した手が微かに震えている。


「……許す」

「ありがとうございます」

「へ、陛下、陸翔殿……ぐす! 熱い絆で結ばれたのですね!! ぐす!」

 坦は、なんとなくノリで泣いた。


「いつまで拱手してるんだ。話したいことがまだある。楽にしろ」

 黒瑛がそう言うと、はいと短く返事を返して陸翔が椅子に座り直す。

 迷いの吹っ切れたいい顔をしていた。


「もう北州の軍のみでもいい。動きたい。勝てる見込みはあるか?」

 簡潔な黒瑛の言葉に、陸翔は顎の下に手をやり、少しばかり思案した後に口を開いた。


「桂夕の協力で、おそらく北州のほとんどの軍備を借りることができましょう。故にまったく勝てないとは言いませんが、しかし、厳しい戦いです」

「だろうな……。だが、やるしかない」

 黒瑛は腕を組み直して背もたれに寄りかかった。

 味方は増えたが、それでも微々たる助力に過ぎず、中央の政治を握っている秦漱石には届かない。

 だが、それでもやるしかない。


 嫌な沈黙が続く中、ひたすらお茶を楽しんでいた采夏がハッと顔を上げた。


「あれ? もうお湯がない! あの、私、お湯を貰ってきてもいいですか?」

「采夏妃、さすがに茶を飲み過ぎではないのか! 今大事な話をしてるんだぞ!」

 坦が呆れたように言うが、采夏は全く気にせず陸翔を見る。お湯いただけます?の目で。


「お湯ですか? ええ、もちろん。すぐに持ってこさせましょう」

「あ、私も一緒に手伝います。二瓶分ぐらいは欲しいので」

「え……二瓶もお湯を用意してどうするのです?」

「え……お茶を飲むに決まってると思うのですが?」

「……二瓶も飲むんですか?」

「もちろんです」

「信じられないだろうが、こいつが飲むと言えばマジで飲むからな。お前が持ってる茶葉が全部なくなる覚悟しといた方がいいぞ」

 黒瑛が横からそう口に出すと、おやと言う顔をして陸翔は笑った。


「ははは、それはすごい。それほどの飲みっぷり、逆に見てみたいですね。これはかの有名な南州の茶狂い姫といい勝負をするかもしれませんよ。それでは、外にいる者に言って台所まで案内してもらってください。湯は台所で用意できますので」

 陸翔にそう言われて、采夏はぱあっと花が咲いたように顔を綻ばせると、いそいそと部屋から出ていった。


「いやあ、可愛らしいお嬢さんですね」

「何だよ、その顔」

「いえ、なかなか隅に置けないなと思いまして。それにしても、彼女は結構良い家の娘さんなのではないですか? そこかしこで品の良さがありますし。どうやって捕まえたのです?」

「別に名家の出ってわけじゃない。南州にある茶農家の娘らしい。そもそもいいところのお嬢ちゃんが、あの後宮に入れるわけがないだろう? 秦漱石の篩に掛けられる」

「それもそうですね……ん?」

 陸翔は途中で何かに引っかかったのか、首をひねった。


「南州の采夏……? それにあの、茶に対する異様な執着……まさか」

 そう言って陸翔は黒瑛を見た。


「陛下も人が悪い。奥の手があるのでしたら、そうおっしゃってください。私としたことが、まんまと騙されました」

 破顔してそう言う陸翔に、黒瑛は訝しみながら首をひねる。


「は? 何を言っているんだ?」

「なんです? まだ続けるつもりなんですか? もうそんな暇はないでしょう。すぐにでも、秦漱石を討ちに行かないといけないのですから」

 まるで胸のつかえがとれたみたいにすっきりした顔の陸翔が笑いながらそう言った。


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